中国全人代に予想されること:ブラックボックス化する中国

中国の国会にあたる全人代(全国人民代表大会)が5日から11日まで開催されます。年に一度の行事でありますが、今後の中国を占う上でその行方をある程度理解することは重要だと思います。特に今年はアメリカの大統領選もあることでそれを意識をした内容になるかと思います。折しもこれを書いていた北米時間の4日早朝、トランプ大統領の大統領選出馬に関するアメリカ連邦最高裁の判断で出馬可能と全会一致で出たことで中国とアメリカの政治的な軋轢が再び起きる可能性が高まったともいえ、習近平氏の打ち出す内政と支配の行方が注目されます。

私の見る今回の全人代の注目点です。

  1. 経済成長率の見通し5.0%は可能か
  2. 王毅氏が兼任している外務大臣を誰かに指名するか?その場合、劉建超氏か?
  3. 李強首相が恒例の全人代最終日の記者会見をしないのは何故か
  4. 改正国家秘密保護法

このあたりを見てみます。

習近平中国国家主席 中国共産党HPより

まず、中国の成長率ですが、西側諸国の予想は4.5-4.6%程度となっていますが、中国としては5.0%を目ざす可能性は高いと思います。この背景には低迷する国内経済、特に不動産問題や特に若年者層にみられる就業率問題、更には低迷する株価を踏まえ、中国政府として今回の全人代でインパクトある経済支援パッケージを打ち出すものと思われ、その上乗せ分で5.0%は達成できるという目標を出すものと考えています。

経済支援パッケージは以前から大型のものが囁かれています。上海株価指数でみると2月5日に2700ポイントと最低を付けた後、急速に切り返しており、現在は3000ポイントを回復しています。株価指数的には2016年ぐらいからずっとこの3000ポイント前後をうろついており、いわゆるコンフォートゾーンになっています。政府としてはここから上に抜け出したいという意向があるのだとみています。

ただアメリカ大統領がトランプ氏になった場合、中国からの製品に超高率関税政策を打ち出していることから中国としては貿易のう回化を進める必要があります。一時はベトナムがその拠点の役割を果たしていましたが、現在はメキシコにもシフトしているようです。日経ビジネスは「ニアショアリング(地理的に近い場所を戦略的エリアとすること)」という目線で中国のメキシコ進出を報じています。2023年のアメリカ向け輸出トップはメキシコ、2位がカナダ、中国は20年間トップを保ったのち3位に後退しました。しかし、中国がメキシコをう回地とする可能性は高く、トランプ氏が大統領になれば原産地規定をどう見直すか注目されます。特にテスラのメキシコ工場がメキシコ第2の街、モンテレイ郊外に建設予定ですが、同社の協力企業には中国系の会社がずらりと並ぶとされます。

そもそも中国の統計資料や目標値の信ぴょう性が昔から疑念視されている中で5%は一つの心理的目標になるでしょう。それとこの数字を信じるかどうかは別としてそれでも5%台を維持するのはあれだけの図体の国家としては並大抵ではないこともまた事実であります。

次に外務大臣の件ですが、王毅氏は昨年夏に秦剛氏が外相を解任されて以降、兼務という形で業務を行ってきましたが、さすがもう体力の限界と時間的制約で「あぶはち取らず」の状態になっていることから今回の全人代で外相が指名されるとみられています。候補の最右翼は党中央対外連絡部の劉建超部長となる可能性が高いとされます。劉氏はすでにアメリカでブリンケン国務長官らとも会合をこなし始めており、「顔見世」をしているとされます。オックスフォード出の劉氏の手腕はまだ未知でありますが、少なくとも外相が指名されれば中国外交が展開しやすくなり、かつ、トランプ政権になった場合の激しいバトルにおいて実務の最前線に立つという意味で極めて重大なポジションとなるでしょう。

3つ目の李強氏が全人代最終日に記者会見をせず、たぶんそれは数年は続くだろうという発表です。これを事前に打ち出すのもおかしな話という気もしますが、個人的には習近平氏が李強氏のプレゼン能力を信用していないのではないか、という気がしています。中国のトップは半ば神聖化されているので誰かから質問をされるというシーンは極力避け、その代わり、首相がそれを代弁するという慣習が少なくとも1988年頃から続いていたとされます。今回、その長年の慣習を打ち切ったのはやや腑に落ちないのです。

中国がディスクロージャ―をより後退させるという意味だとすればより一層、中国がブラックボックス化するわけで西側諸国の中国警戒網はさらに厳しいものになるでしょう。仮に李強氏への不信感が習氏に多少でもあるならば李強氏は単なるお飾りということになります。この辺りが習近平帝国権力構造の一部を判断するところになりそうです。

最後に国家秘密保護法の改正ですが、これは2月下旬の全人代常務委員会で改正法を既に可決しております。改正反スパイ法とコンビで習氏が国家安全を万全の体制で固める方針でしょう。改正国家秘密保護法は習氏の「総体国家安全観」なるものが明記され、秘密保護を行政部門が単独決定できるほか、インターネット上の情報規定が明記され、ネットワーク運営者に対する情報管理強化と行政への協力の義務化、更には海外への情報流出防止策や公教育を通じて国家秘密保護教育をまい進させるなどわれわれ日本人が読めば唖然とする規制が敷かれることになります。

中国は全人代を通じて独自路線化をより鮮明にしていき、政治のデカップリング化を推し進めると同時に経済においてはあらゆる手段を使い、世界への影響力を維持する、そのような体制強化を目指すことを誓う大会になるとみています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年3月5日の記事より転載させていただきました。