RIZAPの株価、一時ストップ安 投資重荷で期待届かず|日本経済新聞
先月16日(2024年5月16日)の株価は、前日比80円安の「342円」まで下落しストップ安となった。前期に比べ、売上は117億円増え、赤字は77億円減ったにもかかわらず、である(※1)。
それに先立つこと3か月前に実施した、株式の立会外分売(※2)も失敗に終わった。約100億円(2775万5200株)の資金調達を見込んでいたが、獲得できた資金は約22億円(604万100株)に留まり、およそ8割が売れ残っている。
17年の上場来高値「1545円」からすると、目を覆わんばかりの惨状だ。ライザップに何が起きているのか。以下詳しく見ていく。
長期安全性低下をもたらす急拡大
ライザップグループが赤字(年度決算)を計上する一方、新事業「チョコザップ」の急成長が続いている。
22年9月の開始から20ヶ月で、店舗数は、134店から1500店と約11倍に。会員数は、6万4千人から120万人と約19倍に。チョコザップが、ライザップグループの回復を牽引する形だ。
だが、この急拡大が、資金不安をもたらしている。チョコザップの店舗展開がフランチャイズではなく「直営」だからだ。
直営を採用する理由について、RIZAPグループ広報部 小林大氏は以下のように述べる。
「チョコザップは常にアップデートをし続けているので、直営の方がそのような変化に対して、スピード感を持って柔軟に対応できるからです」
chocoZAP、たった1年で業界最大手に成長…なぜフランチャイズ展開しないのか|ビジネスジャーナル
これはあくまで理由の一つに過ぎない。最大の理由は、
「店舗運営が必要ないから」だ。
そもそも、フランチャイズのメリットは、人の「手」と、人の「金」が活用できること。しかし、チョコザップの店舗にはスタッフがいない。「人手」がいらないのだ。
セキュリティは、入館時のQRコードチェックと監視カメラに任せる。店舗にはマシンだけを置き、使い方はスマホアプリで動画配信する。全店舗シャワーなし。トイレすらないところもある。店舗内を掃除するのは会員(※)、すなわち「客」だ。チョコザップは、DX化と簡素化、そして顧客の「お手伝い」により無人化を実現している。
※ フレンドリー会員:運営の「お手伝い」により会費が1000円程度割り引く制度
コンビニのように、品出・調理・接客のためのアルバイトを雇い管理する必要がない。加盟店を募り、店舗運営を任せるフランチャイズのメリットが無いのだ。
だが、「人手」は不要でも、「人の金」は必要だ。借入だけではない。チョコザップの設備の多くはリースだ。「将来のリース料」は負債として扱われる。チョコザップの店舗数増加にともない、負債もさらに増えていく。
チョコザップ開始以降、膨らんだ負債額はおよそ220億円。自己資本比率は19.1%(22年3月期)から、「12.4%」(24年3月期)へと大幅に低下した。これは、競合する「エニタイム」(Fast Fitness Japan)の自己資本比率「59.2%」(24年3月期)に比べ、かなり低い。長期安全性は「赤信号」だ。
チョコザップ店舗運営の不安
店舗運営にも不安がある。
ランドリー、セルフフォト、カラオケ、そしてドリンクバー。チョコザップは、従来から提供していた付随サービスを、さらに拡充させようとしている。
これらは、チョコザップの掲げる「体も心も健康になれる、スマートライフジム」の追求、というよりも、離脱者引き留めの意味合いが強い。
そもそも、運動というのは続けにくいものだ。
チョコザップは「1日5分」で、健康的で理想の体を手に入れることができるという。だが、「健康」はわかりにくい。痩せる・筋肉が付くなど、わかりやすい変化がなければ、モチベーションが上がらない。効果が感じられない会員たちは、チョコザップに飽き、やがて退会していく。矢継ぎ早に新サービスを追加しているのは、退会を防ぐためだ。
しかし、新サービスの追加は諸刃の剣でもある。
狭くなるチョコザップ
チョコザップは、狭くなりつつあるからだ。
会員数と店舗数を見てみよう。
22年9月から20ヶ月間で、会員数は、6万4千人から120万人へと「約19倍」に、店舗数は134店から1500店へと「約11倍」に増えた。会員数の増加に比べ、店舗数の増加が少ない。結果、1店舗あたりの人数は「478人」から「800人」となり、急激に人口密度が高まっている。
次に、面積当たりの会員数を見てみよう。
エニタイムの店舗当たり平均会員数は850人と、チョコザップとほぼ同じ。だが店舗平均面積は80坪と、チョコザップの30坪(標準タイプ ※3)の倍以上だ。1坪あたりの会員数は、エニタイム「10.6人」に対し、チョコザップ「26.7人」。チョコザップは、かなり窮屈な状態にあると思われる。
