1. 対外資産とは?
前回までは輸出や輸入などの貿易についての統計データをご紹介しました。
貿易においては中国が大きく拡大する一方で、各国にとっての日本の存在感は低下しています。
経済のグローバル化は、貿易の拡大も一つの要素と思いますが、むしろ企業の多国籍化による海外活動も大きな役割を果たしているようです。
日本は世界最大の対外純資産を持つなどとも言われています。
このような、海外との関係性は対外資産(負債)の状況を見ると良くわかるのではないでしょうか。
今回はまず、海外との金融資産・負債残高の推移を見る事で、日本の状況を可視化してみようと思います。
財務省の本邦対外資産負債残高によれば、対外資産や対外負債は次のようなものになるようです。
表1 対外資産・対外負債・対外純資産
項目 | 説明 |
---|---|
対外資産 | 我が国の居住者が非居住者に対して有する、金銭的価値で評価でき、金銭の支払により履行を請求し得る資産 |
対外負債 | 我が国の居住者が非居住者に対して有する、金銭的価値で評価でき、金銭の支払により履行し得る負債 |
対外純資産 | 対外資産と対外負債の差額 |
上記のような対外資産負債については、以下の項目について集計されているようです。
表2 対外資産負債の項目
項目 | 説明 |
---|---|
直接投資 | 議決権の割合が10%以上となる投資先法人に対する出資、及び当該投資先法人との間における貸付・借入等 |
証券投資 | 資産運用目的の株式及び債券投資 |
金融派生商品 | 金融派生商品の受払未済残高額 |
その他投資 | 直接投資、証券投資、金融派生商品及び外貨準備のいずれにも該当しない金融取引。 例:貸付・借入、貿易信用の授受、現預金(預け金・預り金)等 |
外貨準備 | 通貨当局の管理下にある、直ちに利用可能な対外資産 |
2. 日本の対外資産・対外負債・対外純資産
日本の対外資産や対外負債はどのような状況なのか、その推移について見てみましょう。
図1は日本の対外資産負債残高の推移です。
日本の対外資産も対外負債も基本的には増え続けています。対外負債よりも対外資産の方が多いため、2022年時点では419兆円の対外純資産を持っている事になります。
図1はちょうど図2の日本に対する海外の金融資産・負債残高を反転したような形になりますね。
図1は日本にとっての対外資産負債なので、ちょうど資産と負債が逆転するような関係性となっています。
3. 直接投資のアンバランス
金融資産の項目ごとに見た場合、日本の対外関係はどのようなバランスとなっているのでしょうか?
2022年末時点での項目ごとの比較をしてみましょう。
図3が対外資産負債の項目ごとに、2022年の数値を比較したグラフです。
対外資産はプラス、対外負債はマイナス側、差引の対外純資産を黒丸で表現しています。
証券投資は資産側も負債側も規模が大きいですが、資産側が531兆円、負債側が458兆円で概ね同じくらいの水準です。差引で73兆円分対外資産が多い状況ですね。
その他投資も同じくらいの水準で、差引45兆円対外負債が多い状況です。
金融派生商品も同様です。
一方でアンバランスなのが直接投資です。
直接投資は対外資産で275兆円なのに対して、対外負債で46兆円となります。差引で229兆円のプラスとなっていて、証券投資よりも大幅に純資産がプラスとなっている項目となりますね。
日本は国内企業の海外進出が多い割に、海外企業の日本進出が極端に少ない国です。
その特徴が図2にも良く表れているようです。
4. 日本の対外資産の特徴
日本は海外に対して資産を多く持っている国というのは良く知られていますが、項目別に見るとその多くは対外直接投資と外貨準備という事になるようです。
日本銀行の解説によれば、外貨準備は次のように説明されています。
外貨準備とは、通貨当局が為替介入に使用する資金であるほか、通貨危機等により、他国に対して外貨建て債務の返済が困難になった場合等に使用する準備資産です。わが国では、財務省(外国為替資金特別会計)と日本銀行が外貨準備を保有しています。
日本の海外との関係は、対外直接投資に特徴がありそうです。
日本銀行の資金循環を見ると、経済主体別の対外直接投資、対外証券投資の状況が良くわかります。
対外証券投資を多く行っているのは、日本の金融機関と政府のようです。
2019年時点で、金融機関による対外直接投資は約350兆円、政府によるものは220兆円程です。
一方で、対外直接投資は企業(約140兆円)が多く、次いで金融機関(約40兆円)となっています。
日本の企業活動の変化が、海外との関係においても大きな影響を与えている事が良くわかりますね。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年6月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。