アメリカ経済は本当に好調なのか?:競争力がないという大問題

このところニュースのヘッドラインで見かけるのがアメリカ経済のソフトランディング。ついては6月の利下げは遠のいているのではないか、という論調です。前回のFOMC後のパウエル議長の会見では今年3回程度の利下げを見込んでいる趣旨の発言でした。利下げをするということは雇用が悪化し、物価が引き続き下げトレンドにあるというのが前提になりますが、果たしてそのシナリオがあるのか、考えてみたいと思います。

私が今、着目しているのがインフレ鎮静化の可能性です。これにはいくつかの因子があるのですが、大きくみて2つ。1つは原油価格の動静、もう1つは大統領選挙の行方であります。

まず、外部要因としての原油価格ですが、これがじわじわ上昇をしています。現在ニューヨーク市場でバレル当たり85㌦で着実に上昇しています。私が以前から考えてる原油価格は70-80㌦がComfort Range、80-90㌦がUpper Range、90-100㌦がExcessive Range、100ドル以上がunsustainable Rangeと考えています。本質的な需給からすればComfort Rangeであるべきですが、政治的、地政学的緊張など需給とは別の要因で価格が高騰しやすいのが原油価格と言ってよいでしょう。

価格が上昇しているのはOPEC+が引き締め姿勢を維持していることと地政学的な問題が絡んでいることがあります。ここには中国の潜在需要の因子は入っていないのですが、仮に同国の経済が底打ちし、消費が回復すれば原油価格はさらに引き締まります。ただ原油価格そのものが意図的に操作されやすい性格であるので今の上昇がいつまで続くかはわかりません。個人的には夏のガソリンの需要が増えるころまでは少なくとも上がり続けるように見えます。

2つ目に大統領選挙です。基本的にバイデン、トランプ氏ともポピュリストであり、甘い汁で票を誘い込む政策である点は変わりません。仮にバイデン氏が再選されれば民主党である点を含め、ばら撒く政策は続くであろうと考えます。一方、トランプ氏の場合は関税の引き上げがアメリカ経済に痛烈なパンチとなるのが目に見えており、仮にその政策を実行した場合、アメリカ経済は相当シュリンクせざるを得ないとみています。

今更の話ですが、アメリカの財政赤字が再度注目されています。23年度で対外債務がGDP比で97%となり、今後、その債務比率が上昇の一途となり、34年で116%で第二次大戦時より膨らみ、持続不可能な域に入ります。イエレン長官は債務カットのために歳出削減がマストだと考えていますが、図体の大きなアメリカで歳出カットができる状況にはなく、また利払いが軍事予算を上回るところまで来ているのにバイデン、トランプ両氏ともそこには一切お構いなしの姿勢であります。

ところでテスラ社の1-3月の出荷台数が9%減の38万台にとどまったのが衝撃であります。少し前から指摘しているように世界でEVからHVへのシフトが鮮明な中、EVしかない同社の苦境が鮮明になってきています。ドイツ工場は反対派の放火原因による火災で生産停止が響き、中国は同国の値下げ競争についていけなくなりました。中国でかつてブイブイ言わせたVWが壊滅的売り上げ減となっているのと同様、テスラの中国市場は先行き相当不透明だとみています。

これはテスラだけの問題ではなく、巨額の補助金を使ったアメリカのEV政策が曲がり角を迎えたようにも見えます。トランプ氏になれば当然、この政策には興味がなく、補助金など止めるのでしょう。

つまり、アメリカは選挙の行方で政策が180度変わる可能性があり、企業も個人も将来を見通せない状況にあるとみています。

生成AIについては企業でその導入が進んでいるようですが、果たしてどれだけ効果があるのか、企業にどれだけの利益をもたらすのか、不明瞭な感じがします。一方で、その開発には莫大な資金を要し、巨大企業のみがその恩恵にあずかれるのです。ビジネスの機会公平の点からは実にいびつな社会がより明白な形となっているわけです。富める者は富むというより機会の偏在化が経済の変調を生みやすくなり、個人事業主などが活躍できる場所がより狭くなっているとも言えそうです。

労働生産性については1947年から73年までの平均が2.7に対して19年から23年の平均が1.6で数値上は底打ちしているのですが、機械化が進んだこの時代において生産性が上がるのは当然のことなのです。とすればその機械やITなどの部分を除去した生産性の計算が可能であるならば、現在のアメリカの純労働生産性は恐ろしいぐらい低下しているのではないでしょうか?

問題は実質的に低くなった労働生産性からアウトプットされる生産物が高値で売れることがアメリカの経済を支えている点です。日本のラーメンが1000円でアメリカのそれが3000円というのは生産性と費用対労働効率が悪い以外の何物でもないのです。

ということはアメリカが抱える問題とは生産現場に於いてアメリカには競争力がないということにならないでしょうか?今のように対外投資と大手による技術の囲い込みが機能するうちは良いと思いますが、個人的にはもう限界が近いのではないかという気がします。アメリカはサステナビリティが極めて困難な国ではないでしょうか?それでも世界はアメリカを中心に廻そうとすることで歪が出てしまうというのが私の長年見続けてきたアメリカの実態ではないかと思います。

難しいかじ取りを迫られているバイデン大統領 同大統領インスタグラムより

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年4月10日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。