この狭い店舗に、新サービス「ランドリー、セルフフォト、カラオケ、ドリンクバー」の機材が設置される。さらに窮屈になるわけだ。
これ以上トレーニングエリアが狭くなれば、ジム目的の会員は退会していくだろう。安価かつ着替え不要・靴履き替え不要の競合ジムも出現している。チョコザップよりマシンが充実している自治体のトレーニングルームもある。「ジム」としてのチョコザップは、決して安泰ではない。
新サービスによるコスト増
また、新サービスはコスト増加要因ともなる。
現在、チョコザップの店舗清掃は「フレンドリー会員」が行っている。
フレンドリー会員とは、会員に月4回(~8回)店舗を掃除してもらい、その代償として月会費から1000円(~2000円)を割り引く制度だ。労働ではなく、あくまで「お手伝い」という位置づけだという。
一緒にchocoZAPを盛りあげたいというお客様を「フレンドリー会員」として認定させていただき、一緒に店舗運営のお手伝いをしていただく制度です。
フレンドリー会員とは何ですか? |よくあるご質問|chocoZAP(チョコザップ)|ライザップが作ったコンビニジム
ランドリーやカラオケ・ドリンクバーなどの機器清掃・メンテナンスを、「フレンドリー会員」で賄うことは到底できまい。専門業者が必要だ。コストは格段に跳ね上がる。
株主の信頼を失墜させる可能性
そもそも、このフレンドリー会員は「業務委託」ではないか、と疑問を呈する人も少なくない。
昨年9月、チョコザップが、フレンドリー会員に対し、外壁塗装や給排水工事・電気工事などの「お手伝い」を依頼していたことがX(旧Twitter)で話題となった。報酬はアマゾンギフト券7000円分(最大)だったという。ライザップはビジネスジャーナルの取材に対し、以下のように答えている。
ビジネスジャーナル「あくまでも”お手伝い”レベルの簡易な活動で、雇用などではないので、給料や報酬ではなく”参加特典”としてギフト券を渡す、ということになるわけですね」
ライザップ広報「はい。そのとおりです」
ちょこざっぷ、会員に電気工事を依頼…電気工事士「違法性ないが単価低い」 | ビジネスジャーナル
ライザップは、Xで「誤解を招くような募集内容となっていた」とも述べている。
直営展開による負債増加。新サービスによるコストアップ。店舗当たり会員数増加による顧客満足度低下。そして、誤解を招く発信。
これら複合的要因が、株主からの信頼を失墜させた可能性がある。そもそも、株式市場の、ライザップに対する信用度は、決して高くない。18年12月の「負ののれん(凍結)」による株価暴落(※)や、19年5月の瀬戸社長の「(翌期)黒字にならなかったらこの場にはいない」という宣言の反故、などの過去があるからだ。
※参考 ライザップ「のれん」なしで300億円稼げるか | アゴラ 言論プラットフォーム
今年2月に、ライザップは中期経営計画で
「27年3月期の営業利益400億円、店舗数3800店」
という目標を追加した。
今度こそ「結果にコミット」できるか。明らかになるのは22か月後だ。
長期安全性は改善するか
6月7日、SOMPOホールディングスが、ライザップ(子会社含む)に対し、約300億円を出資することが報道された。チョコザップの出店費用に充てるという。
SOMPO、ライザップに300億円出資 健康事業を拡大|日本経済新聞
今回の出資は、一時的に自己資本比率を改善させるものの、出店に伴い負債が増加するため、根本改善に繋がらない可能性もある。詳細は、7月1日の記者会見を待ちたい。
【注釈】
※1 売上:1545→1662億円、赤字: △127→△50億円
株価:6月14日現在 358円まで回復している
※2 取引所における取引時間外(立ち会い外)に、上場株式のまとまった売り注文を小口に分けて、不特定多数の投資家に売り出す売買方法のこと
※3 「22年7月 に延床面積およそ30坪ほどの標準タイプのフォーマットを固めた」
RIZAP 2025年度中に「chocozap」で2,000店舗の達成目指す | Fitness Business
実際は、コンビニ跡地に出店することが多く、15~40坪程度の幅があると思われる
【参考】
ちょこざっぷ、会員に電気工事を依頼…電気工事士「違法性ないが単価低い」 | ビジネスジャーナル
「お手伝いってレベルじゃない」chocoZAPが物議 電気工事などギフト券で募集…運営謝罪「誤解生じる表現があった」: J-CAST ニュース