混迷のラテンアメリカ:ベネズエラ、アルゼンチン機の通過禁止を宣言

アルゼンチン機がベネズエラ上空を通過できなくなった

アルゼンチン・ブエノスアイレスのエツェイツァ(Ezeiza)空港に駐機していたベネズエラの飛行機Entrasurボーイング747-300が米国の法廷から差し押さえ命令がくだされて機体が米国に移送されるという事件が起きた。

それに立腹したベネズエラのマドゥロ大統領はアルゼンチン航空を始め、アルゼンチンの国籍記号LVで始まる全ての飛行機のベネズエラ上空の通過を禁止した。その影響が出るのはアルゼンチンからニューヨーク、マイアミ、プンタカナに向かう航路で、少し遠回りした航路の設定を余儀なくさせられるということになる。(3月14日付「エル・コメルシオ」から引用)。

ベネズエラ上空を通過できなくなった理由

今回の出来事の経緯はこうだ。

先ず最初に、問題の機体の存在が明らかにされたのは昨年2月5日のこと。ブエノスアイレスの駐ベネズエラ大使館のスタッフが同機が長く駐機されているのをカメラに写したことから事態が急展開するのである。

昨年6月6日、ベネズエラのEmtrasurの1機がメキシコのケタロー市にて自動車部品を積んだ。それはアルゼンチンにあるフォルクスワーゲン社の車種TAOSにセットする部品であった。

同月8日、その任務を終えて本国に戻るために燃料の給油を要請。ところが、シェルは給油を辞退。理由は同機は米国から制裁を受けているからであった。

元々、同機はこの制裁の影響でメキシコに入国することさえ禁止されていた。ところが、メキシコで左派系のロペス・オブラドール大統領が政権に就いてからは米国の制裁を事態によっては無視する傾向にある。特に、同大統領はベネズエラのマドゥロ政権には比較的寛大な外交を展開している。ということから、Emtrasur機はメキシコのケタロー市で荷を積んでブエノスアイレスに輸送したのである。

ところが上述したように、ブエノスアイレスの空港にて燃料の給油ができないという事態になった。同機は隣国ウルグアイの首都モンテビデオの空港で給油することを計画し、同国に向かった。しかし、米国と良好な関係を維持しているウルグアイは同機が入国することを拒否した。そこで、同機は仕方なくブエノスアイレスに引き返した。

 機体は米国で解体されることになっている

乗組員はベネズエラ人が14名とイラン人が5名という構成。彼らは入国は許可されていないのでパスポートは没収された。イラン人が搭乗しているというのは、もともと同機はイランのMahan 航空の機体で、それをベネズエラが購入したので、その操縦などを指導する目的でイラン人が搭乗していたという説明だった。

ベネズエラはラテンアメリカでイランと最も親密な関係を持っている国なので、イランから飛行機を購入するというのは異例ではない。

同月17日、アルゼンチンの連邦警察は機内を検査して不審と思われるものがないか調査。また、イラン人の乗務員もテロリストではないことも判明。

同月19日、米国ニューヨーク・コロンビア地区の法廷からMahan 機も制裁の対象にされていることから機体の第3国への販売は禁止されていたのを違反したというのを理由に同機の押収命令が下された。

同月27日、担当判事ビリェナ氏はベネズエラ人へのパスポートの返却を許可。しかし、イラン人のパスポートは依然保留された。

8月2日と5日、ビリェナ判事は同機の米国への移送を許可した。

今年2月12日、同機は米国に向けて移送された。最終的に機体は解体されることになっている。

このような事態が発生して、マドゥロ大統領はアルゼンチンは米国の下僕だとして、アルゼンチン機がベネズエラ人の上空を通することを禁止するという手段に訴えたのである。

アルゼンチンは今年1月からミレイ大統領が執務についてから外交姿勢が180度転換。それまでのキルチネール派政権はベネズエラとも良好な関係を維持していた。ところが、ミレイ大統領は共産主義国や独裁国との関係は極力避けたいという姿勢から欧米に追随する外交に転換。その結果が今回の出来事である。

ミレイ大統領 同大統領インスタグラムより