対話不足が生む育成の壁と、マネジメント力の鍛錬法とは

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いつも会議で眠ってしまう部下がいたら、「怠け者だ」と思うでしょうか。実はそこに病気が隠れている場合もあるのです。

育成にあたっては、部下の一面に過ぎない職場の姿だけでなく、プライバシーに配慮しながらも、性格、考え方、持病、生活習慣、家族の状況、職場環境なども含めた部下の全体像を知ることが大切です。

部下を知らない上司のための育成の極意」(山田 真由子 著)労働新聞社

育成が上手くいかないのはなぜ

現在、職場の部下育成において大きなウエイトを占めているのはOJTです。職場の上司や先輩が、部下や後輩に対して、 職場の日常業務を通じて仕事に必要な知識・技能・態度などを指導し、育成する訓練法です。山田さんは次のように言います。

「企業によっては現場でのOJTをはじめとする育成の機能が十分に働いていない場合があります。 主な要因は職場内でのコミュニケーション不足です。その場で声を掛ければ良いのに、メールなどにより報告、連絡、相談を行う部下が増え、上司も部下に積極的に話し掛けたりはせず、結果として対話が減少しています」(山田さん)

「コロナ禍になってリモートワークが増加し、より一層対話は減っているでしょう。ある企業では退職届を何の挨拶もなくメールや郵送にて提出してくる部下がいたと聞いて、とても驚いたことがあります。他方、上司が部下の多様性に順応できず、部下とのコミュニケーション自体をためらってしまう場合もあります」(同)

育児休業などの扱いにこれに該当すると、山田さんはつづけます。

「部下が育児休業を取得したとします。 上司は戸惑うばかりで、職場復帰が迫ってもどう対応すればよいのかわからず、何もせず放置してしまっている、というケースなどが考えられます。さらに、上司が必ずしも部下の業務を把握しきれないことです。専門性の高い職場では、上司であったとしても業務の詳細がわからず指示を出しにくい場合があります」(山田さん)

「アウトソーシング化により業務の連携もわかりにくくなっている時もあります。あるホテルでは、清掃部門をアウトソーシングしたため、アウトソーシング会社が変わるたびに業務の連携に苦慮されていました。どちらにも共通するのは、上司が部下をよく知らない、または知ろうとしていないということです」(同)

マネジメント力が必要とされる理由

職責がアップすれば、ジョブサイズも変わります。その際に求められる能力はマネジメント力です。しかし、組織がフラット化して階層が減って、以前はどこの会社にもあった職位が減っています。そのため、管理職になる前の段階で、一定数の部下をもつという経験ができづらくなっている現象が起きています。

その結果、マネジメント力のないまま管理職になってしまうケースが発生しています。上手く機能すればいいですが総じて組織が弱体化しています。それでは、部下のいない組織の中堅社員はどのようにマネジメント力を磨けばよいのでしょうか。

筆者が推奨しているのは、新入社員の育成担当者になることです。自分から上司に了解を得ながら、積極的に面倒を見るのです。仕事を教えるのと同時にその管理をすることになりますので、たとえ上司、部下の関係になくとも、先輩・後輩という関係のなかでマネジメント力を磨くことができるでしょう。変なプライドをもたず勉強のつもりで対応することが求められます。

飲み会の仕切りもやってみる

ほかには、職場の飲み会の幹事を引き受けるのもいいでしょう。新人の役目が多いと思いますが、あえて中堅にまかせる効果もあります。

飲み会の幹事というのは、本気でやれば管理職に求められる能力を高めるためのよい機会です。幹事は、まず参加者のスケジュールを調整しなければなません。職場の飲み会で日程や参加者の調整をするのは、ちょっとした規模の会議を設定するよりも難易度が高くなります。

たとえば、「ここは毎回利用しているから他の店を開拓」「部長と課長が喫煙者」「イタリアン専門店に決まったものの焼酎が置いてあることが必須」など、要望を吸い上げていくと、予算や料理、スペースなどニーズに合ったお店を開拓するのが難しいことがわかると思います。飲み会の幹事という役割は、ちょっとしたビジネスの縮図ともいえるわけです。

組織には一定以上の成果を上げる人はたくさんいます。そのなかで抜き出るにはプラスαが必要です。本書を読み、部下に任せきりではなく、マネジメントの本質を理解してみませんか。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

2年振りに22冊目の本を出版しました。

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