もしも徴兵制が復活したら?

ロンドンに住む知り合いの英国人ビジネスマンに「オタクの国は一体どうしちゃったのかね?スナク首相もずいぶん無理な解散総選挙に挑むのだね?」とメールをしたところ、皮肉交じりの「まったくもってどうなっているのかねぇ」との返答に思わず笑ってしまいました。7月4日の解散まで6週間しかない中で圧倒的劣勢が伝えられる与党、保守党が解散総選挙を急いでやる理由はどこにあるのかと書いてありました。

リシ・スナク首相 同首相SNSより

スナク氏はインフレ率も3月の3.2%から4月には2.3%に低下したし経済も欧州大陸諸国に比べよいだろう、というのを解散の理由の一つにしています。しかし、英国はEU離脱問題に端を発し、その後の政権運営がボロボロだったことが、迷走の原因というのが一致した見解。世論調査でも「今、選挙をやれば野党の労働党に入れる」という比率が与党の2倍近くになっています。つまり負け試合なのですが、我慢したところで25年1月が満期に伴う総選挙でしたので半年早まっただけとも言えます。

そのスナク氏がヤケクソなのか、本気なのかわかりませんが、「もしも我が保守党が勝利した暁には徴兵制を復活させます」と公約に盛り込んだのです。これはさすがの英国人も「やりすぎだろう」と思っているでしょう。私もくだんの英国人にさっそく追加のメールでもして聞いてみたいものです。

この徴兵制の中身ですが、BBCによると18歳を対象にし、フルタイムの徴兵は30000人募集、それ以外にひと月に一回の週末を社会奉仕型の義務として消防、警察、公共医療サービスを選択することもできるようです。期間は1年間で週末型の場合は年間25日を見込んでいます。つまり一般でいう徴兵制とはかなり違うソフトな内容に見えます。

徴兵制をする背景はいくつかあるようです。一つは英国陸軍が2010年の10万人から現在は7万3千人まで減っていること、ロシアやイスラエルの軍事行動が潜在的な国防の意識を高めていること、失業率が4.3%(4月)で高止まりしており、失業対策が必要なことがあります。また徴兵制度は欧州全体だけ見ると増えたり減ったりしているのですが、ここにきてロシアの潜在的脅威から北欧諸国を中心に徴兵を再度始めているところもあります。またご承知の通り、スイスはずっと徴兵制度があります。

英国人18-24歳にこの公約についてアンケートしたところ78%が反対となっています。

さて、では徴兵制を我が国に導入するという話が出たらどうでしょうか?上を下への大騒ぎになることは確実でそれこそ、そんなことを言い出した政党は消滅の危機になるのかもしれません。もともと日本では徴兵=赤紙というイメージがこびりついているし、ろくに武器もなく、弾薬もなく、戦略も戦術もなく、やみくもに「決死の戦いに臨むのだ」「はい、死んでお国のために頑張ります」というお涙頂戴の話が強い印象になっていることはあるでしょう。

戦時下ではないときの徴兵で訓練を受けた場合でも将来、戦争になった場合、呼び出されるリスト入りしているので「お国のために頑張ります」はなんら相違はないのですが、日本がかつて挑んだ陸軍の泥沼の戦いは日本の現在の憲法からすると起こりえないし、あくまでも国防という観点の意識を高めるもので一種の啓蒙的行動ととらえたほうが良いのでしょう。

私がこんな唐突なことをふと考えたのは最近の日本の社会事件のレベルがばかばかしいほど低く、ニュースを見るたびに日本は一体どうしちゃったのと思わずにいられないからなのです。若者が誰かに雇われて殺人をする、強盗をする、家族同士の殺し合い、警察に追いかけられて逃走する車で事故る…。問題を起こしていなくても怠惰な生活、Youtube番組視聴とゲーム三昧の日々、何をやるにも「かったるい」といって動かない若者が多いのです。

日本は平和で安全な国というイメージが強かったのです。今でも玄関にカギをしない家は結構あるはずです。泥棒が来るという意識がないのです。先日も外国人の犯行でしたが、ぽつんと一軒家が狙われて強盗が押し入りました。そのうち、泥棒するだけなく、放火して証拠隠滅のつもりをする輩も出てくるでしょう。良識ある人間とは到底思えないのです。

このゆがんだ社会を立て直すには刺激的な政策は確かに必要かもしれません。スナク首相は英国の徴兵制度案についてこう述べています。”I will bring in a new model of national service to create a shared sense of purpose among our young people and a renewed sense of pride in our country.” (私は国家奉仕の新しいモデルを導入し、若者の間に共通の目的意識を生み出し、我が国に対する新たな誇りを生み出します。)これは素晴らしい発想だと思います。

英国や日本だけではなく、世界全般で価値観が変わってきてしまったのです。私は飽食の社会が生み出した共同社会構築の欠如ではないかと考えています。日本も個人主義が異様に進んでしまったのです。若者はそれを「個性」と称するのですが、皆さんが立っている土台は同じところにある、という意識を取り戻すためには徴兵だと語弊があるので、「社会奉仕義務」を1年間ぐらい取り入れるのはむしろ国民のベクトルを正すという意味で箸にも棒にも掛からないわけではなく、むしろ悪くない発想なのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月27日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。