経営者をサポートする士業と呼ばれる専門家がいます。難関資格を保有する専門家として尊敬を集める一方、同じ資格保有者でも仕事内容や方針、そして能力も当然異なります。
できるだけ弁護士とは無縁な方が幸せ、なんてことを言う人もいますが、そんなことはありません。弁護士=裁判、紛争というのは、もはや古いイメージ。いまの弁護士はもっと経済活動的です。
そう語るのは士業向けの経営コンサルタントで自身も士業(特定行政書士)である横須賀輝尚氏。同氏の著書『会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業』から、プロ士業の見抜き方を再構成してお届けします。
司法制度改革で、弁護士は増えたが……
日本は弁護士の数が圧倒的に足りないと言われてきました。しかも、弁護士になったその多くが都会志向のため、田舎にいくと弁護士が存在しない市町村もありました(弁護士がいない地域は、「弁護士過疎地域」と呼ばれていましたが、これは2008年に解消しています)。
そのため、弁護士人口を増やすべく行われたのが司法制度改革です。これによって法科大学院が設立され、弁護士の数は増えました。
2000年頃には15,000人程度だった弁護士も、2017年には40,000人を超えるほどに。これによって、また別の問題というか、弁護士選定に新しい基準が生まれてしまいました。それが、弁護士のサラリーマン化です。
弁護士の独立の仕方は様々です。司法試験を経て弁護士資格を得ると、司法修習という研修を受けなければなりません。その研修を経て弁護士になるのですが、多くの場合まずは弁護士事務所に就職します。いわゆる「イソ弁」(居候弁護士)というやつです。
これに対していきなり独立する弁護士やその事実を「即独」(即、独立)と呼びます。独立したけど、先輩の事務所の一角を借りている弁護士を「軒弁」(軒先の弁護士)と呼んだり、なんだかこういった名称をつけるのが好きな業界のようです(事務所を持たない弁護士は、ケータイ弁護士と呼ぶんだとか)。
とまあ、ここまでは業界的なマメ知識。何が言いたいかというと、弁護士が増えてしまったので、当然就職する弁護士も増える。勤務する弁護士というのが普通になるので、全般的に弁護士が単なるいち職業として、サラリーマン化してしまっていると、業界では言われています。上司もいますしね。
もちろん、このあたりはやはり仕事もマインドも属人的なものです。ですから、業界全体がサラリーマン化していたとしても、あなたが出会う弁護士に問題がなければそれでいいのですが、選択の前提として、このような状況を知っておいた方が良いと考えて、解説を加えておきました。
ほかの業界でもいますよね? 独立はしているけれど、サラリーマン根性が抜けない起業家って。昔は弁護士で独立するっていうのは、まさに一国一城の主になるという感じで気概の塊みたいなもんでしたが、そうでもない弁護士もいるということで、片隅にでも覚えておいてください。
常に落としどころを考えている弁護士は優秀
弁護士の見極め方のひとつが交渉力。もうひとつが「和解力」です。まあ、これは私がつくった言葉なので、弁護士業界にはない言葉ですが、要は「判決以外の解決(和解)方法をどれだけ考えているか」が、優秀な弁護士を見抜くもうひとつのポイントになります。
最終的に、どこを落としどころにするか。例えば、あなたが商標権を侵害されたとしたら、どこを落としどころにするのか。内容証明郵便で、侵害している企業に警告をし、それでも使用を止めない場合、訴訟を起こすのか。
普通に考えれば、商標の使用差止めと損害賠償請求訴訟を起こします。しかし、侵害されていたとして、それが本当に自社の利益を奪われるほど影響力のある会社なのか。損害賠償請求するほどの損害が出ているのか。
例えば、こういった例で、影響が少ないのであれば、「放置」というのもひとつの落としどころです。問題の落としどころをどこに設定するのか。これを考え、提案できる弁護士が優秀な弁護士と言えるわけです。
これは、相談した際に聞けばわかることです。「先生は、この案件の落としどころはどこにあると思いますか?」と。もちろん、あなたの意見もあるでしょう。先ほどの例でいえば、商標権の侵害状況を解決したいのか、納得がいかないからとにかく損害賠償請求したいとか。
言い方を変えれば、あなたの言いなりだけの弁護士には、価値がないということ。案件の全体を俯瞰して捉え、あなたにとってベストな落としどころを提案してくれる。別の言い方をすれば、解決手段をできるだけ裁判に頼らない弁護士。こういった弁護士を選択することが、あなたの問題解決に力を貸してくれるということになります。
まとめると、良い弁護士。つまり問題解決を実現してくれる弁護士とは、法律的な知識や能力だけではなく、高い交渉力があること。そして、落としどころを常に考えられる思考力の持ち主、ということになります。
なんでも頼んでみよう
弁護士は、基本的に法律実務なら何でもできます。事務所によっては、隣接する仕事を、仮に弁護士の業務でなくても請け負ってくれることがあります。
例えば、離婚問題。離婚は無事に成功しても、小さな子どもがいたら、両親のいずれかが必ず親権を取り、監護しなければなりません。その場合、親権を有さなかった方には子どもと会う「面会権」というものがあります。まあ、よくある話のひとつですが、離婚したあとも子どものために、月1回は面会するというのは、あなたも聞いたことがあるでしょう。
円満離婚であれば、月1回、両親ともども面会するということも可能でしょうけど、離婚するくらいですから、二度と会いたくない間柄の人たちもいるはず。
そういうときは、弁護士にその役割をお願いしてみましょう。子どもを弁護士に預ける。その間、一方の親が面会する。時間がくれば、その親は帰る。いわゆる世間に存在する「面会交流第三者機関」の役割をタイムチャージで担ってもらうのです。
こうした業務を弁護士事務所が必ず受けてくれるかどうかは、その事務所次第ですが、頼んでみることはできますので、融通の効く事務所かどうか、確かめてみるのもありだといえるでしょう。
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横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年6月14日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。