コロナ時に医療情報の信憑性に批判が相次いだことは記憶に新しい。私たちに伝えられている医療情報には間違っているものが多いことを理解しなければいけない。
今日は、精神科医、作家として多数の情報を発信している、樺沢紫苑さんの新刊を紹介したい。
『脳を最適化すれば能力は2倍になる』(樺沢紫苑 著) 文響社
情報に強くなる
情報の取捨選択が必要になる。たとえば、うつ病にはセロトニンが効果があるとされている。セロトニンが低下することで、心身のバランスが崩れる危険性があることは知られているが、私たちはセロトニンに関する一部の情報しか知らない。樺沢さんは次のように指摘する。
「人間はストレスに直面すると、セロトニンが低下します。ストレス状態とは闘うか逃げるかの緊急事態ですから、のんびりと『癒しモード』ではいられません。癒しの物質であるセロトニンが、抑制されるのです。さらに、長期にストレスにさらされると、セロトニン活性が低い状態のまま固定化してしまいます。これが『うつ病』の状態です」(樺沢さん)
「セロトニンは不安をやわらげる作用があると言われています。そのセロトニンが低下すると不安が現れるのです。これが極端にひどくなると、強い不安感を症状とする『強迫性障害』や『パニック障害』などに移行する可能性があります」(同)
セロトニンは「食欲や嘔吐」などにも関わるそうである。進行すると食欲のコントロールができない「摂食障害」となり、過食などの症状を引き起こす。また、視床下部は「睡眠と党醒」に関わっているため、セロトニンが低下すると「睡眠障害」などの原因にもなりかねない。
「セロトニンの低下は恐ろしい状態を引き起こします。セロトニンの活性が悪い人は、見ただけでわかります。まず表情に覇気がない。そして全体に元気がないのです。セロトニンは表情や姿勢に影響を与えますから、活性が悪いと大脳基底核の主要な構成要素のひとつである『線条体』を通して、表情筋や抗重力筋を弛緩させてしまうのです」(樺沢さん)
正しい医療情報とは
樺沢さんによると、セロトニンのメリットを話すと、「だったら、薬で増やせばいいんじやないの?」と、短絡的に考える人が必ずいるそうである。
「数十年前から使われている昔ながらの抗うつ薬『3環系抗うつ薬』とSSRIを比較したいくつかの研究では、SSRIによって引き起こされる自殺率は、3環系抗うつ薬と同程度という結果になっています。うつ病や強迫性障害の患者さんにSSRIを投与して『イライラが強まる』ということは、私も実際の患者さんで経験したことがあります」(樺沢さん)
「これはSSRIの投与を減らすか中止すれば収まります。医師とよく相談して薬を服用するのは、精神科も内科の薬も同じことです。逆に精神疾患でない人はSSRIを飲んではいけません。副作用の危険性があります」(同)
樺沢さんは、薬を飲まずにセロトニンを活性化する方法を推奨している。その方法が、朝散歩である。朝の散歩で日光を浴びることで活性化する。さらに、適度な運動や食事の際の正しい咀嚼にも効果がある。安易に薬に頼るようなことは控えなければいけない。薬の副作用や弊害についても正しい情報を習得を心がけたいものである。
本書には、人間の能力について脳のどの部分がどのように関与しているのか、強化するには何をすべきなのか、具体的な方法を学術的根拠に基づき紹介している。脳科学をベースにした新しい情報について学ぶことができるだろう。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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