「DIE WITH ZERO」のハードルは思ったよりずっと高い

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DIE WITH ZERO」というベストセラーがあります。何か資産を残すのではなく、死ぬまでに使い切ってゼロの状態にしようという生き方を提唱しています。

私には現時点では資産を残したいと思う子供もおらず、パートナーもいませんから、このライフスタイルには大いに共感しました。

しかし、実際に「DIE WITH ZERO」を実践しようとすると、現実的な困難がいくつかあることに気が付きました。

まず金銭的な資産を減らすことが必要です。収入よりも支出を多くしないと資産は増え続けることになってしまいます。私の場合、自分が働かなくても投資している資産から定期的な収入が入ってくるような仕組みがあります。国内外の不動産や投資先からの配当、私募債の金利など毎月使い切れない金額が振り込まれてきます。

それなりにお金を使っていますが、さすがに収入を超えて消費をするところまではいっていません。「DIE WITH ZERO」を実現するにはもっと派手にお金を使う必要があります。正直、そんな生活にはあまり興味がありません。

次に、今持っている様々な資産を処分して現金化する必要があります。しかし、現実には投資対象が次々と広がって資産を処分するどころか、新たな資産が次々に増えています。

自宅にはワインやウイスキーが数百本あって、投資用に購入したものもありますが、恐らくもう飲み切れません。入り切らないので、新しいワインセラーを購入しました(写真)。

また、今年に入ってからも気に入った現代アートの作品を購入したり、日本刀を購入したりしました。スタートアップ企業にも資金を提供しています。

これらの投資活動は、もちろんリターンを得ることを目的にはしていますが、自分が好きでやっているもので、これからもっと積極的にやっていきたいとすら思っていることです。

もし、「DIE WITH ZERO」のために止めてしまったら、自分の人生は逆に味気なくつまらないものになってしまいます。

上記のような問題を解決するには、自分の資産を現金化して自分で使い切ってしまうのではなく、自分が持っている資産を手放して、世の中の役に立つような形で活用してもらえる方法を見つけ出すことです。

日本には税制の問題もあって、社会貢献のためにお金を使うのは簡単ではありません。

潔く恰好良い生き方に見える「DIE WITH ZERO」ですが、実現するのには意外に様々なハードルがあるのです。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2024年5月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。