政府は「認められない行為であるとは言わなかった」
木原防衛大臣「当時の呼称を用いた、その他の意図はない」
防衛省・自衛隊:防衛大臣記者会見|令和6年4月9日(火)08:40~08:45
Q:陸自大宮駐屯地の32普通科連隊が「大東亜戦争」との言葉を使ってXに投稿した件についてお伺いします。この「大東亜戦争」という呼称に問題があったとお考えでしょうか。もし問題があったと考えるならばその理由をお聞かせください。また、既に当該Xから「大東亜戦争」の文言が削除されているようですが、削除した理由についてもお聞かせください。
A:御指摘の件は報告を受けましたので承知しております。今般、投稿については、部隊によれば、硫黄島における戦没者を日米合同で慰霊する行事を紹介するに当たり、硫黄島が激戦の地であった状況を表現するため、当時の呼称を用いたものであり、その他の意図については何らなかったとの報告を部隊から受けております。その上で、従前より政府として答弁してきているとおり、「大東亜戦争」という用語は、現在、一般に政府として公文書において使用しなくなっているということです。いずれにしても、現在、一般に政府として公文書において使用していないということを踏まえると、投稿については既に修正したということであります。SNSを含めて、対外情報発信というのは重要でありますから適切に対応することが必要であるというふうに考えております。
陸上自衛隊第32普通科連隊のX公式アカウントにて米軍との合同慰霊祭を報告する際に「大東亜戦争」という語が使われて後に削除され上で再投稿された件について。
木原防衛大臣「硫黄島が激戦の地であった状況を表現するため当時の呼称を用いた、その他の意図は何らなかった」と記者会見で述べています。
大東亜戦争という呼称は昭和16年の閣議決定で公式採用されていましたが、敗戦後にGHQの覚書によって禁止され、その後、当該覚書が失効した、という経緯があります。
太平洋戦争という呼称についても特に定義がなく必ずしもその用語でなければならないということはなく、大東亜戦争という用語を禁止すると明示した事はありませんし、総理大臣答弁や防衛省の資料、衆参議院の文書にも現れることがあります。
林官房長官記者会見での望月記者「文民統制上問題では?」
令和6年4月9日(火)午後 | 官房長官記者会見 | 首相官邸ホームページ
東京新聞望月記者 陸上自衛隊のさいたま市ですね公式Xで大東亜戦争という表現を使っていたこと、昨日午後に削除したということですけれども、大臣の弁では本来伝えたい内容が伝わらず誤解を招いたということです。これは公式ツイッターでございますので、こういったことを自衛隊が公式ツイッターを使ってやっていること自体、ある種のかなり政治的な意図がある行為であり、文民統制の観点からも文官ないし政治家に断りを入れるべき事案だったんではないでしょうか。個人的なものではありませんのでやはり靖国と違って憲法の表現の自由ということも言い訳にできないと思います。そして慰霊祭の式典ですね、どういう形式にのっとってやったのかもやはり気になる所です。UPされているメディアで出回っている写真では、じんかん(※注:神官?)が居るようにも見えますし、しめ縄があるようにも見えます。制服組全体がある種のこれまでの集団での靖国参拝含めてですね、ある種の方向にまとまって動いているように感じます。これ政府としてですね誤解を招いたという言い方ですが、かなり意図的に発信したと思います。改めてご見解をお願いいたします。
林官房長官記者会見での東京新聞望月衣塑子記者は「文民統制上問題では?」「慰霊祭の形式は?」という質問をしていますのでこれについては「その他の意図については何ら無かった」ということで終わりのようです。
林官房長官 今般の投稿につきましては、当該部隊からは硫黄島における戦没者を日米合同で慰霊する行事を紹介するに当たって、硫黄島が激戦の地であった状況を表現するため、当時の呼称を用いたものであり、その他の意図については何ら無かったという報告を受けているものと承知をしております。いずれにいたしましても、大東亜戦争という用語は現在一般に政府として公文書において使用していないということを踏まえ、投稿については既に修正をしたと承知をしております。更なる詳細については防衛省にお尋ねを頂ければと思います。
質疑と回答はこの後も続きますが、少し関連する事項に触れます。
公務員・自衛官の政治的表現の規制:文民統制に基づく投稿の削除?
