世襲政治家は、「煉獄杏寿郎」と同じ宿命を背負っている

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ひどい釣りタイトルだと思いながらクリックしてしまった方、意外とまともなことを書いているので、ぜひ最後まで読んでもらいたい。

一般に「世襲政治家」というと、親が(元)国会議員であり、その地盤や資金を引き継いで当選した議員のことを指し、特権の独占に対して批判的に使用されることが多い言葉である。

一方「煉獄杏寿郎」(以下、煉獄)とは、空前の大ヒットとなった映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」にて名を馳せたキャラクターであり、“炎柱”の称号を持ち、人喰い鬼との熾烈な戦いを繰り広げる鬼殺隊の最上級隊士だ。

煉獄杏寿郎(左最上段)
『鬼滅の刃 無限列車編』より

両者は、一見すると共通点がないようだが、実際は似通ったところが多い。

煉獄の父・煉獄槇寿郎は元“炎柱”である。炎の呼吸を継承し、自らも柱となった煉獄は「世襲隊士」だ。もちろん、二世なら誰でも鬼殺隊の隊士や柱になれるわけではなく、事実、煉獄の弟・煉獄千寿郎は剣術の才能に恵まれなかった。

つまり、世襲する者は、生まれながらに選ばれた存在なのである。とすると、政治家もまた、政治を家業として世襲する者であり、その責務を全うすべきであるとも言える。

「フェムテック」の政策の根底にあるもの

なぜ、このようなことを書いているかというと、この記事を読んで思ったことがあったからである。

〈フェムテック考〉女性の課題は技術で解決? 不調を“経済的損失”で語られるモヤモヤ

〈フェムテック考〉女性の課題は技術で解決? 不調を“経済的損失”で語られるモヤモヤ
女性特有の心身の課題をテクノロジーの力で解決する商品やサービスをさす「フェムテック」。経産省の支援や大手企業の参入によって、近年注目されています。選択肢が増えている一方で、商業的な面に焦点が当たりがちで、女性を取り巻くそもそもの社会課題が置き去りにされてはいないでしょうか。このあたりでフェムテック市場と政策の目的や現状...

全体としてはバランスの取れた良い記事であるし、一部の文章を切り抜いて否定するようなことはしたくないため、本稿では「実際のところはどうなのか」という観点で論じたいと思う。

まず、国会議員や関連省庁の官僚は、政府からフェムテック※1)の活用を勧めればもっと女性が働くようになるのでは、という浅はかな考えで政策を推進しているわけではない。

もちろん、経済政策の観点も外せないため、女性特有の健康課題を解決することによる経済的効果として、具体的な金額が試算されることもある。政策の優先順位を上げるためにも、「○兆円の経済効果」などとインパクトのある数字を見せる必要があるのも事実だ。

ただ、根底には、女性が健康課題を抱えながら生活をしているのに理解がない、制度としてサポートできていない、これはフェアではない、であれば障壁を取り除かなければならない、という考えがある。

2020年9月に、自民党国会議員の有志による「フェムテック振興議員連盟」(以下、フェムテック議連)が発足されたが、設立の目的として「フェムテックの振興を図ることにより、女性とそのパートナーの生活の質が向上し、より豊かな人生を送れるようになること」と明記してある。決して、もっと働け、というニュアンスではない。

私は民間人だが、フェムテック議連が設立されて以来、事務局として志を同じくする国会議員とともに、生理、妊活・不妊治療、更年期という三本柱で政策を立案し、政府に対して提言を行なってきた。

たとえば、2024年度の女性版骨太の方針(原案)には、フェムテック議連の第三次提言で重視した「女性活躍推進法の改正」「健康診断の充実等による女性の就業継続等の支援」なども入っている。

健診ひとつをとっても、「企業戦士=健康リスクが高まっていく男性」向けに設計されてきたわけで、女性の就業率が年々高まっている中で、制度だけがそのままでいいはずがなく、女性活躍、男女共同参画、働き方改革というのであれば、抜本的に見直す必要がある。

また、時限立法である女性活躍推進法についても、事業主が女性特有の健康課題に取り組むことなどを盛り込む想定で、改正に向けて進められている。

もちろん、これらは官僚のがんばりあってのことだが、あるべき政策を推進する国会議員たちの姿は、少なくとも私の目には、世のため、人のために身を粉にして取り組んでいるように映っている。

世襲政治家は悪なのか

とはいえ、こういったことが知られず、先述の記事にあるように映ってしまうのは、偏に政治・行政側の広報、発信が不十分だからであり、深まる政治不信と相まって、嘆かわしい状況だと言える。

私自身、世襲政治家云々以前に、現在の国政選挙の仕組みは最適解ではないと感じているし、必ずしも政策の良し悪しや政治家としての資質で当落が決まっているとは言えないと考えている。

また、国会議員を引退した際に、政治団体や政治資金を配偶者や親族に引き継ぐという時点で、スタート位置をずらしているようなものだとも思う。

では、やはり世襲政治家は悪なのだろうか。

否、と言いたい。なぜかといえば、政治家、国会議員という仕事がどんなものであるか、どういう生活を送ることになるのか知った上でなお、自らもその道を志すからである。

仕事柄、国会議員に会うことは多いが、身近な若手議員の多くは、まさにこの世襲政治家と言われる人たちである。それぞれの政治家を志した背景を聞くと、元官僚もいれば元会社員もいるし、それぞれ予定調和とは言い難いストーリーがある。

さらに言えば、親が子どもを政治家に仕立て上げ、なるべくしてなったというよりは、親は政治家になることを止めた、自分の子どもに政治家をやってほしいとは思わないという人ばかりである。

並大抵の覚悟では務まらない仕事である以上、親としては気軽に勧められないだろうということは容易に想像がつく。傍から見れば、給与が良いから国会議員になるなんてとても思えないほど割に合わない仕事だ。

それにもかかわらず、何世代にもわたり政治家になる、なってしまうのは、もはや宿命を背負っているといった方が、実態に即しているのではないだろうか。

煉獄の母の言葉から見えてくるもの

再び、『鬼滅の刃』に戻ろう。煉獄は幼き頃、母・煉獄瑠火からこう問われた。

「なぜ自分が人よりも強く生まれたかわかりますか」

答えられない煉獄に、瑠火は言う。

「弱き人を助けるためです」

さらに、あるべき生き様にまで触れる。

「生まれついて人よりも多くの才に恵まれた者は その力を世のため人のために使わねばなりません」

「天から賜りし力で人を傷つけること私腹を肥やすことは許されません」

「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です」

「責任を持って果たさなければならない使命なのです」

心に響く名言だが、これらはそのまま世襲政治家にも当てはまるのではないだろうか。決して、家柄や才能に甘んじてはいけない、と。

国会議員という仕事に就く者には、どうしても社会的責任、もっといえば「ノブレス・オブリージュ」が求められる。だからこそ、裏金問題といった不祥事はもっての外と弾劾される。

煉獄の生き様は、観る者の胸に迫るものがある。お国のために、という言葉を使うことは憚れるが、たとえ世襲政治家であっても

「お前も鬼にならないか?」

という甘い誘惑に惑わされることなく、

「俺(私)は如何なる理由があろうとも鬼にならない」

と答えられるのなら、その宿命と対峙し心を燃やせるのならば、むしろそういう人にこそ、この国を任せたいと思う。

※1)(生物学的)女性およびそのパートナーのウェルネス・セクシャルウェルネスにおける課題を解決するために開発された、テクノロジーを使用するソフトウェア、診断キットその他の製品およびサービス