いくら目標達成しても幸せを感じられない人の思考回路(滝川 徹)

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キャリアで成功したり、パートナーができたりなど、今望んでいる夢や目標が実現すれば幸せになれる。そう信じてがんばってる人も多いだろう。しかし実は、これらを達成しても幸せになれるとは限らない。

そう語るのは現役会社員・時短コンサルタントの滝川徹氏。今回は、滝川氏の著書『細分化して片付ける30分仕事術(パンローリング) 』より、本人が深刻なバーンアウト(燃え尽き症候群)を体験して気づいた幸せについて、再構成してお届けします。

成功を追い求めても幸せにはなれない

多くの人は、自分が求める理想像になれたら幸せになれる。そう信じている。お金持ちになったら、キャリアで成功したら、有名になったら、一軒家を建てたらなど。理想の状態が実現すれば、自分の人生に心から満足して毎日楽しく生きていけると。もちろん、ご多分に漏れず私もその1人だった。しかし本当にそうなのだろうか?

『インデペンデンス・デイ』など数々のヒット映画に主演するウィル・スミスは自伝『WILL』の中で「金持ちになって有名になれば、人生の問題は全て解決するという幻想を抱いていた」と語っている。彼は実際に世界的な俳優となり、自身が思い描いていた以上の成功を手にしている。それで彼は満たされたのだろうか?

彼はむしろ不幸で惨めな思いをしたという。出演した映画が史上空前の大ヒットになっても「なぜもっと売れなかったのだろう」と考えてしまう。手にした成功を失うのが怖くて、常に不安だったと語っている。実際、俳優として必死だった時期に妻や家族は離れていった。

「もっと」と欲してしまう理由

ウィル・スミスが語るように成功すればするほど「もっと成功したい」「もっとお金がほしい」と欲が出てくる。

それだけじゃない。成功してお金も手に入れて人生安泰と思いきや、むしろそれらを失う恐怖・不安に苛まれることになる。これは成功した人たちの自伝などで赤裸々に語られた本音を知るとよくわかるはずだ。

ただお金や成功を追い求めても幸せになれないのだ。それでも私たちは「お金がもっとあったら……」とか「もっと成功したら……」と思わずにはいられない。そこには2つの理由があるのではないだろうか。

ひとつは、世の中に溢れているメッセージがそう謳っているから。もうひとつは、そう信じないと絶望してしまうからだ。

世の中に溢れているメッセージとはどういうことか。テレビでは成功者の何億円という豪邸や芸能人の驚きのコレクションが紹介され、YouTubeでは登録者数何百万人を誇るユーチューバーが桁外れの企画動画を配信し、インスタには綺麗な写真とともにインフルエンサーが自由を謳歌している。

それらを見るにつけ「ここまでいけば、悩みなんてないんだろうな」と思ってしまう。別にコレクション蒐集も動画配信も興味がなくてもだ。

成功やお金を手にしたら幸せになれると思いこんでしまうのは、こうした情報が日々あふれているからだ。

だが、目に見えていることが真実とは限らない。私達が目にする姿は輝いている一面だけが切り取られたものだ。自分の苦しい姿や情けない姿をわざわざ公開する人は少ない。どんなに成功してもお金持ちになっても、みんなそれぞれ悩みや葛藤を抱えているのだ。

こうした話は頭ではわかっても、なかなか腹落ちさせることは難しい。それは単純に、成功者としての苦悩や葛藤を想像するのが難しいからだろう。私自身も本当に理解できたのは多くの成功者から直接話を聞いたり、自伝を読みまくってからだ。

「成功しても幸せになれない」なんて信じたくない

成功したら幸せになれると信じてしまうもうひとつの理由。それは単純に信じたくないから。

理想の自分になれれば、より自由に充実した人生を送れる。そんな希望をもって日々がんばっているのに成功しても幸せになれないなんて……。そんなの絶望でしかない。

理屈はわかるが、今目指している目標やゴールを達成すれば得られるものがあるのも事実。なぜそれで幸せになれないのか?君はそう思うかもしれない。たしかに得られるものはある。しかしそれにより得られる幸福は一時的なものにすぎない。なぜなら目標がシフトし続けるからだ。

私は2022年11月からYahoo! ニュースに記事が掲載されている。現在日本で最大級と言えるポータルサイトに専門家として自分の記事が載るなんて、本当にうれしかった。ただ慣れとは恐ろしいもので2つ3つと記事を書いていくと新鮮さや最初の喜びは減っていき、10記事にもなると当たり前になっていった。

