世界から評価される日本の国際貢献:今こそ強みを活かした国家運営を(藤谷 昌敏)

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政策提言委員・金沢工業大学客員教授 藤谷 昌敏

2019年に発生した新型コロナウィルス感染症は、COVID-19と呼ばれ、2020年に入ってから世界中で感染が拡大し、2022年8月までに感染者数は累計6億人を超えた。

日本においては、2020年時点で感染症法に基づいて強制入院などの措置を取ることができる指定感染症(2類感染症相当)に指定された。新型インフルエンザ等対策特別措置法によって、政府が緊急事態宣言を発令できるようになっていた。

その後、2023年5月8日、新型コロナウィルス感染症対策本部は、2類感染症相当から季節性インフルエンザと同等の5類感染症に引き下げた。今も新型コロナウィルス感染症は静かに流行しているが、その強毒性は姿を消した。

だが、世界を大パニックに陥れた当時は、巷では、世界が終るかのような悲観論が満ち溢れ、様々な噂が流布していた。

例えば、「コロナウィルスを見事に終息した中国がいち早く経済を回復させ、米国を抜いて世界の覇権を握る」、「日本は多額の債務から立ち直れず、一層の経済の衰退期を迎える」などである。そしてメディアの多くは、日本政府を重箱の隅をつつくような論点を持ち出して批判し、このまま、日本は国際的な影響力も失い、経済も落ち込み、中韓に屈して衰退していくとされた。

確かに日本は、2023年のドル建ての名目国内総生産(GDP)でドイツに抜かれ、世界4位に後退した。内閣府が23年のGDP速報値をドル換算したところ、日本は4兆2106億ドルで、ドイツは4兆4561億ドルだった。その原因は、外国為替や物価などとされた。

しかし、私は、まったく反対に、今こそ日本の強みを発揮して世界をリードする国になり得ると考えている。

日本の強みとは

2023年9月、アメリカの時事解説誌「USニューズ&ワールドレポート」が「世界最高の国ランキング2023」を発表した。同調査では世界87ヵ国を対象にランキング化しており、日本は総合6位に選ばれた。その基準は、冒険性、機敏性、文化的影響力、起業家精神、文化遺産、原動力、ビジネスの開放度、国力、生活の質、社会的目的である。

因みにランキングトップはスイス、2位カナダ、3位スウェーデン、4位オーストラリア、5位アメリカ、6位日本、7位ドイツ、8位ニュージーランド、9位イギリス、10位オランダで、日本はアジアで唯一トップ10にランクインしている。その他のアジア諸国ではシンガポールが16位、中国が20位、韓国が21位となっている。

日本がどんな点で評価されたのかを見てみよう。

「起業家精神」は3位で高い評価を受けた。「教育を受けている人が多い」、「革新的」、「技術的な専門性が高い」、「デジタルインフラが成熟している」などの理由からだ。

次に「文化的影響力」(5位)、「文化遺産」(6位)が高評価だ。茶道や書道などの日本特有の文化、寿司などの日本食、富士山をはじめとする多数の世界遺産などが影響している。「機敏性」(6位)では進歩的で現代的だとされる。

反対に「ビジネスの開放度」(37位)は評価が低く、「税金が高い」、「製造コストが高い」、「政府の不透明性」が原因となっている。「社会的目的」(23位)も評価が低く、男女の性的格差や人種による平等性、動物や人権に対する配慮、信仰の自由などに問題があると指摘されている。

さらに、中国、北朝鮮、ロシアなど周辺諸国との関係性が悪いこと、少子高齢化、人手不足などの国内問題があることなどが低い評価に繋がっている。

日本の高評価の理由とは

こうした世論調査の中で、世界的に日本が認められているのは何故なのだろうか。政治・経済・社会・産業など様々な要素があるが、代表的なものを挙げてみる。

(1)技術
欧米の独占市場だった自動車産業に打って出て世界トップクラスに躍り出たトヨタ、日産などの車作り、プロ専用機材しかできなかった映像や音楽を身近なものにすることに成功した日本ビクターによる世界初のVHSや、世界的大ヒットとなったSONYのウォークマン、キヤノンやニコンのカメラ、ホンダのアシモを代表するロボットなど、日本のものづくりの技術は世界のテクノロジーの発展と成長に大いなる貢献をしてきた。日本の技術に対しては今後も大きな期待が寄せられている。

(2)漫画、アニメ
ここ数年で海外の若者を中心に爆発的に人気になったのが、日本のまんがやアニメだ。それまで海外で一般的であった「アニメは子どもとオタクが見るもの」という偏見が崩れ、大人も子供も楽しめるエンターテイメントの1つとして定着しつつある。海外の主要な都市では毎年日本のまんが&アニメイベントが開催され、世界中のコスプレーヤーが集まる大人気イベントとなっている。

この他、ゲーム、新幹線、日本食など、日本の強みは数えられないほどある。しかも、世界的な世論調査を見ると、日本の国際貢献に対して非常に高い評価が与えられているが、驚くべきことに、日本の大手メディアがこうしたことを紹介しているのを見たことがない。

戦争をしない、武器輸出を抑制している、争いを避ける、他人に思いやりがある、声高な主張をしない、礼儀作法を重んじる、環境に優しい国づくりなどは、日本人の誇るべき独自性だ。

どんな国でも弱みや欠点はあるものだが、そうしたことばかり強調しても未来は開けない。日本人自身が正しく自分たちの長所、短所を認識し、これまで培ってきた「世界的信用」をもっと活かす国づくりをする必要があるのではないだろうか。

藤谷 昌敏
1954(昭和29)年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程卒、知識科学修士、MOT。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ、サイバーテロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、金沢工業大学客員教授(危機管理論)。主要著書(共著)に『第3世代のサービスイノベーション』(社会評論社)、論文に「我が国に対するインテリジェンス活動にどう対応するのか」(本誌『季報』Vol.78-83に連載)がある。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2024年6月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。