今回は、ちまたに出回っているいわゆる速読術を検証していきます。
歴史は古くからありますが日本に爆発的なブームを引き起こしたものに「フォトリーディング」がありました。
フォトリーディングに関する研究
これは、アメリカで開発された読書法のひとつで1ページを1秒で見て脳に本の情報をし取るというものです。ポール・シーリィ博士によって1985年に開発されました。日本では神田昌典氏が2001年に紹介し爆発的なヒットを記録します。
次のような興味深い研究があります。これは、1999年に米国のオールド・ドミニオン大学で実際に行われた研究です。150人の男女を対象にRCT(ランダム比較研究)を行いました。
このうち、半分の人たちにフォトリーディングのレクチャーを行い、そのうえで読書スピードにどれぐらい差が出るのかということを調べました。
結果、フォトリーディングは通常の読書と同等かそれ以下であると示されました。オールド・ドミニオン大学の研究者はフォトリーディングについて否定的な結論を導いています。
フォトリーディングをマスターするのは簡単ではないので、「習熟度が足りなかったのではないか?」「間違いなく効果がある方法だ」など、いろいろな意見があるかも知れませんが、ここでもうひとつ興味深い研究を紹介します。
2016年にカルフォルニア大学が文献レビューを行い、速読は可能なのか検証しました。この論文では、過去の速読に関する先行研究を検証し、速読はただの飛ばし読みであり高い理解力を維持しながら速く読むことはできないと結論づけました。
この論文は、現時点における速読リサーチの集大成といっていいでしょう。英文ですが、翻訳ソフトで和訳にできます。関心のある方はぜひお読みください。
研究発表ですから、批判的な意見、肯定的な意見、いろいろあると思います。いくつかを比較検討すべきとの意見もあると思います。
まったく、その通りなのですが、フォトリーディングや速読を肯定する研究発表は少ないため、有意なものを発見することができませんでした。詳しい方がいましたらぜひ教えてください。
速読を左右するのはなんなのか
この研究は、2000年にオハイオ州立大学が実施したものです。まず、135人の遺伝子が同じの双子の一卵性双生児と、179人の遺伝子が違う双子の二卵性双生児を対象に、読書スキルがどこまで遺伝子に左右されるのかということを調べました。
その結果、読書理解力や聴き取り理解力は遺伝的要因と環境的要因の両方に影響されることが示されました。興味深いのは「読書スピードは4分の3(75%)が遺伝子で決まる」という点です。遺伝で読書スピードが速い人がいたとすると、その人はすでに遺伝で決まってしまっているということです。
もし、ちまたに、速読チャンピオンみたいな人がいたとすればそれは、速読遺伝子に恵まれているという仮説がすぐに成り立つでしょう。「速読は後天的に延ばすことができる」「だから速読は正しい」と主張する人もいるでしょう。しかし、立証された文献があまりに少ないのです。
速読術をうたう講座には1冊を1分で読むというものがかなりあります。いままで、1冊を読むことに、1時間(60分)かかっていたら、60分の1になります。2時間(120分)かかっていたとしたら、120分の1になるわけです。
私はこのような講座の多くは眉唾モノだと考えています。読書スピードを実際に測ることは困難です。テレビ番組などで実演して本をパラパラしているのがありますが読解できたかを確認する術はありません。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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2年振りに22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)