企業物価指数って何?:消費者物価指数以上の長期停滞

Anawat_s/iStock

1. 日本の国内企業物価指数

前回までは、実際の家計の消費となる現実個別消費についてご紹介してきました。

日本では家計最終消費支出が停滞傾向ですが、政府個別消費支出の増加もあり、現実個別消費は増加傾向となっています。

ただし、国際比較してみると先進国の中では、やや平均値を下回る水準のようです。

日本は物価が停滞してきた事が特徴です。

私たち消費者が直接購入するモノやサービスなどを対象とする消費者物価指数だけでなく、企業間取引の物価も停滞が続いてきたようです。

今回は、このような企業物価指数についてご紹介したいと思います。

企業物価指数 (総務省統計局ホームページより引用)
企業物価指数とは、企業間で取引される財に関する物価の変動を測定するものです。その主な目的は、企業間で取引される財に関する価格の集約を通じて、財の需給動向を把握し、景気動向ひいては金融政策を判断するための材料を提供することにあります。

企業物価指数は、国内企業物価指数、輸出物価指数、輸入物価指数の3指標が公表されています。

今回は、国内企業物価指数に着目してみましょう。

国内企業物価指数は更に大分類として、工業製品、農林水産物、鉱産物、電力・都市ガス・水道、スクラップ類から構成されています。

図1 国内企業物価指数 日本
日本銀行 企業物価指数より

図1が日本の国内企業物価指数の推移です。1960年を基準(1.0)とした倍率として表現しています。

青が国内企業物価指数総平均値となりますが、1970年代の狂乱物価等で上昇した後は、1980年代から長期間停滞している事がわかります。

参考までに消費者物価指数(黒)も表記していますが、消費者物価指数が2000年頃まで緩やかに上昇していたのに比べて、国内企業物価指数は1980年代から既に停滞が始まっていたのは意外かもしれませんね。

国内企業物価指数は、ほぼ工業製品(赤)と連動して推移している事がわかります。

国内企業物価指数が大きく工業製品の物価に影響を受けている事になりますね。

農林水産物、鉱産物、電力・都市ガス・水道も停滞傾向が続いている事がわかります。

ただし、鉱産物、電力・都市ガス・水道は2023年に極端に上昇していて、工業製品や国内企業物価指数もやや上昇しています。

工業製品のさらに詳細な項目の推移を見ると印象的です。

まず、生産用機器(橙)が工業製品と同じくらいの水準で推移していますが、一方で情報通信機器電子部品・デバイスは大きく値下がりしています。

1960年代の10%にも満たない水準です。これは、通信速度や処理速度が向上したことで、単位性能あたりの費用が極端に下がった事によると推測できそうですね。

自動車などの輸送用機器は1974年まで上昇した後は少しずつ低下しています。

一方で、輸入の影響も大きいと思われる石油・石炭製品木材・木製品は大きく上昇しています。

私たちが普段購入するモノやサービスよりも、企業間の取引の物価の方が20年ほど先行して停滞が始まったというのはとても印象的です。

2. 生産者物価指数

このように企業間の物価が停滞しているのは日本だけの状況なのでしょうか。

OECDでは、日本の国内企業物価指数に相当する指標として、生産者物価指数(PPI: Producer Price Indices)が公表されていますのでご紹介いたします。

生産者物価指数は、OECDの解説では次のように説明されています。

製造業における生産者価格指数は、生産者から出荷される際に販売される製品の価格の変化率を測定します。これらには、購入者が支払わなければならない税金、輸送、貿易マージンは含まれません。PPIは、さまざまな商品の生産者が受け取る価格の平均的な動きの尺度を提供します。これらは、消費財やサービスの価格の変化など、経済全体の価格変化の高度な指標として見られることがよくあります。製造業には、消費財や資本設備などの最終製品だけでなく、半加工品やその他の中間財の生産も含まれます。経済におけるインフレを測定するために、さまざまな価格指数が使用されることがあります。これらには、消費者物価指数(CPI)、特定の商品やサービスに関連する価格指数、GDPデフレータ、生産者物価指数(PPI)が含まれます。 この指標は市場全体と国内市場に対して提示され、年間成長率と指数の観点から測定されます。

国内製造業(Manufacturing, domestic market)についての生産者物価指数が一般的なようですので、その成長度合いについて比較してみましょう。

図2 生産者物価指数 国内 製造業 1980年基準
OECD統計データより

図2を見て明らかなように、日本(青)は主要先進国で唯一生産者物価指数が長期間停滞しているようです。

念のため、図1の国内企業物価指数のうち工業製品と比較してみましたが、かなり一致している事を確認いたしました。

他の主要先進国や、スウェーデン、ルクセンブルク、オランダなど所得水準の高い国々でも上昇傾向が続いています。

1980年の水準に対して、2023年ではイギリスで4倍弱、韓国、フランスで2.5倍程度、ドイツで2倍強で、日本は1.0倍に満たない状況です。

ただし、日本は2021年、2022年と上昇傾向が見られますので、今後はさらに上昇していく可能性もありそうです。

図2は1980年からの成長度合いでしたので、もう少し長期の1970年からのグラフも確認してみましょう。

図3 生産者物価指数 国内 製造業 1970年=1.0
OECD統計データより

図3が1970年を基準とした倍率です。

1970年からのデータがある国があまりないのですが、ドイツやフランスと比べて日本は長期間停滞している様子がわかります。

イギリス、韓国は10倍以上に達しているのが印象的ですが、ドイツもじわじわと上昇傾向が続いているようです。

特に1980年代前半までは日本はドイツよりも上昇傾向が強かったことが確認できます。

3. 企業物価の特徴

今回は企業物価指数生産者物価指数についてご紹介しました。

日本は消費者物価指数同様に、企業物価指数・生産者物価指数も長期間停滞が続いている事がわかりました。特に印象的なのは、消費者物価指数よりも停滞期間が長かったことですね。

当社も良く遭遇するのが、既に廃業を決めた加工業者からの転注の話です。30年、40年も依頼していた仕事が、経営者の高齢化などで廃業が決まり当社で引き継げないかといったご相談を多くいただきます。

基本的に実績のある加工品の場合は、実績価格をお聞きするようにしていますが、概ね当社平均価格(4,500円/時間)の2分の1~3分の1程度だったりします。

事情を聴いてみると、元々の加工業者では取引開始時から一度も値段を改定してこなかったそうです。廃業を機に様々な加工業者に相談したところ、従来単価の3~5倍程度の金額を提示され、当社に行きついたといった経緯が多いようです。

このように、特に製造業では価格を改定する事がタブー視され、長期間前値通りの取引となりがちですね。

そのような日本独特の商習慣が、この企業物価指数にも表れているのではないでしょうか。

適正な仕事の価値について末端の受託業者だけでなく、仕事を出す側も考えを改めるべきタイミングとなっているのかもしれませんね。

皆さんはどのように考えますか?

参考: 国内企業物価指数と生産者物価指数

国内企業物価指数 工業製品と、生産者物価指数 国内製造業の指標を重ね合わせてみました。

図4 国内企業物価指数 工業製品・生産者物価指数 国内製造業
OECD統計データ、日本銀行 企業物価指数より

図4は1970年を基準(1.0)とした倍率として表現したグラフですが、両者がよく一致している事が確認できると思います。

2000年ころからやや離れていますが、それ以前はほぼ一致しています。


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年4月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。