欧州議会選挙の結果を受けてドイツで早期総選挙実施の声高まる

先ず、6月9日に実施された欧州議会選挙(定数720、任期5年)のドイツでの結果を振り返ってみる。第1位は野党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)で得票率約30%、極右政党「ドイツのために選択肢」(AfD)が15.9%で2位、ショルツ首相の与党「社会民主党」(SPD)が13.9%で3位、「緑の党」が11.9%、そして左翼党から分かれた左派ポピュリスト政党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟」(BSW)6.2%、自由民主党(FDP)5.2%と続く。

ドイツで開催された「ウクライナ復興国際会議」でゼレンスキー大統領を迎えるショルツ首相(2024年6月11日、ウクライナ大統領公式サイトから)

この結果(暫定)から、CDU/CSUが断トツに強かった一方、ショルツ首相が率いる3連立政権、SPD、「緑の党」、そしてFDPはいずれも得票率が減少したことが分かる。特に、ドイツの脱原発路線(昨年4月15日を期して脱原発時代は始まった)、再生エネルギーへの転換などを推進してきた「緑の党」は前回(2019年)比で大幅に得票率を失い、獲得した議席は12議席(マイナス9議席)に留まった。「緑の党」のベアボック外相はロシアのウクライナ侵攻を厳しく批判し、キーウ政府を積極的に支援してきたが、その外交ポイントは今回の欧州議会選では反映されずに終わった。

ただし、ドイツの「緑の党」だけではない。隣国のオーストリアでも「緑の党」は得票率、議席数で減少している。党筆頭候補者の不祥事もあったが、環境保護政党の「緑の党」への批判が高まっている。ロシア産天然ガスの輸入に依存してきた欧州諸国、その中でも70%以上がロシア産エネルギーに依存してきたドイツの産業界は脱原発、再生可能なエネルギーへの転換を強いられるなど大きな試練に直面してきた。ショルツ政権が推進するグリーン政策に伴うコストアップと競争力の低下は無視できない。「緑の党」は国内の産業界からはエネルギーコストの高騰、メイド・イン・ジャーマニー製品の競争力の低下をもたらした主犯者と受け取られ、欧州議会選で懲罰を受けた、といった感じかもしれない。

欧州議会選でショルツ連立政権の3党が獲得した得票率は約31%だ。CDU/CSU1党の30%とほとんど変わらない。選挙結果が判明した直後、CDUのメルツ党首は「ショルツ政権がドイツ国民の支持を得ていないことが改めて明らかになった」と表明、CSUのゼーダー党首(バイエルン州首相)は「国民の30%の支持しかないショルツ連立政権は早期退陣し、総選挙を実施すべきだ」と主張している。

ドイツの隣国フランスでは、大統領候補のマリーヌ・ルペン氏の国家主義、ポピュリズムを標榜する極右「国民連合」(ジョルダン・バルデラ党首=RN)が得票率約31.4%(30議席)で、マクロン大統領の与党連合の倍以上の票を獲得した。その直後、マクロン大統領は「欧州議会選の結果を何もなかったようには扱えない」として下院を解散し、今月30日と7月7日に議会選挙を実施すると声明した。メディアの中には、マクロン大統領の決断をリスクと受け取る向きがある。

ちなみに、フランスの下院選(全てが小選挙区)では第1回投票で当選者が出ない場合、1週間後、決選投票が実施される。第1回投票でRN候補者が1位となったとしても、決選投票で国民の反極右運動を盛り上げて結束すれば逆転できる。こんな計算がマクロン氏の早期総選挙の実施の背後にあるのかもしれない。ただ、議会解散決定が冒険であることには変わらない。

ドイツでも早期総選挙を実施すべきだという声が高まってきている。ショルツ政権は任期があと1年半余りあるが、早期解散して国民の信を問うべきだというわけだ。欧州議会選挙の結果を見る限り、3党から成るショルツ政権が早期総選挙で過半数の得票率を獲得することは現時点では考えられない。欧州議会選で断トツの強さを発揮したCDU/CSUも単独政権は難しいので他党との連立となる。

参考までに、ドイツでは過去3回、早期解散、総選挙が実施されたことがある。最初は1972年のブラント政権で、FDPが連立から離脱し、議会での過半数を失った結果、議会での信任投票が行われた。その結果、議会は早期解散され、総選挙となった。選挙ではブラント首相のSPDが大勝し、ブラント政権は安定を取り戻した。2回目は1982年、CDUのコール首相がFDPと連立を樹立したが、信任投票で敗北し、早期解散、総選挙となったが、コール首相のCDU/CSUが大勝した。そして2005年、SPD主導政権でシュレーダー首相は北ライン=ヴェストファーレン州議会選挙でのSPDの敗北を受け、連邦議会で信任投票を経て、ケーラー大統領が連邦議会を解散し、総選挙が行われた。その結果、メルケル党首が率いるCDUが僅差で勝利し、メルケル氏が連邦首相となった。

ドイツでは早期総選挙では解散前の与党側が2勝1敗だ。ショルツ首相には、早期選挙を決断するか、来年秋までの任期を満了後、総選挙を実施するか、決断を迫る圧力が高まってきた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。