30分〜数時間かかるような「一つの仕事」は、一気にまとめて1日で終わらせることが効率的と考える人は多い。しかし実は、一つの仕事を小さく区切って、毎日30分ずつ、数日に分けて取り組むほうが効率良く仕事が終わる。
そう語るのは時短コンサルタントの滝川徹氏。今回は、滝川氏の著書『細分化して片付ける30分仕事術(パンローリング) 』より、仕事に取り組む時間として30分が最適である理由を、再構成してお届けします。
人が本能的に30分を好む理由
ジュリア・ロバーツ主演の映画『食べて、祈って、恋をして』の原作者として知られる世界的人気作家のエリザベス・ギルバート。彼女は文章が書けないときはキッチンタイマーを30分にセットして執筆に取り組んだという。
なぜ30分にタイマーをセットしたのか。残念ながらその根拠には触れられていない。だが私は人が仕事や何かに取り組むとき、本能的に「このくらいの時間なら取り組める」と感じ、一定の成果・アウトプットを期待する時間単位が30分なのだろうと考えている。
2007年のベストセラー・ビジネス書1位で56万部以上売れている、古市幸雄氏著『「1日30分」を続けなさい! 人生勝利の勉強法55』(マガジンハウス)がそのことを物語っている。
この本の伝えるメッセージはタイトル通り1日30分の勉強を続けなさいというシンプルなものだ。これだけこの本が売れ続け評価されているのも、本のメッセージが多くの人に刺さったからだ。
ちなみに私もこの本をきっかけに勉強する習慣を築くことができた一人だ。社会人になって3年目くらいの頃、私は職場の同僚と髪の毛を賭けた熱い戦いを繰り広げていた。簿記3級を数人で受験し、合格しなかった者は坊主にする。そんななんとも体育会的なノリだった(企画を考えた先輩社員が体育会系出身だったのは言うまでもない)。
当時の私は思うように勉強に取り組めず、苦戦を強いられていた。毎日のように同僚と飲み歩いていた平日はもちろん、休日でさえ机に向かうことができなかった。蓋を開けてみれば不合格となったのは私だけ……。いつもの床屋で歯を食いしばりながら「今日は坊主でお願いします‥」と頼んだあの日を、私は生涯忘れることはないだろう。
スッキリした私はリベンジを誓った。今度こそは計画的に勉強し、必ず簿記3級を取得してみせると。しかしいざ試験に申し込むと、また勉強をズルズルと先延ばしにしてしまう。
そうして私はほとんど勉強できずに試験に臨み、簿記3級に落ち続けた。おそらく3回は落ちたはずだ。念のためお伝えすると、簿記3級は難関資格などではけっしてない。少なくとも私の周りの人間は当たり前のように一発合格していた。私が合格できなかった理由は明らかだ。私は勉強する習慣を身につけることができなかったのだ。
そんな私が勉強する習慣を身につけるきっかけとなったのが、先の『「1日30分」を続けなさい! 人生勝利の勉強法55』だった。読み終えた後に「たしかに1日30分なら続けられるかもしれない」と希望を感じたのを今でも覚えている。それから少しずつ、勉強する習慣をなんとか身につけていった。
そのうち平日でも会社帰りに近くのおしゃれカフェに寄って勉強するようになった。そして簿記3級を無事取得。さらになんと簿記2級は一発で合格した(私にとっては革新的な進歩だ!)。その後ビジネス実務法務検定の3級と2級も一発合格。TOEICも935点を取得。私は資格試験の勉強に関しては、満足のいく結果を出せるようになった。
本書で仕事の単位を「30分が最適」と考える理由のひとつはここにある。これから仕事に取り組もうとするとき、その仕事に1時間取り組もうと思うと「やりたくない」と心理的な抵抗を感じるだろう。
しかし30分取り組めばいいと考えたらどうだろう。「それならやれそう」と感じる人も多いはずだ。取り組む時間を30分にするメリットのひとつは、その仕事に取り組む心理的抵抗を減らすことで仕事に着手できるようになることなのだ。
仕事に着手することが目的なら、取り組む時間はたとえば5分でもいいんじゃないか? そう感じた人もいるかもしれない。それはそれで間違ってはいない。しかし問題は5分だけ仕事に取り組んでも目に見えた成果が生まれないことだ。
なぜ30分が最適な時間単位なのか。次は「ポモドーロ・テクニック」という有名な時間管理のテクニックを紹介しながら説明しよう。
30分が最適と言える科学的な根拠
起業家フランチェスコ・シリロ氏によって提唱され、国連、ノキア、ソニー・モバイル、トヨタ、レゴ、イタリア中央銀行など世界中で評価・実用されているポモドーロ・テクニック。この手法は「25分間の作業=ポモドーロと5分間の休憩を1セット」として繰り返していくものだ。
フランチェスコは著書『どんな仕事も「25分+5分」で結果が出る ポモドーロ・テクニック入門』(CCCメディアハウス)で、ポモドーロ(1回の作業時間)につき10分などでは目に見える成果は生まれないとしている。
さまざまな試行の結果、一定の成果を出すためには30分がベストと結論づけた。試行の段階で1時間、2時間、45分などさまざまな時間を試し、最終的に一定の成果を出すためには30分がベストとの結論に至ったのだ。
ポモドーロ・テクニック以外にも、30分が作業単位として最適なことを支持する研究がある。
1950年に「クロックテスト」という実験がマックワースという人物により行われた。実験の内容をものすごく簡単に言えば「一定のペースで進む時計の針を被験者が見て、針が2倍のスピードで進んだと認識したときに反応鍵を押す」というものだ。
実験は30分を1セット、2時間に渡り4回行われた。この実験では作業を開始してから30分が経過すると、被験者の見落としが増加したことが確認されたのだ(これは後に「30分効果」と言われるようになる)。
産業安全運動向上への寄与により「労働大臣功労賞」を受賞した正田亘氏の著書『人間工学』(恒星社厚生閣)によると、クロックテスト以降も類似の実験や研究が行われた。
そのいずれにも30分を境に反応の低下が認められたという。同書には『30分ということが、何らかの精神過程持続の変化点として問題としなければならないことになるのかもしれない』と書かれている。
つまり個人差はあるものの人が「ダレ」や「飽き」を起こさずに集中力を維持できるのは一般的に30分が限界なのだ。
そこで一つの仕事を30分単位に切り分ける、つまり作業時間に制限を加え、あえて数日間に分割して取り組む。そのほうが効率良く仕事は終わるのだ。
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滝川 徹(タスク管理の専門家)
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年4月11日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。