上司の評価を下げずに「NO」を伝える賢い言い方(滝川 徹)

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上司から仕事を頼まれたら無条件に引き受けるしかない。そう考えている人も多い。しかし、「NO」の伝え方を工夫すれば、上司と良好な関係を保ちながら、仕事の負担を適切に管理することができる。

そう語るのは現役会社員・時短コンサルタントの滝川徹氏。今回は、滝川氏の著書『細分化して片付ける30分仕事術(パンローリング) 』より、手一杯で仕事を引き受けられないときに使える上司との交渉術について、再構成してお届けします。

「コミットできない」はおかしなことではない

余裕がないときに上司からあらたな仕事を依頼されたとしよう。一度NOを伝えたが上司も食い下がってきた。こういうときは、どうしたらいいのか。

まずはもう一度NOと言ってみる。そのときは「ありがとうございます。やりたい気持ちはあるのですが、今は正直ほかの仕事で手一杯です。この仕事にコミットすることができないので引き受けるのは難しいのです」と素直に伝えてみる。

「コミットできない」とは「仕事を期限通りに終わらせる約束ができない」ということだ。社会人として「コミットできない仕事はやりたくない」と伝えることはけっしておかしなことではない。この言い回しなら「ほんとは仕事を受けたい」という気持ちも伝えることができる。まずはこう伝えて上司の反応を見てみよう。それでもまだ粘られたらどうすべきか。

断るときは感情をストレートに伝える

ここから先が腕の見せどころだ。私は交渉するときにまず、自分の思い・感情をできるだけストレートに相手に伝えることを意識している。たとえば仕事が一杯いっぱいのときに、さらに仕事を依頼されたら君はどう感じるだろう?

私なら相手に対して「この人は私がどれだけ忙しいか、わかっていないんじゃないか」と不信感を覚える。ひいては「雑に扱われている・軽んじられている」とも感じるだろう。そのように感じたら、相手にできるだけストレートに伝える。たとえば私なら次のように伝えるだろう。

「申し訳ないですが先程も言いました通り、今ほかの仕事で手一杯で苦しんでいます。そのような状況下であらたに仕事を割り振られるのは、雑に扱われているようで悲しいです。また、私が抱えている仕事量を十分に把握されてないんじゃないかとも感じてしまいます」

ここでのポイントは「あくまで自分はそう感じる」と相手に伝えることだ。あからさまに「あなたは私に壊れるまで働けというのか」とか「私がどれだけ仕事をかかえているか、あなたは全然わかってない」と伝えたら上司もおもしろくないだろう。

そうなれば上司も「そんなことをいつ言った? 君だって私の立場をわかっていない」と返してきて、険悪になるだろう。忘れてはいけない。ここでの目的は相手を非難することじゃなく、状況を理解してもらうことだ。そのために自分が感じていることを伝えるのだ。

本音の共有がコミュニケーションの出発点️

君は「断るのに感情を添えたら、トラブルになるのではないか」。そう思ったかもしれない。なぜ自分が感じていることを相手に伝えることが大切なのか―それは、こうして心を開くことがコミュニケーションの出発点だからだ。

立場を逆に想像してみよう。君が上司の立場で、部下からつらい心の内・本音を打ち明けられたらどうだろうか。ハッとして、仕事の依頼事なんかよりも現在の様子を聞いてあげるのではないだろうか。

私の経験上、大抵の上司は共感してくれ、思いやりの気持ちをもってこちらに接してくれた。相手との関係性を悪化せずに交渉するにあたっては、感情を伝えるというこの土壌作りがとても大切になる。

「交渉」と聞いて相手とバチバチやりあうことを想像したかもしれない。交渉力とはそもそも「お互いが納得できるゴール」を目指して話し合う力で、相手を言い負かす力ではない。相手とやりあうのはビジネスで得策でないのは君もわかるはずだ。

特に相手が上司とあればなおさらだ。その場では上司が引き下がったとしても、心証が悪くなれば評価にも影響するかもしれない。その結果、仕事もやりにくくなり、長い目で見てさまざまなデメリットが生じることにつながるリスクもある。

大切なのは互いの考えをしっかり理解して話し合うこと。そしてその際は、お互いの本音をしっかりとオープンにすること。そのためにはまず、自分から本音をオープンにしなければならない。そうしなければ相手も本音を晒してくれないからだ。

だが、心の内を晒すのは勇気がいる。場数をこなしてきた私ですら、未だに「恥ずかしい」「情けない」と感じるときがある。しかしこれ以上仕事をかかえられないのも事実。勇気を出して切り出すしかない。君が「エイっ」と気合いを入れて向き合えば、大抵は相手も心を開いてくれるものだ。そうすれば本音で意見交換ができるようになるはずだ。

