マクロン氏の3日間のドイツ国賓訪問

フランスのマクロン大統領は26日から3日間の日程でドイツを公式訪問した。国賓としては2000年のシラク大統領以来24年ぶりのドイツ訪問となった。ウクライナ戦争が勃発して以来、独仏間にはウクライナ支援で政策や方向性の違いが浮き彫りとなったり、首脳間のコミュニケーションがスムーズにいかない場面が目立っていた。それだけに、マクロン大統領のドイツ訪問で両国間の意見調整、リセットが進められるものと期待された。その狙いは成功しただろうか。

ドイツを国賓訪問したマクロン大統領(左)と歓迎するシュタインマイヤー大統領(2024年5月26日、ドイツ連邦大統領府公式サイトから)

マクロン大統領のドレスデンでの演説(2024年5月27日、ドイツ連邦大統領府公式サイトから)

初日の26日はベルリンでシュタインマイヤー大統領との首脳会談が行われた。その後の記者会見で、シュタインマイヤー大統領はフランスからのゲストを歓迎し、「独仏両国の団結」と強調し、マクロン大統領は「独仏友好の重要性」を改めて指摘した。

マクロン氏はフランスとドイツ間で不協和音があるという報道について、「それは事実ではない。私たちは前進している」と述べ、シュタインマイヤー大統領は、「独仏協力は一部のコメントで批判されるような状況だとは思わない。両国が常に同じ意見を持つ必要はない。我々は二つの異なる国であり、異なる利益を持つこともある」と述べ、共同防衛プロジェクトなどの最近の進展に言及した。マクロン氏はまた、「当然、我々は同じではなく、常に同じことを考えるわけではないが、ヨーロッパの進展は共に前進し、共に決定を下すことによってのみ達成される」と説明している(「独仏の間に隙間風が吹く」2024年3月18日参考)。

会談では欧州の現状、ウクライナ支援、極右ポピュリズムへの対応などで意見の交換が行われた。マクロン大統領は国内で支持率30%を獲得してきた右翼政党「国民連合」に言及し、「国民が民族主義、極右運動に魅力を感じてきている」と警告を発し、「欧州が消滅する危険性が出てきた」と述べている。シュタインマイヤー大統領は「ドイツ人とフランス人は特に、自由、平和、民主主義が天から降ってくるものではなく、闘い、交渉し、防衛し、強化されるべきものであることを知っている」と語った。

2日目の27日はマクロン大統領は東独のドレスデンを訪問し、ドレスデンのフラウエン教会前で挙行されたヨーロッパ青年祭でスピーチした。同大統領はヨーロッパの重要性を強調し、ヨーロッパの積極的な関与を呼びかけ、「我々が誤った決断をすれば、我々のヨーロッパは滅びるかもしれない。それを防がねばならない」と語り、「ヨーロッパの歴史は民主主義の歴史だが、現在、民主主義、平和、そして繁栄が危機に瀕している」と述べた。

ドレスデンでの演説はマクロン氏のドイツ訪問のハイライトだ。マクロン大統領は「ヨーロッパは現在、3つの大きな課題に直面している。『平和』、『繁栄』、『民主主義』の課題だ」というのだ。

①ヨーロッパは長い間、平和の保証人であったが、ロシアのウクライナ侵攻以来、ヨーロッパには再び戦争が起きている。ロシアは大陸全体を攻撃している。ヨーロッパ人は共同防衛と安全保障の構造を築くべきだ。その際、ナショナリズムに陥ることなく、ヨーロッパ人として断固として行動すべきだ。ヨーロッパは独自の技術、軍事技術、イノベーションを構築する必要がある。

②ヨーロッパは繁栄、成長の夢の場であり、また寛大な社会制度の場だが、ヨーロッパは現在自らの成長を達成できない危険に直面している。人口動態も課題だ。新しい成長モデルを構築する必要がある。それは成長と気候保護の間で選択しなければならないということではない。我々は欧州の予算を倍増させるべきだ。投資市場への資金調達だ。

③現在の民主主義は、独裁的な傾向が強まってきている。我々は目を覚まさねばならない。ヨーロッパと民主主義への取り組みを強めるべきだ。我々はこれらの課題を共に克服することができる。ドイツはフランスを頼りにできる。フランスはドイツを頼りにしている。ヨーロッパは我々を頼りにできる。我々はヨーロッパを頼りにしている。

最終日の28日午前、マクロン大統領はミュンスターでヨーロッパへの貢献が評価され、ウェストファリア国際平和賞を受賞した。同日午後からは訪問最後の行事として、ベルリン近郊のメーゼベルク城でショルツ独政府関係者と会合し、今後の政治課題について意見の交換を行う。なお、フランスとドイツ両国政府はロシアに対抗するためにウクライナへの軍事支援を継続する必要性があること、欧州理事会の全会一致原則を破棄し、一部の決定には27カ国の政府のうち3分の2の加盟国の賛成で十分とするなど、EU理事会の刷新の必要性などで既に合意しているという。

ドイツのメディア報道を見る限り、マクロン大統領のドイツ訪問は一般的に好意的に受け取られている。若く、ビジョンに溢れるマクロン大統領の演説を聞いていたドイツのジャーナリストは「オバマ米大統領のような雰囲気がある」と報じていた。派手なパフォーマンスからはほど遠いショルツ首相の地味で実務的な演説を聞き慣れてきたドイツ国民にとって、マクロン氏の演説は刺激的であり、表現力も豊かであることは間違いない。ただし、マクロン氏は教会の説教者ではないから、マクロン氏の政治指導者としての評価はやはりその政策の実行力で決まると言わざるを得ない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年5月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。