モロッコ諜報機関がスペインの首相らの携帯を盗聴していた
スペインのサンチェス首相と夫人、マルラスカ内務相、ロブレス国防相の4人の携帯が、モロッコの諜報機関が使っているスパイウェア「ペガサス」によって2020年頃から盗聴されていたことが2022年5月に明らかにされた。
が、その内容はメディアでも未だに解明されていない。しかし、それ以後のスペイン外交は180度転換してモロッコに有利な外交になって行くのである。
モロッコに有利になって行くスペイン外交
スペイン外交がモロッコに有利になった具体例を2つ以下に明示したい。
そのひとつは、この盗聴がメディアで明らかにされるひと月前の2022年4月、スペイン政府は突如モロッコに西サハラの領有権を認めることを公にしたのである。それまで半世紀近くのスペイン外交は西サハラの領有権は、西サハラ住民にる住民投票によって決めるものとしていた。この姿勢は国連決議案1514号に基づくものである。
ところが、サンチェス首相政権はこれまで半世紀守って来たこのスペイン外交の姿勢を、議会の承認もなく突如転換させてモロッコに領有権を認めるとしたのである。
なぜそのような決定をしたのかスペイン政府からの説明は一切ない。西サハラには天然資源が豊富に埋蔵されている。だからモロッコは長年自国の領土にしたがっていた。
スペイン政府のこの決定に憤慨したのはアルジェリアである。同国はモロッコと対立関係にあり、また西サハラの独立の為に戦っているポリサリオ戦線を支援している。だから、今回のスペイン政府の独断的な決定が理由で、今もアルジェリアからの天然ガスの輸入は最盛期の半分の量にされている。
もうひとつは2月19日筆者が「スペイン治安警察と麻薬組織との熾烈な戦い」で記事にした内容に関係している。この記事の中で150名から成るエリート治安警察部隊(OCON)を別の地域に移したことに言及した。この部隊の撤退は、ジブラルタルを挟んだ大西洋と地中海沿岸に麻薬の密入を阻止する能力を半減させることは明らかであった。が、マルラスカ内務相はこのエリート治安警察部隊を別の場所に移転させたのであった。
このエリート部隊が活動していた期間中に押収した麻薬は1400トンに及んでいる。また麻薬に関係した人物を延べ1万人拘束するという実績も持っていた。だから、麻薬密輸業者も治安警察部隊の偵察船を警戒して近寄ろうとはしなかった。今回バルバテ港で発生したように麻薬業者の大型ボートが治安警察官のボートに襲いかかるといったことは以前だと絶対に起きることはなかった。
なぜエリート治安警察部隊を移転させたのか
エリート治安警察部隊を配置換えさせたのは次のような理由からである。
実はモロッコはハシッシュ(大麻樹脂)の生産では世界の50%を生産しており、それ以外の麻薬も生産している。それを国家が支援しているのである。この政府の庇護で9万世帯が生計を立てているとされている。
したがってそのスペインへの密入を阻止する能力の高いエリート治安警察部隊の存在は、モロッコにとって邪魔なのである。今ではこのエリート治安部隊の不在で、麻薬密入業者は活発な動きを見せている。
スペイン政府の首相以下3名は脅迫されている
何しろ、この二つの件が常識では理解できないスペインにとって不利な決定だとうこと。スペインのメディアではこの盗聴によってモロッコ政府はスペインの首相以下他3名の急所を掴んで脅迫していると推察している。
更に理解できないのは、スペイン政府はモロッコ警察に700万ユーロを寄付しているのである。スペインに不法移民が入国することを阻止してもらうことが狙いであるとされている。ところが、逆に不法移民は年々増加している。
またスペイン治安部隊が沿岸警備に必要な700馬力のボート5隻もスペイン政府はモロッコに贈っている。このボートが正に麻薬密輸ボートに対抗するために治安警備隊が所望していたボートだというのにだ。(2月24日付「リベルターディヒタル」から引用)。
スペインで国民党に政権が代わらない限り、スペイン外交は対モロッコに不利な外交が続くであろう。次期政権は国民党が政権に就くことはほぼ確実であるが、それがいつになるか現時点では不明である。