上川外相の国際感覚のなさと無神経は総理として不適格

ダイヤモンド・オンラインで、『「岸田首相もお粗末だが後継候補はさらに……」上川外相が首相にふさわしくないワケ』という記事を書いたので、お読み頂ければ幸いです。

日本は20世紀の後半、経済は絶賛され続けたが、政治と外交の評判はよろしくなかった。「経済は一流だが、政治・外交は三流」などといわれていた。

ところが、安倍晋三首相の登場で、「経済成長は世界最低水準だが、政治は先進国の中で最も安定し、外交では安倍首相が世界で最も尊敬される指導者の一人だ」とすらいわれた。

だが、岸田文雄首相の下では、「対米追従」と、気前のいい「現金自動支払機」という昔の姿に戻ってしまった。

しかし、 駄目なのは岸田首相だけではない。上川陽子外相の外相会合の映像を見ると、何かおどおどしている。外交現場からは、やたら形式的なことに細かいとか、文章を長くするのでメリハリがなくなるとの声があり、一方で活躍したというエピソードは聞こえてこない。

上川陽子外相
NHKより

一部メディアは持ち上げているが、とてもサミットで大活躍などできそうもない。この人は、法相時代にオウム真理教関係者をいちどに死刑執行して蛮勇を一部からたたえられている。

 

それは、安倍首相にとって重要な欧州歴訪直前だった。この訪欧は水害のために中止になったものの、もし訪欧していたら記者会見でこの件を追及されて、成果が台無しになるところだった。

しかも死刑執行の前夜に、首相も交えた会食の場で「大はしゃぎ」していたなど、政治家としての国際感覚はゼロだとしか考えられない。

 

以下は、2018年7月7日にアゴラに書いた記事の要旨である。

麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚らオウム事件の首謀者らに対する刑執行について、以下政治的、外交的な視点も交えて考察すると、問題提起として次の6点を挙げたい。

① 私は死刑廃止ないし執行停止論者だがそれは今回の執行とは別の問題だから、死刑執行に反対ではない。

② 海外からの抗議に内政干渉というのはまずい。

③ 首相訪欧を前に7人一斉に執行したのは稚拙だ。

④ 家族の面会をさせないで執行というのはいかなる理由があろうが解せない。

⑤ オウムの報復が怖いからとか、真相究明が不十分だから執行すべきでないというのはおかしい。

⑥ 法相が前夜酒宴に出ていたのには違和感がある。

① 私は死刑廃止ないし執行停止論者だがそれは今回の執行とは別の問題だから、死刑執行に反対ではない

私は世界的に死刑廃止がトレンドであり、とくに、ヨーロッパ諸国が廃止し、死刑は人道に反すると考えている一方、死刑があるからといって犯罪が減るとはいえない以上は死刑制度を続けることはデメリットの方が遥かに大きいと考えている。

世界で日本という国が良い地位を占めて行くに当たっては、多くの先進諸国が否定的な問題については、日本でよほど特殊な事情があるのでなければ、大勢に従っておいた方が良い。

たとえば、LGBTでも、ついこのあいだまで欧米のほうが厳しく否定していたものを急にヒステリックに肯定しているのにはあきれるが、別に、日本人がむきになって否定することもあるまいから世界の大勢にあわせておけばいい。

死刑もそれで犯罪が減るわけでもないのだから、その制度を置いておくことで、野蛮国扱いされてもいいことはない。韓国・ロシア・インドなどでも廃止かそれに近い状態にあるのに、日本はどうしても必要ともいえないし、韓国と違って日本は「死刑があるからより野蛮な国である」といわれたり、「中国や北朝鮮と日本は同質だ」といわれて国益を毀損するだけだ。韓国が日本より文明国というキャンペーンに利用されるだけだし、そういうことが、安全保障上も経済的利益についてもマイナスになる。

② 海外からの抗議に内政干渉というのはまずい。

海外からの抗議に対して内政干渉だとかいうのは、止めた方が良い。「人道問題に内政干渉はない」のは文明国のコンセンサスであり、死刑の是非はともかく、人道問題の普遍性を否定するようなことをいうのはよろしくない。

③ 首相訪欧を前に7人一斉に執行したのは稚拙だ。

松本死刑囚への執行だけでも目立つのに、いっしょに6人も執行してニュースバリューを上げたのは「大馬鹿」だ。ヨーロッパの世論を無用に刺激するだけで、首相の訪欧を前に何を考えているのだろうか。

④ 家族の面会をさせないで執行というのはいかなる理由があろうが解せない。

松本死刑囚の家族の面会をかなり長期に渡って認めていなかったのだが、死刑を執行するなら、どんな状態であろうが、いちど会わせておいて良かったのではないか。無用な無念さを家族に残すだけだ。

⑤ オウムの報復が怖いからとか、真相究明が不十分だから執行すべきでないというのはおかしい。

⑥ 法相が前夜酒宴に出ていたのには違和感がある

一方で有田芳生氏の言い分のうち、少し同じ思いなのは、「首相と法相は前夜に宴会でした」という部分だ。これは法相権限だから首相は関係ないが、法相は前夜と当夜は瞑想にふけるくらいであってほしい。池田光政は、家臣に死を命じたあとは、報告を聞くまで瞑想していたというし、ジスカールデスタンは死刑を命じたときの心の葛藤を回顧録で詳しく綴っている。宴会で楽しい顔をしているのは感心しない。