スペインサッカー連盟の元会長ルビアレス氏に逮捕状

キスが合意か強要かというのは問題の本質ではない

スペインサッカー連盟の元会長ルビアレス氏のことが先月日本でも取り上げられたのは、サッカー女子ワールドカップで優勝したスペイン代表チームの表彰式で選手のひとり(ジェニファー・エルモソ選手)にキスしたことで話題になったことだ。そのキスが双方の同意によるものか、強要されてのキスかということがスキャンダルになった。

しかし、キスが同意か強要かというのは彼を解任させるための口実に利用されたことでしかない。この問題が発生した根底には、ルビアレス氏の連盟での会長としての素業に周囲が納得せず、彼を辞めさせるための理由を探していた、というのが真相だ。それに丁度うまくキスの事件が起きて、彼を辞めさせたいと望んでいた連盟の関係者がそれを彼の不祥事として利用したまでのことだ。

傲慢で金銭欲の強い会長

ルビアレス氏の素業に問題があったというのは、彼が会長という地位を利用して、それを金儲けに繋げようという姿勢が関係者の間で見え見えだったからだ。彼は金銭欲が強く、傲慢で他人の意見を受け入れない性格。彼を会長にすること事体に当初から反対していた関係者も多くいた。

彼の素業で一番問題視されたのは、スーパーカップをスペイン国内ではなく、サウジアラビアで2029年まで開催することを秘密裡に進めていたことであった。

これまでスーパーカップはリーグ優勝チームと国王杯の勝者チームがスペイン国内で戦うことになっていた。ところが、新たなスーパーカップはリーグ戦の上位2チームと国王杯の優勝チームと準優勝チームの4チームで競うものにして、それをサウジアラビアで開催することにしたのである。その為に毎年サッカー連盟は4000万ユーロ(48億円)をサウジアラビアの公的企業セラ(SELA)から受け取ることになっていた。

更に、バルセロナのジェラール・ピケー氏(契約した時はまだ選手だった)の会社Kosmosにも毎年400万ユーロ(4億8000万円)が同企業から支払われることになっていた。その理由は、Kosmosが双方が契約に結び付く為の仲介をしたということらしい。以上のことがこの開催契約を公にした時点で明らかにされたのである。

問題は、この開催契約が秘密裡に進められていて、2022年まで明らかにされていなかったということである。一旦それが公になると、同年5月にスペインのコーチ育成組織のミゲアンヘル・ガラン会長が民主化の見られないサウジアラビアでスーパーカップを開催することに反対を表明した。更に、スペインチームが公式に外国で試合する場合は政府の公的許可が必要であり、それなく開催契約したことは違法だ、と訴えたのである。

この訴えが動機となって、治安警察の中央作戦部隊(UCO)が捜査に乗り出した。それで判明したのは、それまでのルビアレス氏を会長として彼が信頼を寄せていた連盟の仲間の間で汚職行為、不正行政、資金洗浄の容疑が確認され、先ず7人が逮捕されるという事態に及んだのである。

その時、ルビアレス氏はドミニカ共和国に滞在中で逮捕を免れた。しかし、4月3日に急遽帰国すると、空港で一時的に治安警察によって拘束されたが、逮捕は免れた。しかし、彼の銀行口座などは差し押さえら、これからさらに詳細に捜査が行われることになっている。

ルビアレス元会長に降りかかる容疑

上記で言及した3つの容疑に関係したことを以下に説明することにしたい。

セビーリャのラ・カルトゥッハと呼ばれているサッカースタジアムを今後国王杯など公式の試合スタジアムにするという目的でルビアレス氏の友人が経営する建設会社グルコンサに改築工事を一任。それ以後、同社の年商は2019年から2022年まで毎年増加した。

更に、同社はサウジアラビアや中国にもサッカー競技場やそれに関係した施設の建設の依頼を受けた。捜査当局が見ているのは、汚職資金がこの建設会社を通じて流れているのではないかということだ。

2021年にはクリプトコインの導入が試みられた。最初にトルコのBitchテクノロジー社を利用。期待していた結果が出なかったので、中国のHuobi グローバル社を利用しようとしたが、スペインの証券取引委員会では同社による投資の資格を認めないということで当面据え置かれた。元々、クリプトコインの導入ということ事体が資金隠しが目的であろうと捜査当局では見ている。(3月23日付「エル・コンフィデンシアル」から引用)。

またルビアレス氏と信頼関係にある会社経営者マルティン・アルカイデ氏とドミニカ共和国でオフショア企業Conecta17コンサルティングを創設。と同時にルビアレス氏の出身地であるグラナダにも同じコンサルティング会社を創設した。その狙いは、観光事業の一環としてホテルやレストラン経営に進出することを目的にしたものだという。

しかし、問題はこの投入資金がルビアレス氏や彼と関係を持っている人物の個人資金かサッカー連盟からの資金であるのかこれからの捜査で明確にされるはずである。彼ら個人の資金であれば問題はない。しかし、連盟の資金を使っているのであれば横領罪となる。

更に、ピケー氏の会社Kosmosに毎年400万ユーロが仲介手数料として支払われるが、この資金の全額或いは一部はルビアレス氏に渡される資金ではないかと疑われている。

これから捜査が進められていく内に、ルビアレス氏が如何に金銭欲が強い人物であるかということが判明されていくはずである。

ルイス・マヌエル・ルビアレス・ベハル氏 Wikipediaより