独仏の間に隙間風が吹く

人と人の関係はスムーズにいく時とそうではなく刺々しくなることがある。同じように、国と国との関係でも良好な時もあれば、対立する状況も出てくる。欧州の代表国フランスとドイツの関係もそうだ。ミッテラン大統領とコール首相が政権を担当していた時代、両国の関係は良好だった。しかし、独仏関係がここにきてウクライナ戦争での対応で意見の相違が表面化し、両国間で刺々しい雰囲気すら出てきたのだ。

独仏ポーランド3国のワイマール・トライアングル首脳会談(中央・ポーランドのトゥスク首相)ベルリン、2024年03月15日、ドイツ連邦政府公式サイトから

華やかな国際会議を主催することを好み、大胆な政策を表明するマクロン大統領に対し、派手なパフォーマンスは少ないが、着実に政策を推進するタイプのショルツ首相とはその言動が好対照だ。英国がまだ欧州連合(EU)の一員であった時、フランスとドイツの関係に大きな波紋は立たなかったし、問題があれば英国が両国の間で仲介的な役割を果たせた。しかし、英国のEU離脱(ブレグジット)後、フランスとドイツ両国は迅速に決断を下せるメリットもあるが、両国が対立する状況では英国のような調停役がいないため、関係の険悪化に歯止めがつかなくなるといった状況に陥る。

マクロン大統領がパリで開催されたウクライナ支援国際会議で演説し、北大西洋条約機構(NATO)の地上軍をウクライナに派遣する提案をした時、ショルツ首相は表情を曇らせ、「そのようなことは出来ない。戦闘をエスカレートさせるだけだ」と一蹴した。米国からの独立を模索するマクロン大統領はこれまでも欧州軍の創設を提案してきた。マクロン氏は、「フランスは地上軍をウクライナに派遣する用意がある」と指摘し、「ロシア側に戦略的曖昧さを与える」と説明する。

ロシア軍とNATO軍の衝突でウクライナ戦争が欧州全域に拡大することを懸念するショルツ首相にとってマクロン氏の提案は危険過ぎる。それ以上に、マクロン大統領がショルツ首相とそのテーマで事前協議することなく、国際会合の場で地上軍の派遣の用意があると公表したことに、ドイツ側は不快を感じているのだろう。

一方、フランス側に不快感を与えたのは、ショルツ首相が、イギリスとフランスの両国軍関係者がウクライナで自国の巡航ミサイル「ストームシャドウ」と「スカルプ」の使用に関与していることを公に語ったことだ。この種の軍事情報はコンフィデンシャルだが、それを公の場で語ったショルツ首相に対し、マクロン大統領は「外交上の慣例を破る」として不快感を露わにした、といった具合だ。

マクロン大統領はウクライナ支援の重要性を強調し、ウクライナ問題では先駆的な役割を果たしているといった思いが強いが、欧州諸国のウクライナ支援ではドイツが米国に次いで2番目の支援国だ。実質的な欧州最大の支援国はドイツだ。実際より大げさに語るマクロン大統領に対して、ドイツ側はイライラしているといわれる。

インスブルック大学のロシア問題専門家マンゴット教授は15日、ドイツ民間ニュース専門局ntvでのインタビューの中で、「マクロン大統領は大口をたたくが、実際の行動は僅かだ」と指摘し、「フランスとドイツ両国間の歴史的に強固な枢軸は益々重要性を失いつつある。パリとベルリンの間の対立はその明らかな証拠だ」と説明する。

例えば、マクロン氏はウクライナ支援では「無制限な支援」を強調する一方、ショルツ首相は「レッドラインを維持しながら可能な限りの支援」を主張してきた。地上軍のウクライナ派遣問題についても、マクロン大統領は「戦略的曖昧さ」政策を強調するが、NATOは既にロシアとの全面的戦争はしないと表明済みだから、今更戦略的曖昧さと言っても意味がないというわけだ。

ドイツがウクライナの要請にもかかわらず、巡航ミサイルタウルスの供与を拒否していることに、マクロン大統領は批判的だ。一方、フランス側のドイツの軍事供与への批判に対し、ドイツ側は「フランスの納入量はドイツよりはるかに少ない」と反論してきた。

ウクライナ支援問題で意見を調整するために15日、ベルリンでドイツ、フランス、そしてポーランド3国のワイマール・トライアングルの首脳会談が開催された。それに先立ち、ショルツ首相はマクロン大統領と2時間余り首相官邸で会談している。ベルリンとパリの間で議論すべき多くの議題があったからだ。

参考までに、フランスとドイツの両政府は、ショルツ首相とマクロン大統領の間に亀裂があることを否定している。ちなみに、フランスのセジュルネ外相は3月初め、「仏独間に対立はなく、問題の80%で合意している」とメディアに語っている。一方、ショルツ首相は13日、連邦議会で野党「キリスト教民主同盟」の議員から「マクロン大統領との関係」を問われ、「フランスとの意見の対立はない」と否定している。

興味深い点は、仏紙フィガロの分析によると、ロシア軍のウクライナ侵攻直後、マクロン大統領は、「ロシアに余り屈辱を与えるべきではない」と、プーチン大統領に融和的な姿勢を取っていたが、ここにきて、「ヨーロッパとフランス人の安全がウクライナで危機に瀕している。もしロシアが勝てば、フランス国民の生活は変わり、ヨーロッパの信頼性はゼロになる」と警告し、ロシアに対して強硬姿勢を取ってきていることだ。その点、ショルツ首相のロシア観はロシア軍のウクライナ侵攻から今日まで変わらない。ロシアとの軍事衝突を回避するということだ。

このようにウクライナ政策でマクロン大統領とショルツ首相との間で政策の相違が見られ出した。その違いが決定的な亀裂となるか、それとも外交上のニュアンスの相違に留まるか、ここ暫くは両国のウクライナ支援の動向を注視する必要があるだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年3月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。