会社が倒産した場合、社長と社員の身には何が起こるのか(横須賀 輝尚)

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もしも会社が倒産してしまった場合、社長や社員はどうなってしまうのでしょうか?

「会社が倒産してしまったらどうなるか、その実態を知る人は多くないと思います。センシティブな話ですし、会社が潰れて苦労した経験は、限られた人にしか話さないでしょうからね。」

と言うのは経営コンサルタントの横須賀輝尚氏。会社を潰した社長と勤め先を失った社員のリアルとは?今回は、横須賀氏の著書「プロが教える潰れる会社のシグナル」より、再構成してお届けします。

会社を潰した社長の「夜逃げ」

再建も清算も行わず、代表者が失踪してしまうのがいわゆる「夜逃げ」と呼ばれるものです。 これは代表者がほうぼうにもっとも迷惑をかけるやり方だといえるでしょう。 銀行から借りたお金を踏み倒し、社員への給料は支払わず、残った取り引きや債務も放置していなくなってしまう。これも倒産のリアルです。

代表者を捜索することもありますが、正直夜逃げされるとどうしようもありません。代表者の家族もろともいなくなってしまうケースもありますし、家族を残して代表者ひとりどこかに消えてしまうケースも。

例えば、自分の父親など実際に自分の家族に会社の代表者がいて、夜逃げされてしまった場合、経営者のその後は実に様々です。まったく連絡が取れず、生きているのか死んでいるのかさえわからないこともあれば、十数年後、ほとぼりが冷めたと考えひょっこり戻ってくる、なんてこともあるようです。

色々な形の倒産がある中で、再建型にせよ清算型にせよ、きちんとした終わらせ方をした経営者は再起してまた会社を興すことがありますが、夜逃げの場合だとこれがなかなか難しい。住居を借りるにもお金を借りるにも、記録が残ります。どこをたどって銀行や借金取りがやってくるか……と考えると、まともな職につけない。住民票ひとつ怖くて動かせない。なんて末路もあるとかないとか。これもひとつの倒産のかたち。

そして、残念ながら経営不振に対する自責の念によって、自らの命を絶ってしまうことも。悲しい結末ではありますが、これも倒産のリアルのひとつと言えます。

会社が倒産すると社員の身に起こること

会社更生法や民事再生法による法的倒産は再建を目的にしたものなので、雇用は継続されることがほとんどです。再建するわけですから、業務は続くわけで、社員がいなければ再建することは不可能です。

ただし、会社としては上手くいかなくなったわけで、減給などの条件変更は大いにありえます。とはいえ、雇用が残るので、働きながらいまの会社をもう一度信じるか、あるいは最低限の給料をもらいながら転職活動をするかという選択になっていきます。

これに対して、内整理や銀行取引停止処分による破産など清算型の倒産は、会社がなくなるため、もうその会社に所属し続けることができません。 まれに、自己破産の手続きを進めるために経理担当社員が残り、日当で給料をもらうなんてこともありますが、あくまで例外。セオリー的なことを言えば、会社が倒産するときに社員は「解雇」になります。

そのため、法律で決められている「解雇予告手当金」や、給料の未払いがあればその給料がもらえます。さらに、解雇ということは退職なので、退職金ももらえます。しかし、これはあくまでセオリーです。通常、ほとんど何ももらえないと考えていたほうがいいでしょう。だってお金がないんだから。

会社が倒産するときに、経営者の最後の矜持が見え隠れします。社員に迷惑をかけたから、すべての給与の支払い、そしてできるだけ退職金を出そうとする経営者もいます。一方で、「無い袖は振れない」と一切の支払いをしない場合も。

前者のような懐を持つ経営者もいますが、やはり経営が上手くいかない、お金がないからこそ倒産するわけで、退職金などは期待できないと考えておくべきです。

「働いたのだから、その分の給料はもらう権利があるはずだ」。確かにそうなのですが、権利があってもお金がなければ支払われることはありません。これを解決する制度が、「未払賃金立替払制度」です。これは倒産によって給料の支払いを受けられなくなった社員に対して、その未払い給料 の一部を労働者健康安全機構(JOHAS)が立て替えるという制度です。

労働者健康安全機構は、厚生労働省所管の独立行政法人。労災病院と呼ばれる医療事業を母体とする法人です。ちなみに未払賃金の立替支払いの原資は、労災保険。こんなところに労災保険料が使われているんですね。

次に失業保険の給付です。 失業保険に関する説明は不要かと思いますが、失業したときにもらえる給付ですね。会社が倒産したときは「会社都合退職」になりますので、失業手当受給資格決定から受給まで七日間という短い待期期間で受け取ることができます。

自己都合退職の場合は待期期間終了の翌日からさらに二ヶ月も待たなければなりません。だから倒産にかかわらず、会社を退職するときになんとか会社都合退職で辞めたいって人がいるんですね。失業手当も早くもらえますから。

最後に健康保険と年金。あなたが転職して、また別の企業に就職できた場合には、社会保険、厚生年金をそのまま継続ということになりますが、職につかなかった場合には原則として国民健康保険、国民年金への切り替え手続きが必要になります。

せっかく保険料を支払ってきたのに…と嘆く人もいると思いますが、救済措置もあります。社会保険は任意継続といって、在籍中に加入していた社会保険に継続して加入することもできます。社会保険の加入を続けることができるのです。ただし、在籍中は会社と折半だった保険料が全額個人の負担になりますので、その点は注意が必要です。

年金の方は、残念ながら国民年金に切り替えるしかないのですが、倒産による失業の場合には、国民年金保険料の減免申請が可能です。保険料がお安くなります。詳しい審査等については、日本年金機構や年金事務所に聞いていただくということで、解説はこのくらいにしておきましょう。

横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年4月23日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。