アメリカによる日本投資は何処までウェルカムなのか?

カナダ人はアメリカのことをどう捉えているのでしょうか?アイデンティティ的には「私たちのカナダ」という強い意識であり、アメリカはビジネスパートナーという割り切った関係と言ってよいでしょう。文化論的な見地からはカナダ人はアメリカをやや冷ややかな目で見ており、自分たちをより欧州バックボーン的立ち位置と見られることを好んでいるようです。事実、カナダは英国連邦の一つであり、私が住むバンクーバーもブリティシュ コロンビアと称し、州都、ビクトリアに行けば英国のテイストが強く残ります。一方、東に行けばケベック州が頑なに自らのフランス系文化を守り続けており、ケベック州に行くと海外旅行しているような気になるほど違いを感じます。

そんなカナダも世界一長い国境を接するアメリカとの関係には気を遣わざるを得ません。カナダ企業の多くはアメリカからの投資を受け入れています。食品やファーストフードなどもアメリカの影響を強く受けています。最近は多少変わってきましたが、私が来た頃はカナダのテレビ番組よりもよりエンタメ要素が強いアメリカのそれを見る人が多く、文化的影響も大きかったのです。

二国間の関係は割り切るところは割り切らねばなりませんが、カナダがアメリカに頼らざるを得ないのはカナダ主要都市がアメリカ国境沿いにあり、アメリカとの貿易やビジネス関係を基盤に経済が成り立っているからです。カナダとアメリカは資源大国、人口構成、文化、社会構造が似ており、言語がほぼ同じである点において補完関係というよりよりメキシコも加えた強大な経済圏と言った方が正しい気がします。

さて最近、アメリカが日本への投資を再び活発化させています。バフェット氏が日本の商社に投資し、岸田首相が日本への投資を促したことが功を奏し、アメリカの大企業トップが次々と日本を訪れています。最近のニュースでは投資ファンドのサーベラス社のダン・クエール会長が日本で記者会見をし、継続投資を表明しています。その中のキーポイントはサプライチェーンだと考えています。

令和4年9月21日 ニューヨーク証券取引所で「インベストインキシダ」と呼びかけた岸田首相 首相官邸HPより

アメリカからすると同じパートナーでもカナダでは出来ない技、能力が日本にはあり、補完関係とサプライチェーンの構築という観点からは今後のアメリカ経済を占ううえで外せないピースになるとみているのでしょう。例えばTSMCの工場投資でも熊本では突貫工事であっという間に開業にこぎつけましたが、アメリカ、アリゾナで建設する巨大工場は第一、第二工場共に2年ぐらい遅延の見込みです。私のようにこちらのスタンダードに慣れた者としてはあっ、そうぐらいでむしろ、日本では工程通りに完成するというのが驚愕で日本と手を結びたいと思うアメリカの企業経営者は多いのでしょう。

ヘッジファンドのエリオット・マージメントが住友商事の株を数百億円規模で手に入れたとも報じられています。アメリカからの投資は良い面もありますが、日本が無理に開国を迫られてしまう恐ろしさもまた併せ持っているとも言えます。東芝が一連の不祥事始末から非上場になる過程において外国人投資家に引っ掻き回されたのはまだ遠い昔の話ではありません。

日本企業は海外企業から投資されることに一定の歓びすら感じることがあるようですが、日本も十分な成熟国である点からするといつまでももろ手を挙げてウェルカムという時代ではありません。日本はサプライチェーンを含めた連携プレーの達人であり、もっと自信を持ってよいのです。私がホンダがカナダで1.7兆円もの投資事業を素晴らしいと思っているのは垂直統合型のビジネスをそっくり持ってくるという思想がなかなか真似できない点であります。

実際のところ、アメリカへの直接投資は国別ランクでは22年までの過去4年、日本が1位となっています。(22年は7752億㌦)よい傾向であり、攻めの体質をもっと強く持ってもらいたいところです。TSMCがアメリカにウェルカムされたのは最先端の半導体が欲しかったからです。日本は先端技術のみならず既存技術を改良し効率よくする能力も持ち合わせています。アメリカで活躍できる土壌はまだ相当あるとみています。

ところで最近の日本企業の海外直接投資に於いて一部企業が日本人派遣を減らす傾向があります。ローカル雇用に切り替え、責任者(=現法の社長)まで現地化する企業も多くなってきています。理由は2つあり、1つは日本人駐在員の現地適応レベルが十分ではないこと、もう1つは3-4年という派遣期間が短すぎて功績を残せない方もいらっしゃる点でしょう。駐在員が帰国後のことを考え、日本に向いて仕事をしている点は悩ましいところです。日本の人事制度と駐在員の役割付けに改善の余地があるといってよいでしょう。

人材採用は外部採用を含めた適任者割り当てという発想に変わってきています。日本は長年、江戸時代の目付け役(監視役)的な意味合いの駐在員派遣をしてきました。ライン業務(その会社の一貫する業務の一部を担うこと)は駐在員はあまりしません。ラインの仕事は現地スタッフに任せるというより、日本人駐在員にはラインの仕事を任せにくいと言った方が正しいでしょう。

では何のために来ているのでしょうか?数週間前の日経ビジネスにアジア系の識者が「日本人はゴルフクラブを置いて週末にもっと地元のことを見た方がいい」という趣旨を述べていました。

私は警鐘として今日のブログを書いています。アメリカの下請けになりたいならアメリカの投資をとことん受け入れたらよいでしょう。取締役には外国の役員がずらりと並び会社を数字で切刻んでくれるはずです。それが日本企業の得手ではないことは言うまでもありません。とすれば日本が今しなくてはいけないことはもっと自意識を高め、投資だけではなく、日本人がその才能を海外で発揮することではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月1日の記事より転載させていただきました。