やりがい搾取に惑わされない! 評価制度と個人の価値を考える(仲 悠将)

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上席コンサルタント 営業部 仲 悠将

やりがい重視、モチベーション重視、部下の頑張りを評価する等の声をよく聞きます。

とても耳障りの良い言葉ですが、これは本当に『自分の価値を磨くこと』に繋がっているでしょうか?事実の仕組みを理解していなければ思わぬロスタイムが発生をしてしまうので要注意です。今回は識学メソッドを通じて、いかに自分の価値を磨くかに注目をしていきましょう。

1. そもそも評価制度は何故必要なのか?

まず評価制度とは何を明確にする仕組みでしょうか? 言わずもがな、『個人のパフォーマンスに対する対価』を明確にする仕みであるはずです。もちろん自己実現を果たすためという目的もありますが、働くということの根本的な目的は『生きていくための糧を得るため』ということです。

この構図を捉えた際に、評価の仕組みが明確な組織と不明確な組織では、当然、明確な組織の方がその組織の構成員の集中力は向上をするはずです。

目標を達成できた際には、人は相応の報酬を求めます。本来は物質的な報酬と心理的な報酬の双方が満たされることでモチベーションが高まるのですが、残念ながら設定された目標は達成をされたのに報酬が得られないというケースもあります。

これはどういうケースかと言うと、評価制度の大前提が担保されていないケースです。つまり、組織の構成員が目標を達成している時には、組織の成長も実現されていなければならないのに、そこが予め考えられていない評価制度になっているということです。

もちろんコロナのような外部環境に起因するイレギュラーも発生はしますが、最初から組織の成長が考えられていない評価制度は、最終的に構成員の頑張りを無駄にしてしまうリスクが含まれています。

評価制度はなぜ必要か。この問いに答えるならば、『組織が成長し、その貢献度合いによって構成員を適切に評価し、組織の集中力を最大化する』という答えになります。

この原理原則から逸れている評価制度では、高確率で組織内に迷いが発生をします。例えば就職・転職活動をする際には注意が必要ですし、組織側も事後のエラーを起こさないようにするためにも明確にしていく必要があります。

2. 定性的な評価の危険

世の中には定性評価というものが存在をします。定性評価とは数値化できないものを評価項目として組み込んだ評価の仕組みです。例えば、以下のような項目が挙げられます。

『積極的に業務に取り組んでいるか』
『勤勉に学びを得ているか』
『顧客目線を持てているか』

このような評価項目はどのような危険が潜んでいるでしょうか?

答えは評価者と被評価者の認識のズレが発生するということです。よくある話ですと、このズレを回避するために、自己評価、上司評価、役員評価という具合に評価回数を増やしていくというものがありますが、これも危険です。

一定規模の組織になったときに役員は現場の実務の状況を正確に把握が出来るでしょうか? 限り無く不可能に近いはずです。ただでさえお互いの認識がズレるのに、距離が離れた人からの評価も加えてしまっては整合性は取れません。これまたよくある話ですが、

『君の頑張りには感謝をしているが、上(役員会)で否決されてしまった』
『会社は君のことを見ていないから』

という言葉が上司から出てしまうことがあります。もちろんこのようなことを組織が望んでいる訳はありません。しかし、結果的に誤解が生まれやすい仕組みになってしまっているのです。

評価や目標の定量化は難しいことではありません。まずはどのような指標が自組織の成長に必要なのかを検討し、その上で、

『積極的に業務に取り組んでいるか』 ⇒ 『新規契約件数〇件』
『勤勉に学びを得ているか』     ⇒ 『社内テストの平均点数〇点』
『顧客目線を持てているか』     ⇒ 『契約継続率〇%』

というように定量化をして行けば良いのです。

定量目標は冷たいものではありません。むしろ、誤解による不要な衝突を防ぐ、非常に暖かい仕組みと言えると考えます。

3. 上司と評価制度(その1)

評価制度と組織を論じる上で、別の視点で注意が必要であるポイントがあります。それは『上司が部下の成長を真剣に考えているか』というポイントです。

『部下の悩みを真摯に聞く』、『モチベーションの上げ方を一緒に考える』といったマネジメントが重要であるとの論調がありますが、これには大きな疑問点が含まれます。仕事は私達を待ってくれません。やるべき仕事に取り組まない時間を作るということは、良い評価を得ていく点でも、自身の成長を加速させるという点でもロスタイムではないでしょうか?

もちろん、部下の迷いを切り捨てても良いと言うのではありません。そもそも、そのような状態を作らないようにすることが重要であり、発生した問題に対し傾聴をするだけでは本質の改善にはならないということを御理解頂きたいのです。

ただ、現実には、『頑張っていると思うよ』、『一緒に考えてみよう』などと、その場しのぎの対処に走ってしまう上司も少なくなく、結果、はたと気づいた時に部下は『何をやっているのだろう?』と迷いを感じてしまうのです。

4. 上司と評価制度(その2)

優れた上司は『どうすれば自組織が成長するか』、『どうすれば部下がより良い評価を得られるか』に関して、事前から考え抜き、実現させるためのマネジメントを行っている人です。大変に難しいことです。

だからこそ、『俺の背中を見て育て』ではなく、データ(事実)に基づいて、必要な采配を取ることが求められます。上司こそが自組織の評価制度に精通し、どのような作戦で組織を運営するのか考えていなくてはなりません。

ともすると、厳しいように見えてしまうかも知れませんが、『頑張っているね』、『良い感じだね』と中身が薄いマネジメントで、何となく部下をその気にさせる上司よりは、比べようも無いほどに重要な上司と言えるのではないでしょうか?

まとめ

今回は自身の価値を磨くためにも、どのように評価制度と向き合えば良いのかに関して記載をしました。

  • 評価制度の原理原則:組織の成長実現と集中力の最大化
  • 定性評価と定量評価:あいまいな評価に騙されない。定量評価の重要性
  • 上司と評価制度:上司は評価制度に精通しているべき

これらのポイントに関しご理解を頂けると、ロスタイムの防止になるのではないでしょうか。やりがい搾取、甘い言葉に騙されないようにしていきましょう。

仲 悠将(Yusuke Naka)
上席コンサルタント 営業部。南山大学経済学部を卒業後、新卒で大手人材コンサルに入社。その後、地元・名古屋のベンチャー企業に転職。運送業界や産業廃棄物業界に特化した組織改善のコンサルティングを10年ほど経験。最年少役職者として早期にマネジメントも担当。その後識学に入社。