私の住んでいる近所には「つくば霞ヶ浦りんりんロード」という日本最長クラスのサイクリングロードがある。
旧関東鉄道の廃路線約40kmをサイクリングロードとして整備し、そして霞ヶ浦一周約120km(ショートカットすれば80km)をつないだ、全長約180kmの長大なサイクリングロードである。
確かに週末などはサイクリング愛好家が走っているものの、それほど多く見かけるわけではない。これはそもそのロードバイク人口が少ないせいなのか、つくば霞ヶ浦りんりんロードが人気がないのかについてまず考えてみたい。
日本のスポーツ自転車愛好家の人数は、正確な統計がないのでよくわからないので推測をしてみよう。
一般社団法人自転車産業振興協会の統計によれば、統計をとった自転車販売店の中で、ロードバイクの2021年の平均販売台数は9.6台(P.12)。
※こちらの数字は指摘を頂戴したので推定の計算をやり直しました。
自転車販売店の総数は2017年時点で14,758店舗(出典:自転車業界の現状)。ここから推測すると年間に売れたロードバイクの総数は約141,677台程度となる。
ロードバイクの平均乗り換え年数を平均8年とすると、この1,134,416人程度がロードバイクの人口だと推測できる。実際は1人で複数台所有することも稀ではないし、買ってすぐにロードバイクをやめてしまう人もいるので、実際にはこれより人口は少なくなる。
1人が1台しか持っていないとして最大限に見積もって、ロードバイク人口は日本全体の人口の約0.990%。
日本全国合わせて100万人もいない趣味で、かなりニッチな市場である。
そもそも、ロードバイク人口がこれだけしかいないのであれば、ロードバイク愛好家を集めて地域おこしするのは非常に難しいという結論になりそうだ。
わざわざ遠くに自転車を輪行なり、車に積み込んで運ぶというようなことをするのは熱心な人でも1ヶ月にせいぜい2回だろう。せいぜい年に4、5回ぐらいが関の山だと思う。
そうすると、約100万人のロードバイク愛好家が、年に6回他地域に出かけるとして延べ年間600万人。この人数が日本中にバラけるのである。都道府県の数で割ると大体年間128,000人。
各県にサイクリングコースの数が5つあったとして、25,600人が年間に遠距離からやってきてサイクリングコースを利用する平均の人数となる。
1日にそのサイクリングコースを利用する人の数はなんとたったの70人である。
つくば霞ヶ浦りんりんロードなどは東京から近い、かつ整備が進んでいるのでこれよりもずっと多いと思うのだが、日曜日でも大していない印象である。
令和3年のつくば霞ヶ浦りんりんロードの利用者数は110,000人であったそうだ。(出典:茨城県)
これを単純に日で割ると、1日平均300人となる。多分土日はこの3倍ぐらいになるのかという感じではなるが、それでも1,000人そこそこ。なんとなくこれくらいじゃないかなっていう肌感と一致する。
1日300人というのは、JR東日本の中で経営が厳しいといわれるローカル線の中でも、かなり少ないレベル、たとえば吾妻線などと同じぐらい利用者数である。
この利用者のために長大なサイクリングロードを維持することに意味があるのだろうか? というのが甚だ疑問なのである。ローカル線はまだ運賃がとれるのだが、サイクリングロードでは一円もお金がとれない。
周辺にある飲食店やお土産店、コンビニなどは多少潤うがそれも多少という程度を出ない。
コンビニであればそのコンビニに来店するであろう地域の人口が2,000人程度はいないと採算が乗らないとされている。りんりんロードという大規模かつ有名なサイクリングロードであったとしても、1日に300人平均である。これではコンビニの経営すらも成り立たない。
飲食店はちょっとは商売になるかもしれないが、ロードバイクに乗る人は基本的にゆっくり昼ご飯を食べない。なぜなら高価なロードバイクの盗難の心配をしなければならないからである。
厳重なワイヤーロックを持ち運ぶと重たくなるので、簡便なロックで済ませることになる。安心して食べていられないので、せいぜいコンビニで買って食べるぐらいになってしまう。
実際にYahoo!知恵袋で見てみるとみんなそんな感じである。
ロードバイクで飲食店に入る時に、ロードバイクはどうしてますか?目の届く場所に施錠でしょうか?昼食などの場合どうしようか迷っています。
店が責任を持って自転車を預かってくれるサービスがあれば話は別だが、そんな店みたことがない。
ロードバイク乗りは土産物など一切買わない。手荷物を何も持てないからである。
そもそもロードバイク乗りが少ないうえに、ロードバイク乗りが地域にやってきたとしてもその地域にお金を全く落とさないのである。しかも、ロードバイク乗りにはたまに傲岸不遜なやからがいて、歩行者に対して思いやりのない走行をしたりする。
私も経験があるのだが子供と一緒にサイクリングロードを走っていたら、後ろからロードバイク乗りが追い越していって「邪魔だ、馬鹿野郎」と言われたこともある。
こんなことがあったらその地域に住んでいる人にとってロードバイク乗りという存在そのものが迷惑としか思われなくなってしまうわけだ。利益がなく、不利益しかないわけである。
やるなら道の駅みたいなものを作って、自転車を預かる仕組みと、お土産などを郵送するというような施設であるが、そのようなものを作ったとしても採算が乗る可能性は非常に少ないのだ。
しまなみ海道のような全国、場合によっては海外からも人が集まるぐらいの魅力のあるサイクリングロードであれば話は別だが、そうでなければ利益を生み出すのは非常に難しいといわざるを得ない。
実はしまなみ海道ですら年間33万人である。一日に均すと約1,000人にもならないのだ。
私個人としてはつくば霞ヶ浦りんりんロードを整備してくれることは、とてもありがたいと思っているのだが、税金の使い道としてはどうかと思う次第なのである。
そもそも観光として魅力のある場所に、さらにロードバイク乗りが来るのであれば多少なりとも地域活性化につながるかもしれない。
しかし、ロードバイク乗りはゆっくり観光もしないで、ただ通過してしまうだけなのでこれまた微妙である。
ロードバイクで地域の活性化というアイデアは素晴らしいとは思うのだが、どうすればいいのかというと答えが出ないというのが私の現時点での結論である。
編集部より:この記事は玉村嘉隆氏のブログ「たまさんのちゃり日記」2022年9月18日の記事を転載させていただきました。