切り取り発言問題は昨日今日に始まったわけではなく、SNSの普及とともに拡散しやすくなったことで問題が顕著化する傾向にあると思います。私もこのブログを書く際にメディアの一部の記述、表現ないしコメントをコピペするので切り取っているわけですが、切り取るにはそれなりの主張がそこに含まれているからで、疑問がある場合にはあまり使わないようにはしています。
切り取られる表現を私はバイアスがかかった表現と考えています。例えばある事象に対して一般の人が平均10段階評価で7と考えることをコメンテーターがそれを8,9、10といえばバイアスが相当かかった表現でとなり、逆に6,5,4などになると過少の評価ということになります。コメンテーターは
① 意図的にバイアスをかける場合
② 言い間違える場合
③ 表現力が未熟で正確に相手に伝わらなかった場合
などその背景は様々です。よって注目される発言があった場合、文意として前後関係を確認すると同時に①から③のどれなのか、判断する必要があるのですが、切り取るメディアは時としてこの区別をせず、味噌も糞も一緒くたにするのみならず、更にバイアスをかけるよう仕向け、自分のメディアへの注目度を高めようとするので彼らが逆に世の中を混乱させているともいえるでしょう。
静岡の選挙が終わるまで、上川外相の発言が尾を引いていました。同外相が静岡県知事選で自民党推薦候補の応援演説の際「この方を私たち女性がうまずして何が女性でしょうか」と発言した問題については同外相はすぐに発言を撤回しました。私が初めに聞いた時、③に近いものだろうとし、話題にも振りませんでした。まず、上川氏が女性差別発言をするような人には見えず、意図的なバイアスはなさそうだと直感しました。言い間違えというより自民推薦知事の「誕生」への期待とする表現をBirth=生むという言葉に置き換えただけの話で表現力の未熟さ以外の何でもないでしょう。
次にやり玉に挙がった植田日銀総裁の発言をみてみましょう。問題の発言は4月26日の日銀政策決定会合のあとの記者会見で飛び出したものです。「記者から『(円安の)基調的な物価上昇率への影響は無視できる範囲だったという認識でよいか』と問われると、植田氏は少しためらいながらも『はい』と答えてしまった」(日経)です。実はこの発言を聞いた時、私はたまげてしまいました。総裁は二枚舌なのか、と疑ってしまったのです。それまでは利上げに対してタカ派発言に近いスタンスであっただけに私は植田総裁は疲れているのか、質問の趣旨を理解していないか、全く違う次元のことを考えていたかのどれかであろうと見たわけです。
それを受けて市場は円安容認と取ります。そりゃそうです。ここまではっきり「はい」と答えられると日銀は為替には無関心なのだな、と思わせるに十分なインパクトだったのです。ではこれは失言だったのか、この答えはいまだにわかりません。私が総裁を代弁するなら、「円安で輸入コストは上昇したが、輸出企業の利益も出ているため、相殺すればさほどではない」と考えた節があります。
ただ、そうならば植田氏は大事な点を忘れています。円安で潤う輸出企業や自動車会社は国民に直接的な還元はないのです。ところが円安に伴う輸入物価の上昇はガス電気価格や食品、資源を含めあらゆる分野で個人消費者や家計にダイレクトに響いているのです。つまり、学者の好きな計算式では誰がどこで影響を受けているか測れないのです。これがポイントだったのではないでしょうか?
切り取り発言で問題になったケースは枚挙にいとまがありません。静岡県の川勝元知事の「野菜と知性の発言問題」森喜朗氏の「女性の話は長い発言」などは迷言の代表作でしょう。
しかし、それを言うなら中国の呉江浩大使が日本が台湾問題に首を突っ込めば「日本の民衆が火の中に引きずり込まれる」と発言した件などは到底許せないわけで日本のSNSで何故盛り上がらないのか、なぜ、日本人は日本人叩きだけするのか不思議でしょうがないわけです。外務省は厳重抗議をしたとありますが、ペルソナノングラータぐらいしてもよく、毅然とした態度を日本政府が示すべきです。岸田さんもよい顔役ばかりではなく、せっかく李強首相と会ったのですから、そこでいうべきは言うの姿勢を貫き、ケンカをするぐらいの迫力を見せないとだめです。体を張ってほしいです。
発言の切り取りは今後もあるでしょう。ただ、背景と発言者の真意を踏まえ、一様にバッシングするのではなく、「人は誰でも間違える」「笑って済ませる失言レベル」なのか「国民挙げての大騒動に引きづりこまれる」のか判断をすべきで、のべつ幕なしではメディアのセンスを疑ってしまうというものです。
その点で見ると私から見た「失言王」は麻生さんだと思いますが、氏は意図的というより頭脳と口というスピーカーの性能レベルが不一致で考えていることを表現するのにいささか難があるということだろうと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月29日の記事より転載させていただきました。