「ぜいたくな奴だ」と思っただろうか。たしかに、はたから見たらそうだろう。だが私だって最初は単純に記事が載ることを目指していた。しかしそれをクリアすると次はたくさんの人に読まれることが目標になった。そうして目標がシフト・変化していったのだ。

そもそも記事が掲載されることを目標にしていたのだから、成功して幸せになったと言えるのではないか。そう。たしかに1本目の掲載時にはそうだったのだろう。だが、今は? 成功したりお金持ちになっても、必ずしも幸せになれない理由はここにある。目標がシフトし続けるのだ。

「もっとうまくなりたい……」「もっと早く走りたい……」と上を目指すのはとても良いことだと思う。そう思うことが成長や上達の糧になるのは間違いない。それでも学生時代の部活や勉強などであれば、大会やテストなど残酷なまでの明確な時間的な締め切りがある。

では、大人になったらどうか。就職活動で希望の会社への採用を目標にし、入社したあとは同期よりもさきがけて課長になることを目標にする。課長になったあとは部長を目指すようになる。次は役員と、目標がシフトし続ける。

収入面でも同じだ。当初は年収が1000万円になれば生活はラクになると思っていてもそのラインを達成すれば次は1500万、2000万と理想はシフトし続ける。そこには強制終了となる区切りはない。

これは終わりがないゲームで、目標の高さは関係ない。ウィル・スミスが世界一になっても満たされなかったのと同じで「求めているものを手にできたとしても、幸せになるとは限らない」のである。

では私達はどうしたらいいのか?実は、幸せへの鍵は私達の内側にある。私は予期せぬ形でこのことに気付かされることになった。

私が体験した深刻なバーンアウト

残業ゼロの働き方を達成して2年が過ぎた頃。私は深刻なバーンアウト(燃え尽き症候群)となった。出版した電子書籍はアマゾンの2部門で1位を獲得。セミナー講師としての活動も順調。しかし私の内面は全く満たされていなかったのだ。

私は常に「もっと成し遂げなければ」という焦燥感に駆られていた。一方で毎朝起きると何もやる気が起きない日々が続いた。成功を意識しつつも何事にも情熱を感じなくなり「自分のやりたいことってなんだろう」などと感じる始末。

残業ゼロを達成し、自由に働けるようになり、時間もたくさんできた。セミナー講師をはじめ、自分がやりたい目標も実現して収入も大きく増えた。以前の私が「こうなれば幸せになれる」と思い描いていた夢のような生活を手に入れたのに。そんな私を待っていたのは満たされない毎日だったのだ。

「時間がたくさんある」が「満たされていない」。これまでさまざまな目標達成を目指してがんばってきた私にとっては、とんでもない生き地獄だった。時間だけはたっぷりあるため、自分の心の内とイヤでも向き合わなければならなくなる。毎日幸せに生きるためにはどうすればよいのか。答えを見つけるためにもがき続けた。

満たされていないのは、楽しいと思えることが少ないのかもしれない。当時の私は、自分が幸せを感じる時間を単純に増やしていけばいいと考えた。友人・知人と高級レストランで食事をしたり、刺激的なセミナーやイベントに積極的に参加したり。

マッサージにも頻繁に通った。たしかにその一瞬は満たされた。だが高級レストランもたまに行くから幸福感を感じるのであって、慣れてしまえば幸せを感じにくくなる。そのほかのことも同じ。支出が増える一方、あいかわらず私は満たされない毎日を過ごしていた。

幸せは自分の内面にある

迷走していた私が変わる大きな転機となったのは、世界的ベストセラー作家アラン・コーエンのコーチングを受けたことだ。2019年の4月だった。各業界のトップの人達にもコーチングをするアラン曰く、財界人であろうと人間関係や依存症などさまざまな悩みを抱えているそうだ。

「人間はみんな同じなんだよ。自分の内面が満たされない限り、いくら外の世界に幸せを求めても一生満たされることはないんだ」

このときから私の内面への探求がはじまった。あれから4年近くが経った今、私はようやく、本当にようやく、自分の人生に満足しつつある。今私は40歳にして、これまでで一番幸せな時を過ごすことができている。

しかしこれは、キャリアがうまくいっているという現実からではない。私が今幸せなのは「十分」という感覚を知ることができ、良い1日を過ごすことだけに意識を向けられるようになったからなのだ。

滝川 徹(タスク管理の専門家)
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。 

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年5月21日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。