超過死亡:ずっと減少傾向だった日本の死亡率が2021年以降に増加

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死亡率はずっと減少傾向だったが2021年から増加

グラフ詳細はこちら→【MedicalFacts.info

何回かに分けて超過死亡の話を書く予定だが、今回の記事では超過死亡の話をする前に、日本の死亡率は減少傾向だったということをまずは強調しておきたい。これは、日本の死者は元から増加傾向だったという一般的な認識とは真逆では無いだろうか。

グラフは筆者が構築しているページMedicalfacts.Infoからのもので、2009年の1月から、毎週ごとに、年間死亡率を表示している。例えば数値が1000なら、その週の傾向が一年続けば年間で10万人あたり1000人死亡することになる。基本的に人は冬に多くお亡くなりになる傾向があるので、1月ごろをピークとなる波打つ周期的なグラフになる。周期的な挙動を示しつつ、2020年まで概ね減少傾向だったことが分る。

グラフはe-Statの月ごとの死因別年代別死者データ※1を基にしている。基本は月データを週に分配(複数月に跨っている週も跨った日数に応じて分配)しているだけだが、隣の月との差が大きい場合は、月内の総計が変らない範囲で少しだけ補正している。死亡率算出のためe-Statの月ごとの年代別人口データ※2も用いており、年齢調整(後述)も行っている。

回帰線や予測線については次回説明する。

死者は高齢化により増加傾向だったので高齢化の影響を排除して論ずるべき

  • 絶対数で見れば、コロナ以前も日本では死者は増加傾向
  • 感染研も高齢化の影響とコロナの影響があったことは認めている
  • であれば高齢化の影響を排除して比較すればよい

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次に死亡「率」では無く死亡「数」のグラフを見てみる。こちらの方が一般的によく目にするグラフでは無いだろうか。コロナ以前も日本では死者は増加傾向にあった。コロナ禍が始まった2020年の死亡者は少し減りその後激増した。これは客觀的な事実である。増加の原因は高齢化やコロナの影響だと国立感染症研究所感染研などが示唆しておりNHKでも報道※3された。

高齢者の占める割合いが増えることで死者が増加することは当然であるし、そのために死亡率が上がっていくこともあるのだが、であれば高齢化の影響を排除して比較すればよいだけの話である。

感染研の超過死亡ダッシュボードでは死亡数データのグラフのみ

  • 感染研は超過死亡ダッシュボードを提供
  • 死因別死者が出せるのはよいのだが、死亡「数」のグラフしか提供していない
  • 高齢化の影響を排除できる死亡率のグラフも提供すべきでは?

感染研はコロナ禍を契機に日本の超過および過少死亡数ダッシュボード※4を提供している。しかし高齢化の影響を排除して比較できる死亡率のグラフは提供していない。

確かに超過死亡計算に死亡率データは不要だが、高齢化の影響を排除して視覚的にも比較できる年代別死亡率や年齢調整死亡率も載せるべきでは無いだろうか。

国立がん研究センターは2020年まで死亡率が減少していたと発表

一方で国立がん研究センターは2021年の死亡率増加を論文として発表※5 ※6した。死亡率は年齢調整してある。論文の主旨はあくまで2021年に死亡率が増加したことであるが、同時にそれまではほぼ一貫して減少してきたことも言及しており、グラフからも2021年に死亡率が上がる前に死亡率が減少傾向であったことが分る。

なお国立がん研究センターの発表では、死亡率増加の原因としてコロナの影響には言及しても、ワクチンについては言及されていない。それでも高齢化の影響を排除できる年齢調整死亡率で論じ死亡率が減少傾向であったと言及していることは強調しておきたい。

人口構成と年齢調整について

  • 年ごとに年代ごとの人口、つまり人口構成が変る
  • 人口構成が違う年を比較するため、基準とする人口構成を決めておく
  • 昭和60年モデル人口や、平成27年モデル人口がある
  • 各年代を基準のモデル人口の該当年代の人口に調整することで、人口構成が違う年どうしが比較可能
  • 図表は厚労省のページより

年齢区分が同じなら人口あたり死亡率で比較すれば、異なる年度であっても比較可能である。しかし「複数年代を纏め」て「異なる年度」を比較するときには、死者を人口で割る単純な計算だと比較できない。各年代の人口が変っている、つまり人口構成が違うと、高齢者人口の割合いが高くなった年度の方が死亡率が高く計算されてしまうからである。

年齢調整死亡率(Age-standardized Mortality Rate, ASMR, または Age-Adjusted Mortality Rate)について説明する。先に示した国がんセンターの報道ページにおいても簡単な説明が書いてあるし、WHOでも解説※7されている標準的な手法である。

まず基準とするモデル人口構成を決めておき、ある年度の各年代をモデル人口の該当年代の人口であると仮定し調整する。計算式は図参照のこと。年齢調整した死亡率を比較することで人口構成が違う年同士が比較可能となる※8。基準モデルとして永らく昭和60年モデル人口が使われていたが、国立がん研究センターの論文は近年に制定された平成27年モデル人口※9を用いている。

なお筆者のグラフ作成ではリアルタイムに近いデータが描画できる特徴を活かし、グラフの最終年月人口構成を基準としている。これは次回以降に掲載予定の死亡率から推計した超過死亡数が実際の値に近くなるようにするためでもある。

日本では2020年まで一貫して年齢調整死亡率が減っていた

  • 日本では2020年まで一貫して年齢調整死亡率は減っていた
  • どの年代で見ても概ね同じ傾向で2021年には増加している
  • 感染研は、年度ごとの比較が可能な年代別や年齢調整死亡率のグラフをまずは提供すべきでは?

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グラフは全年齢と幾つかの年齢区分ごとに2009年1月からの死亡率推移を示している。公式のデータの年齢区分は5歳ごと(つまり80〜84歳など)である。提示のグラフの年齢区分(75〜84歳など)は複数の公式の区分データを年齢調整済みで合算したものである。

日本では2020年まで一貫して年齢調整死亡率は減っていた。年代ごとにみても概ね同じ傾向で2021年には増加している。ただし自殺の影響が多い15〜29歳では2020年の途中から急増している。また2011年に見えるピークは東日本大震災の影響である。

感染研は既に提供している絶対数のグラフと共に、筆者が提供しているような高齢化の影響を排除し年度ごとの比較が視覚的に可能になる、年代別や年齢調整した死亡率のグラフも提供すべきでは無いだろうか。

次の記事ではいよいよというか、ようやくというか、超過死亡に関して論じる予定である。

【参考文献】

※1)e-Stat 統計で見る日本 人口動態統計 月報(概数) 月次
※2)e-Stat 統計で見る日本 人口推計 各月1日現在人口 月次
※3)NHK, 新型コロナ「超過死亡」先月は顕著な増加見られず【Q&A】, 2023/06/23
※4)日本の超過および過少死亡数ダッシュボード
※5)国立がん研究センター, 2021年の日本人の全死因死亡率は前年比で2.2%増加 がん(悪性新生物)の死亡率は0.6%減少 COVID-19、老衰、循環器疾患の死亡率増加が全死因死亡率増加の主要因, 2023/08/31
※6)TANAKA, Hirokazu; TOGAWA, Kayo; KATANODA, Kota. Impact of the COVID-19 pandemic on mortality trends in Japan: a reversal in 2021? A descriptive analysis of national mortality data, 1995–2021. BMJ open, 2023, 13.8: e071785.
※7)WHO, Age-standardized mortality rate (per 100 000 population)
※8)厚生労働省, 年齢調整死亡率について
※9)厚生労働省, (参考) 年齢調整死亡率の基準人口について