不当解雇と退職勧奨の裏側:厳しい職場の現実とは

労働系のニュースで「正社員は解雇されない」という話を聞いたことはありませんか? 実際はどうなのでしょうか。今回は解雇について考察したいと思います。

y-studio/iStock

正社員は解雇されないの?

人員削減が行われる場合、対象はパート・アルバイトや契約社員などの非正規労働者からはじまり、その後は正社員へと移行します。しかし、正社員の場合は過去に不当解雇の判決が下されていることも多く、厳しいことは言うまでもありません。

労働契約法第16条には次のように記載されています。

「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」

つまり簡単に正社員を簡単に解雇することはできないのです。それでも、業績が悪化すれば悠長なことは言っていられないでしょう。

自主退職に追い込むことを「退職勧奨」といいます。労働者には応じる義務はありません。そのため、会社はかなり強引な退職勧奨を行使することになりますが、これが紛争の火種になることが多いのです。

退職勧奨の手法として多いのが長時間の面談です。その場で、上司(場合によっては人事)から退職を促されますが、応じない場合は、徐々に制裁が加えられていきます。役職の剥奪や降格処分、左遷などが当てはまります。

就業規則に記載されている場合は可能ですが、会社との対立が精鋭化すると会社も強硬にならざるを得ません。会社は制裁の理由をつくらなければいけません。実際にどのようなものがあるのでしょうか。

まずは鉄板の不就労

方法は2つあると考えています。1つ目が「不就労」です。

病気による休職が続いたり、仕事ができない場合のことを不就労といいます。正当な理由なく2週間の無断欠勤を続ければ懲戒解雇の理由になるでしょう。

ところが、長期の地方出張や、営業職の直行直帰などを会社が勝手に「不就労」とし、労働者が気づかぬ間に解雇になっていたという驚きのケースがあります。出張から戻ったら、懲戒解雇になっていたなんて考えたくもないですよね。

争いになった場合、上司の出社を命じた履歴がないと不利になります。すでに、会社との関係性が悪化している場合、上司はすべてを口頭で指示するでしょう。メールでの履歴が残らないようにするためです。

出張後、数回、上司から「なぜ出社をしないのか!」と問いただすメールが届いているはずです。

会社の規則でPCは持ち出しができません。このような会社であれば、上司のメールは出社しない限り確認することができません。これが履歴としての証拠になります。

社員が見ていようが見ていまいが構わないのです。会社の単なるアリバイづくりです。関係性が悪化すると、会社への連絡が途絶えがちになりますが、自らのリスク回避のためにも自分にとって有利な履歴を残しておく必要性があるでしょう。

次も多い業務命令違反

2つ目が「業務命令違反」です。会社において労働者は上司の業務指示に従わなければなりません。指示命令系統があり、社員はそれにのっとった行動が求められるからです。

もし部下を解雇に追い込みたい場合、上司は詳細な行動管理を行うはずです。それこそ分単位の日報を記入させて何時間もかかるようなフォーマットを用意するでしょう。

そのときに考えられる上司の業務指示は次のようなものです。

① 一日100件の飛び込み営業をやってこい。名刺も100枚集めろ!
② 丸の内で片っ端から通行人に声を掛けて商品を売ってこい!
③ 一日中、営業電話を掛けてアポをいれろ!1日に500件は掛けられるだろう!

拒否すれば「業務命令違反」だとちらつかせるのです。このような状態に追い込まれてしまったら、会社と交渉するにはかなりの労力が必要です。争えば勝てるケースが多いかもしれませんが、最終的に手元に残るのは月額給与の数か月分と言われています。

早めに次の仕事を見つけたほうが得策と言えるでしょう。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

2年振りに22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)