揺れる欧州、欧州議会選挙とフランス議会解散が物語ること

日本に於ける欧州関係の報道は北米や東アジア関連に比べてやや淡白な気がします。報道の受け手である日本人が欧州は遠い国というイメージがあるからかもしれません。その欧州で欧州議会の選挙があり、大勢では中道派が401議席と過半数を押さえそうなものの改選前の417議席から劣勢となりそうです。右派勢力が118議席から131議席へと議席を伸ばしているのが特徴的でした。特に注目されたのがフランスの議席でマクロン大統領が率いる中道の欧州刷新党は102議席から79議席へと大幅減、一方、マクロン氏の対抗馬ともいえる極右、ルペン氏が率いる国民連合が49議席から58議席に伸ばしました。

マクロン氏とルペン氏 Wikipediaより

これを受けマクロン大統領は自国の下院議会を解散、6月30日に初回投票で7月7日に決選投票となります。オリンピック開催が目前に迫る中、わざわざこのタイミングで解散選挙する必要があったのか、大いなる疑問が残ります。今回の欧州議会とは関係がないですが、英国もスナク首相が突然の解散で7月4日に選挙が行われます。こちらは保守党から労働党への政権交代が確実視されています。

このあたりから推察すると右派とか、左派という括りより今の政権に対する不満が各国の国民の間で爆発しているということかと思います。アメリカでも現政権に対する不満からトランプ氏の人気が高まっているし、カナダでは選挙はまだ先ですが、トルドー氏の支持率は30%を割り、現政権である中道左派の自由党は保守党に大差をつけられて負けるだろうと予想されています。日本でも岸田政権に対する風当たりは強いままとなっています。

メディアの解説はおおむね「欧州の物価高や治安、移民政策などが主要な争点となり、ポピュリズム(大衆迎合主義)的な手法をとる極右などが支持を集めた可能性がある」(日経)の1行にほぼ集約されるようです。あとは環境政策への批判も大きく、電気自動車への風当たりも強いという解説です。

個人的にはそれらもあるし、間接的にウクライナ問題やイスラエル問題なども国民心理に影響しているとみています。つまり「現状不満」であります。ウクライナの戦争も2年以上になり、疲弊感が強まっています。EUとして様々な打開策を打ち出してきたものの今のところ功を奏する状態になっていないことは欧州の人には不満だと思います。

あくまでも私見ですが、政治家にとって受難の時代に入ってきたと考えています。人々は自己の価値観に目覚め、人生の過ごし方もあらゆる選択肢が正論となってきています。同性に目覚めてもよいし、仕事はパートタイムジョブを2つ3つ掛け持ちでワークライフバランスを目指してもよいでしょう。一方で不動産価格が上昇し、家を購入するのを諦めた人たちが賃貸ながらも日々の生活を楽しみ、情報社会の中で様々な刺激を受け続ける、これがほぼ世界でどこでも見受けられる生活様式となり、若い人を中心とした価値観は当然ながら変わりつつあります。

その中で政治を考えた時、かつては右か左かぐらいの選択肢でした。ところが政党は増え、自分の声を出したいと思う人が増えてきています。例えとしてよいのかどうかは別にして今回の都知事選では現時点で35人ぐらい知事立候補をするとされています。つまり、「我は!」という声が分散化しているともいえるのです。このような環境下になれば政治家が政党の業務として立法案を他党と調整するのはよりハードルが高くなります。最後は「数のチカラ」が勝負を決めるわけですが、それでは49%の人の不満を抱えたままになる構図がどこにでもあるということではないでしょうか?

今起きているのは49%の取り残された人々の声がいつの間にか大きくなったとみています。ただ、これらの声はばらばらであり、極右もあれば極左もあるのです。これがひとまとまりの大きな勢力とならないことでかろうじて中道政権がバランサーとしての役割を担っている、ということかと思います。

もしも国民が刺激を求めているならこれから行われるであろう選挙では政権交代などが続々と起きかねないとも限りません。ただ、それが本当に国民の思いなのかは大いにブレが生じるとみています。世界経済はようやく落ち着きを取り戻す過程にあり、欧州でも利下げが始まったところです。よってある意味、人々の不満のピークは過ぎ去るところにあるのに英国もフランスも急いで解散総選挙をする意義がどこにあるのか、これには私は理解しがたいものがあるのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年6月11日の記事より転載させていただきました。