アジアの金融ハブと言われる香港とシンガポール。
約10年前、香港のHSBC銀行を訪れて銀行口座を開設することがブームになっていました。しかし、そうした一時のブームではなく、活用している人は活用しているのです。
香港・シンガポールの銀行のアドバンテージを見ていきましょう。
香港・シンガポールの銀行は、証券会社の機能を兼ね備えている!
日本や米国では、決済機能を営む銀行がリスクの高いビジネスを行わないようにするため、銀行業と証券業を原則として分離する「銀証分離」の政策がとられてきました。
徐々にこの分離は緩和されて、いまでは、銀行も金融商品の販売に熱心になってきていますが、銀行と証券は別というのが原則です。
一方、ヨーロッパでは、銀行業と証券業は分離されず、こうした業態は「ユニバーサルバンク」と呼ばれます。そして、英国の植民地だった香港・シンガポールは、このヨーロッパ流のシステムを受け継ぎ、銀行で様々な金融商品を扱っています。
そのため、銀行に口座を開設するだけで、様々な金融商品への投資をできるというのが、一つ目のメリットと言えます。
香港・シンガポールの銀行は、海外送金がラク!
富裕層の中には、海外投資をしている方が多いと思います。
ただ、日本の銀行から海外の銀行口座に送金するのは簡単ではありません。銀行員から「何のための送金ですか?」と聞かれたり、不動産を買うと伝えても、「契約書を見せてください。」と言われたり。自分の金を使うのに、なぜ、ここまで面倒な手続を要求されるのか、と思った方も少なくないでしょう。
しかし、香港やシンガポールの銀行から海外送金する場合、そんな面倒な質問を受けることは滅多にありません。パソコン・携帯電話の操作だけで済むことも多いです。
マルチカレンシー口座を使って、「ハブ空港」のように使う
香港やシンガポールの銀行では、米ドル・香港ドル・シンガポールドル・日本円・人民元など複数の通貨で入金された場合、その通貨のまま保管できる「マルチカレンシー口座」を普通に作ることができます。
たしかに、日本でも、「マルチカレンシー口座」を開設できる銀行はあります。
しかし、先ほど書いたように、海外送金が簡単ではありません。ですから、「日本の取引先から100万米ドルの入金があったから、米ドルのまま保管する。2か月後に、そのうち30万米ドルでタイの不動産を購入する。」というような使い方をするには便利とは言えません。
一方、香港やシンガポールの銀行の場合、海外送金も簡単ですから、「日本の取引先から100万米ドルの入金があったから、米ドルのまま保管する。2か月後に、そのうち30万米ドルでタイの不動産を購入する。」というような使い方をしやすいのです。
航空の世界で「ハブ空港」という言葉があります。東京からインドネシアのバリ島に行くとき、東京からシンガポールまで飛行機に乗り、シンガポールでバリ島に行く飛行機に乗り換えることがあります。そういう乗り換えに便利な空港を「ハブ空港」と言います。
香港やシンガポールの銀行は、グローバルに資金を使っていく場合に、「ハブ空港」として使いやすいのです。
途上国・新興国に住みつつ、香港やシンガポールの銀行で資産管理
最近、海外に住んでフリーランスで仕事をしている人も増えてきています。
移住先が香港やシンガポールの場合、移住先であり金融ハブの香港・シンガポールに、会社を作って銀行に法人口座を開く、あるいは、銀行に個人口座を開く、そして、その口座を活用して投資をしていくことになりますが、とても便利です。
では、発展途上国や新興国に住んでいる場合はどうでしょうか?
たとえば、新興国のタイ、首都のバンコクは日本人が5万人以上も住み、高級ショッピングモールからドン・キホーテまで揃う、日本人が住みやすい都市です。
ところが、海外送金の自由化はまだまだです。送金によってはタイ中央銀行の事前承認が必要ですし、取引との関連のない海外送金は年間5万ドル(約750万円)という上限があります。
【参考】JETROのウェブサイト(タイの為替管理制度について)
そのため、タイに住んでいても、自分の資金の管理をタイ国内で行うのは考えものです。むしろ、タイに住んでいても、タイ国内の銀行には家賃など普段の生活に必要なだけ入れ、まとまった資金は香港やシンガポールなど金融ハブの銀行で管理する方が便利です。
香港とシンガポール、どちらが便利?
ここまで、香港やシンガポールの銀行のメリットを説明してきましたが、香港とシンガポールを比べた場合、どちらが良いでしょうか?
筆者は香港・シンガポール両方の銀行口座も使っていますが、どちらの口座も同じレベルで、甲乙つけ難いです。
ただ、口座の開設しやすさはかなり違います。
まず、個人口座を見てみましょう。香港居住者が香港で口座開設をする、シンガポール居住者がシンガポールで口座開設をすることはもちろん可能です。では、香港非居住者が香港で口座開設できるか?というと、楽ではありませんが十分可能です。一方、シンガポール非居住者がシンガポールで口座開設できるか?というと絶対に無理とは言いませんが、とても厳しいです。
次に、法人口座を見てみましょう。香港法人が香港で口座開設をすることは、香港在住の取締役がいれば十分可能ですが、シンガポール法人がシンガポールで口座開設することは、香港に比べ難しいと感じています。
トータルで見て、香港の方がシンガポールに比べ、ハードルが低いと感じています。
こうした違いはありますが、香港・シンガポールとも、使い勝手の良い金融ハブ、是非使いこなしていきましょう。