窓際族、働かないおじさんは勝ち組なのか?

黒坂岳央です。

大企業には窓際族(Windows2000)とか、働かないおじさんと呼ばれる人がいる。年功序列でそれなりに給与をもらっているが、出社して退社するまで何も仕事はない。社内でもあまりに存在感がないので「妖精さん」と呼ぶ人もいるようだ。

実質FIRE状態で会社も首にできないので勝ち組!という意見もあるが、自分はそう思わない。サラリーマンの時期に閑職の部署で似たような立場を経験してそう感じるのだ。

JohnnyGreig/iStock

「逃げ切り」という大きなリスク

「逃げ切り」という言葉がある。最も知られているものは団塊世代は自分たちが支払った保険料以上の年金を受け取れる「逃げ切り世代」などと呼ばれる。また、働かないおじさんも定年まで楽をしながら逃げ切るつもりの人もいるはずだ。

一見、楽をして高給を受け取る逃げ切るという働き方に対して、必死に働く人にとってはずるい!と感じるかもしれない。だがそう単純な話ではない。世界時価総額ランキングに入るような大企業ならいざ知らず、多少大きめの会社であっても変化の速い今は常に倒産リスクを抱えている。かつては誰もが憧れるような大企業も例外ではない。あの東芝が投資ファンドに買収され、シャープは鴻海に買収されるなど想像できただろうか。倒産までいかずとも、大きな変革の波は止まらない時代だ。

大企業も余裕がなくなってきた今、窓際族という働き方がうまくワークするのは、あくまで定年まで今の地位が確保されるというのが前提であり、それは大きな大きな人生のギャンブルに思える。仮に会社を出ることになれば、有効な仕事の実績やスキル、経験がない中高年のおじさんを諸手で受け入れる企業を見つけるのは簡単なことではないだろう。

閑職で働く辛さ

月曜日の朝出社しても、金曜日まで何もやることがない。これは経験したものでなければ、決して理解できない辛さがある。ヒゲを剃ってスーツを着て戦闘モードに入っているのに、何もやることがないのである。

朝9時から18時まで机の上で座っていなければいけない。エクセルを開いたり閉じたり、仕事をしているふりだけはする。周囲はそれが演技だとバレているとわかっていても何もしないわけにはいかない。でもやることはない。これは少しばかり行動の自由度が高いだけで、実質的な刑務所生活に近い。自分の場合は安月給でがむしゃらに働いていた時の方が遥かにマシだった。

閑職の場合は部署全体がヒマで自分だけではないのでまだマシだが、窓際族のおじさんはさらに苦しい。周囲は忙しく動き回ってテキパキ仕事をしている。体は疲れるが、やりがいを持って心の充足感がある。同僚や取引先に「ありがとう」と感謝されて、役に立っている実感がある。でも自分はその光景を見ているだけ。永遠に誰からも必要とされない実感だけを強く感じることになる。

人間は社会的な動物であり、承認欲求の呪縛からの恒久的開放は難しい。最も健全に承認欲求を消化する手段は仕事に他ならない。すなわち「ありがとう」と感謝され、自分が社会の役に立っている実感こそが一番いい薬になる。だが、自分はその手段を絶対に取ることができない。世の中にこれほど苦しいものなど他にあるだろうか。

だから窓際族を長年続けられる人をみて、自分は彼らがある種の高みに至ったと考えている。普通の人間には耐えられない精神を持っているか、人為的に心の痛覚を取り除く方向で進化したとしか考えられない。

こうした前提があるので「窓際族って楽でいいなあ。自分もなりたいなあ」などとは考えないほうがいい。普通に一生懸命働いて、社会の役に立つ実感を得る仕事で頑張るほうが遥かに精神衛生上健全だろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。