公務員の政治的表現についてはいわゆる猿払事件判決と堀越事件判決が有名ですが、国家公務員法102条1項で禁止している「政治的行為」については後者において【職務の遂行の政治的中立性を損なう虞が実質的に認められるもの】と判示されています。
ただ、今回は国公法ではなく自衛隊法61条が規制根拠の規定であり、自衛隊法施行令86、87条で具体的な禁止事項が書かれていますが、国公法102条1項に基づく人事院規則14-7の規定ぶりを見る限り、基本的には同様の理解が妥当すると言えます。
もっとも、自衛官の場合には勤務時間外の言動でも明示的に禁止対象となっているなど、政治的中立性について強く意識させるようになっています(国公法の場合も勤務時間外の言動であれば即規制対象外であると言えるかは不明)。
文民統制の観点からはまずはこの規定に違反するかを考えることになります。
例えばの話ですが、同じ大東亜戦争という文言を使用していても、自衛隊員がXの公式アカウントを使用して発信する際に、当該呼称こそが正当な用語法でありそれを広めるのだという意図で敢えて使用していたり、大東亜戦争の目的や遂行手段などを全肯定する意図の下に使用していたような場合には、政治的行為として禁止対象となるおそれがあります。
今回は、現在も政府として大東亜戦争の語を禁止してはいないことや、政府も文脈等によると答えているところ、当該投稿は当時の政府の閣議決定で公式採用されていた呼称である大東亜戦争において、その戦争で没した者を慰霊するために用いたものであるので、それだけでは政治的意図は見出せず、客観的にも「大東亜戦争」という用語を使用しているだけでそのような意図があるのだと言える状況ではないため、職務の遂行の政治的中立性を損なう虞が実質的に認められるものとは言えないということになります。
文民統制上の判断として防衛大臣が削除させたのかどうか、慰霊祭の形式はどうだったのかについては9日の官房長官記者会見では明らかにはなりませんでしたが、特に問題はなかったんじゃないでしょうか。
政府として大東亜戦争を使用することは認められないとは言っていない
望月記者 現状使っていないという言い方で激戦地を表現するためということですが、大東亜戦争という使い方自体の問題というのは採算渡って自衛隊の方たちは認識していながら、表現のためということで使ったんだと思うんですが、政府防衛省ですね、こうやって部隊が勝手に表現のためと言って公言して公式ツイッターで出していくということは認められないという見解でいいんでしょうか?それで今回削除させたということか。あとこれに関連して表現のためという言い訳をしておりますが、これに関連して処分とか更なる聞き取りというのはこれ以上は想定していないのでしょうかお答えください。
林官房長官 この従前より政府として答弁してきておりますが、この大東亜戦争という用語、これは現在一般に政府として公文書において使用しなくなっているところでありまして、公文書においていかなる用語を使用するか、これは文脈等によるものであることからお尋ねに一概にお答えすることは困難であると承知をしております。その上で大東亜戦争という呼称について定義を定める法令はないものと承知をしておりますが、敢えて申し上げるとするとすれば、様々な受け止め方がありまして、例えば単なる地理的呼称で地域的に戦争の実態に適合しているとご指摘もあれば、先の大戦を美化し肯定する思想を含むと、そういう指摘もあると承知をしております。今後の対応等については防衛省にお尋ねを頂ければと思います
この答弁については従前の政府の答弁と同様です。
望月記者の質問は、「今回の行為について政府が認められない行為であると認識しているのか?」というものでしたが、これについては要するに「認められない行為であるとは言わなかった」ということになります。これも従前の政府側の姿勢から明らかでしたが、改めてその姿勢が維持されたと言えます。
「近衛兵の意思を受け継いだ部隊」も問題視する東京新聞望月衣塑子記者
望月 関連で今後のことは聞いて欲しいということですが、誤解を招いたという寺田大臣(※注:後に訂正したが木原防衛大臣のこと)の発言についても様々批判があるということはご存じかと思います。こういった発信については公式ツイッターで出るという事自体、遺憾であるということまで政府としては官房長官としては思っているんでしょうか。Xのアカウントの表現では「近衛兵の意思を受け継いだ部隊」という表現もございますが、この表現自体も問題がるというふうに思うんですがいかがでしょうか
林官房長官 寺田大臣ではなくて木原大臣かと思いますが、大臣の発言については大臣に詳細をお尋ね頂ければと思いますが、先ほど冒頭に申し上げましたように、今般の投稿につきましては、この当該部隊からは硫黄島における戦没者を日米合同で慰霊する行事を紹介するにあたり、硫黄島が激戦の地であった状況を表現するために当時の呼称を用いたものでありその他の意図については何ら無かったと、こう報告を受けていると承知をしております。先ども申しましたが、大東亜戦争という呼称は現在一般に政府として使用していないということを踏まえて、投稿については現に修正をしたといういうふうに承知をしております。
望月記者 関連で質問です。ということであれば激戦地を表現する際に使ったのであるから遺憾というところまで思い至らないという理解でいいんでしょうか。それから…(以下略)
林官房長官 前段先ほどお答えした通りでございます。(以下略)
「近衛兵の精神を受け継いだ部隊」というのは第32普通科連隊が従前から自称しているもので、道徳訓のようなものです。
林官房長官はこの事の是非については触れていませんが、つまりは特に問題視していないということになります。
法的には旧軍との組織の連続性は途絶えていると言えますが精神の話ですから。
組織の沿革から歴史的連続性を意識させることで部隊の規律を引き締める効果のある道徳訓を掲げていることは、殊更に問題視するものではないでしょう。
まとめ:大東亜戦争の語を削除した理由は誤解を招いたため:妥当な政治論争化の無い社会を作るために
部隊側の説明では大東亜戦争の語を削除した理由は「誤解を招いたため」ということですが、これは朝日新聞などを筆頭に学者や政治家等が問題視して政治論争化してしまっている現実があるからです。そのような主張が正しいかどうかにかかわらず、現にそれなりに妥当な主張として扱われているという実態があるということ。
しかし、もうGHQの命令は存在しません。日本国としてどういう言葉を使用するかは国家主権の問題です。イデオロギーを廃した用語法がより広まり、マスメディア等による難くせが採るに足らないものになった暁には、「大東亜戦争」という語が政府においても当たり前に使われるようになるのかもしれません。そのためには、妙なイデオロギーとセットで「大東亜戦争」の語を使うということを、一般国民の側においても避けることが重要でしょう。
工作によって「そういう用語法」で政治活動をする者とそれを取り上げるマスメディアというマッチポンプが為されるかもしれませんが、そうした動きから影響力を削ぎ、もはや妥当性の無い難くせとして扱われるよう、国民一人一人が意識していけばいいのだと思います。
編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2024年4月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。