欧州連合(EU)のシャルル・ミシェル大統領は15日、ロシアのプーチン大統領の5選に対して祝電を表明した。投票は始まったばかりでまだ当選が確定したわけでなく、その前だ。受け取ったプーチン氏はEU大統領からの祝電を「あなたの祝電は第1号です」と歓迎しただろうか。それとも「ロシア大統領選挙は仮想選挙に過ぎない。真の対抗候補者はなく、プーチン氏の5選は英国のブックメーカーも掛け率(オッズ)が良くないから関心が低い」と欧米メディアで報じられていることを受け、「EU側の精一杯の皮肉を込めた祝電」と感じ、不快感を漏らしただろうか。
ロシア大統領選(任期6年)は15日から17日までの3日間実施された。モスクワの中央選挙管理委員会によると、ほぼ半数の開票が終わった時点でプーチン大統領の得票率は87・3%だった。プーチン大統領の2018年の選挙結果(76.7%)よりも10ポイント以上高い。国営テレビはその直後、プーチン氏の当選確実の速報を報じた。
有権者総数は約1億1400万人、暫定投票率74%はロシア大統領選では最高の数字。投票はロシアが2014年に併合したクリミア半島やウクライナ東部・南部の占領地でも実施され、今回初めて電子投票が行われた。選挙管理委員会によると、800万人の国民がオンラインで投票したという。
ロシア大統領選の当落は重要ではない。なぜならば、投票前に既にその結果は決まっているからだ。プーチン大統領の公式の対抗候補者は共産主義者のニコライ・ハリトーノフ氏、民族主義者の自由民主党党首レオニード・スルスキー氏、新人民党のウラジスラフ・ダワンコフ氏だった。彼らは大統領選が民主的に実施されたことを見せるためのクレムリンのマリオネットに過ぎないからだ。他の2人の候補者、戦争反対派のボリス・ナデジディン氏とエカテリーナ・ドゥンソワ氏は、選挙管理委員会によって候補者から除外された。最も有名な反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は2月16日、ロシアのシベリアの捕虜収容所で死亡した。
興味深い点は、プーチン氏は当選確実となった直後、「ナワリヌイ氏は囚人交換のリストにアップされていた」と語り、ナワリヌイ氏の名前を初めて公の場で言及し、「起きたことは仕方がないが、残念だ」と述べたことだ。当選が決まって余裕が出たために飛び出した発言かもしれないが、どのようにカムフラージュしたとしても、これはプーチン氏の一種の犯行告白だ。
プーチン大統領は17日、当選確実後、「大統領選挙に参加してくれた同胞に感謝する。投票所に来て投票したロシア国民全員は団結したチームだ」と述べた。そして選挙の勝利を「現在の道を選んだことが正しかったことを示している。ロシアは今、より強く、より効率的になれる。社会を統合し、誰もロシアを抑圧することはなくなるだろう」と強調し、勝利宣言をしている。
ロシア大統領選には国際選挙監視団は派遣されていないから大統領選に不正があったか否かは不明。ナワリヌイ氏の腹心レオニード・ヴォルコフ氏はテレグラムを通じて、「選挙管理委員会が発表した数字は架空だ」と批判。ナワリヌイ氏の支持者らは17日正午、各地の投票所に集結する事実上のデモを呼び掛け、一部で行列ができた。大統領選挙から除外された野党政治家のボリス・ナデジディン氏も平和的な抗議活動に参加した。この抗議活動でロシア全土で少なくとも74人が一時的に拘留されたという。公民権ポータルサイトOVD-Infoが17日午後に報じた。
ナワリヌイ氏の妻ユリア・ナワリナヤ氏も17日午後、ベルリンのロシア大使館前の列に加わり、投票した。ナワリナヤ氏は「投票用紙にナワリヌイの名前を書いた」と述べている。外電は、欧州各地でロシア大使館前にはプーチン氏の独裁に抗議する人々の長い列ができた、と報じた。
プーチン大統領(71)は1999年以来、大統領と首相を交互に務めており、新たな6年の任期を満了すれば、独裁者ヨシフ・スターリンの29年間の最長任期期間(1924年~53年)を超える。憲法改正のおかげで、プーチン大統領は2030年にさらに6年間大統領を務めることができる。最長の場合、2036年まで大統領職に留まることができる。
プーチン大統領は選挙での勝利を背景に、「自身の反西側・権威主義路線は国民の支持を得た」として、今後6年間の任期中にウクライナに対する侵略戦争を更に強化すると予想される。数十万人の予備兵が再び動員され、戦争や社会政策事業への高額な支出を賄うために増税が予定されているため、国民の経済、未来への不安はこれまで以上に深まることが考えられる。
プーチン氏の5選が決まった直後に“ポスト・プーチン”を考えることは本人には失礼かもしれないが、多くのロシア国民ばかりか、ウクライナ国民もプーチン時代が早く幕を閉じることを願っている。“ポスト・プーチン”がプーチン時代よりいいという保証はないが、プーチン氏の独裁政治は歴史上稀に見る非人道的な政治だ。世界はシリア内戦、そしてウクライナ戦争でプーチン氏の戦争犯罪を目撃しているからだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年3月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。