こうした交渉の土壌作りなしで相手と話し合えば、結果的に言い争いになる。お互いの現状や真意を理解せず、自分の主張だけを一方的にぶつけ合えば、どちらが正しいか・間違っているかを単に議論することになってしまうだろう。

先程も書いたがこれは得策ではない。激闘の末にたとえ君が勝ったとしても、長い目で見ればキャリアにマイナスになりかねない。そして大概は君が負ける。単純に上司のほうが立場が上だからだ。

君が勇気を出したことで話し合いの土壌が整ったら、ここからがいよいよ交渉の本番だ。私の場合、どうやったらこの問題を解決できるか、上司が一緒に考えられるよう提案を行っている。

代替案を提示し、上司とwin-winの解決策を探ろう

たとえばAという仕事を上司から頼まれ、断ったとする。が、上司は引いてくれなかった。私はここで、なぜそもそも私に依頼をしてきたのかを尋ねる。そしてその理由に基づき、別の適任者を考え、その人にお願いしてはどうかと提案する。

もし該当者がいない場合はどうするか。その場合は自分が抱えている仕事Cをほかの人にお願いできないかを尋ねてみる。それならAの仕事を引き受ける余裕ができるからだ。こうして仕事の割り振りで「自分OK、相手もOK」と思えるラインでの合意(win-win)を目指そう。問題解決のために「第三の選択肢」を上司と一緒に模索するのだ。

代替案を提示するのもありだ。たとえば「私は仕事Aが正直あまり得意ではないので、代わりに仕事D(自分が好きな仕事を言ってしまおう)であれば、なんとか現状でもコミットできると思います」と提案するのだ。

どうせあらたに仕事を引き受けなければならないなら苦手または嫌いな仕事を引き受けるより、得意または好きな仕事を引き受けたほうがまだいい。そのほうが自分も手をつけやすいし、より会社に貢献できるはず。少なくとも私はそう考えている。

これらの提案に上司が一発でOKと言ってくれるときもあれば、そうでないときも当然ある。NOの場合はもちろんその理由を聞き、上司が求める条件をしっかり踏まえたうえで別の代替案を提示できそうならする。そうしてお互いが合意できそうな条件を探し当てるように話し合いを続ける。

最悪の場合は「NO DEAL」とする

それでもどうしても、上司と条件が折り合わないときはどうするか?私は「NO DEAL(合意しない)」という選択肢を取る。このときグダグダと理由を説明する必要はない。「申しわけないのですが、これ以上はできかねます」と言う。気まずい雰囲気が流れるかもしれない。それでもそのまま黙っていよう。相手が口を開くまで、待つ!

ここまできてNO DEALとなれば相手もあきらめてくれる可能性が高い。あるいは先程までの話で提示した第三の選択肢で手を打とうと言ってくるはずだ。上司には部下に強制的に仕事を課す権利はある。しかしそれはあくまで最終手段だ。大抵の上司は部下に仕事を無理やりやらせたいとは思っていない。

もし「これは命令だ」と言われたら、よっぽどの場合と考えよう。そのときはその仕事を引き受けるしかないだろう。しかし私なら「それなら仕方ありませんが、先程も言ったようにコミットできないと思うので、ベストは尽くしますが何かあったら必ずフォローはお願いします」と強く相手に釘を刺しておく。何か問題が起きたときに「コミットできないと言ったのに、それでも仕事を任せたあなたの責任ですよ」と言えるようにはしておかなければいけない。

大抵の交渉はうまくいく

上司への断り方について、最悪のシナリオにいたった場合も含めて説明した。ここでいいニュースがある。それは勇気を出して自分の心の内を晒せば大抵の場合、交渉はうまくいくということだ。

私はこれまでかなりの数の交渉をこなしてきた。しかし最悪のシナリオにいたったことは一度もない。大抵は第三の選択肢が見つかるし、話し合いも穏やかに終わる。だがこればかりは「やってみればわかる」としか言えない。ぜひ挑戦してみてほしい。

「断る」「交渉」という行為はスキル・技術を要する。スポーツも楽器も、実際に体を動かして練習しなければ上達どころか基本すらできるようにならない。「断る」「交渉」も同じ。練習(場数)がものをいう。スキルとはそういうものなのだ。

いきなり完璧を目指す必要はない。「これなら断れそう」と感じる小さな案件から挑戦してみること。成功体験を積んでいくことが大切だ。地道に続けていこう。気がつけば私のように断ることが当たり前になっているだろう。

滝川 徹(タスク管理の専門家)
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。 

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年5月7日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。