1. 現実個別消費とは?
前回は、実際的な労働者の生産性とも言える、雇用者の労働時間あたり付加価値についてご紹介しました。
帰属家賃や個人事業主の寄与を除外した、雇用者の現実的な生産性の比較になったのではないかと思います。
経済厚生を測る指標として、1人あたりGDPや、労働生産性が扱われる事が多いと思います。最近では、より実際的な比較として、現実個別消費による比較が推奨されているようです。
現実個別消費(AIC:Actual Individual Consumption)は、家計最終消費支出、対家計非営利団体(NPISH)の最終消費支出に、政府最終消費支出のうち個別消費支出を加えたものです。
政府最終消費支出 = 個別消費支出 + 集合消費支出
現実個別消費 = 家計最終消費支出 + NPISH最終消費支出 + 政府個別消費支出
例えば医療費の個人負担と保険による負担など、消費金額に対して支払う主体が家計と政府で分担するケースなどもあります。しかも、国によってその負担割合は異なりますね。
「誰がお金を出したか」という観点で見ると、このような場合の消費支出は家計と政府で分散されます。
しかし、「誰が消費したか」という観点だと、家計の消費で明確です。
このように、家計の現実的な個別の消費に焦点を当て、各国の経済水準を比較しようというのが、現実個別消費の意義のようです。
この場合、政府最終消費支出のうち、社会全体に寄与する防衛や公共の秩序・安全などの集合消費支出は除外されます。
内閣府の国民経済計算の中では、一般政府の機能別最終消費支出(COFOG)にて、各項目の金額が個別消費支出と集合消費支出に分かれて記載されています。
このうち、1.一般公共サービス、2.防衛、3.公共の秩序・安全、4.経済業務、5.環境保護、6.住宅・地域アメニティと、それ以外の項目の一部が集合消費支出です。一方で、7.保健、8.娯楽・文化・宗教、9.教育、10.社会保護のうち大部分が個別消費支出となっています。
2021年では、政府最終消費支出119兆円のうち、個別消費支出が73兆円、集合消費支出が46兆円となります。さらに、個別消費支出のうち約45兆円が保健です。
つまり、政府最終消費支出のうち大半が家計で個別に消費され、政府側が支払った分という事になります。
2. 日本の現実個別消費
それでは、日本の現実個別消費についての推移を見てみましょう。
図1が日本の現実個別消費の推移です。
定義通り家計最終消費支出、政府個別消費支出、NPISH最終消費支出を合計すると、現実個別消費の金額と合致する事も確認できます。
日本の現実個別消費は、1990年代まで大きく増加し、その後も緩やかに増加傾向が続いています。
家計最終消費支出(青)は1990年代後半から停滞気味ですが、政府個別消費支出(緑)が増加傾向のため、全体としては緩やかな増加が続いているようです。
現実個別消費に対する政府の個別消費支出の割合(橙、右軸)を見ると1990年あたりから上昇傾向が見られ、13%程度から2021年には20%程度へと上昇しています。
2022年では、家計最終消費支出が303兆円、政府個別消費支出が74兆円で、現実個別消費は385兆円となります。
3. 1人あたり現実個別消費
続いて、より身近な数値となるように、人口1人あたりの現実個別消費についても確認してみましょう。
図2が現実個別消費を人口で割った、1人あたり現実個別消費の推移です。
日本の場合、総人口は近年でほとんど変化がありませんので、推移の傾向も図1とあまり変わりません。
現実個別消費はやや上昇傾向で、家計最終消費支出は横ばい、政府個別消費支出はやや増加傾向です。
2022年では、1人あたり310万円の現実個別消費、240万円の家計最終消費支出、60万円の政府個別消費支出となります。
子供も高齢者も含め、1人あたりで平均310万円(家計消費としては240万円)も消費しているというのは意外と多いと感じるかもしれませんね。
家計の消費は増えていなくても、政府がお金を出して消費している分が増えているというのは認識しておいた方が良いように思います。
その多くは、保健となります。これは高齢者ばかりでなく、現役世代もそうですね。
例えば、子供の医療費が無償となっていますが、これは家計が支払う費用がゼロであり、実際には政府から医療機関に対価が支払われている事になるはずです。
4. 日本の現実個別消費の特徴
今回は家計が実際に消費している金額を表す現実個別消費についてご紹介しました。
家計最終消費支出は停滞が続いていますが、政府個別消費支出が増えている分だけ、現実個別消費は増加しているようです。
政府の個別消費支出のうち大きく増えているのは保健です。
政府が家計の代わりに、主に保健に関する負担を増やしている事になります。
逆に言えば、それ以外の消費はほとんど増えていないという事になりそうです。
皆さんはどのように考えますか?
参考:政府最終消費支出
政府最終消費支出の変化を簡単にご紹介します(詳細は別の機会に取り上げる予定です)。
図3が政府最終消費支出の金額(縦軸)と変化量(横軸)をグラフ化したものです。
横軸は2005年から2019年の変化量です。
圧倒的に増えていて、規模も大きのが保険となります。続いて、社会保護や経済業務、教育の規模が大きいですね。
教育や経済業務はほとんど増加していませんが、社会保護は5兆円近く増えています。
一方で、一般公共サービスや環境保護は縮小しているようです。
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年3月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。