なぜJALの会社更生法適用は叩かれた? 意外と知らない「倒産」の仕組み(横須賀 輝尚)

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かつては日本航空やハウステンボスにも適用され、ニュースでもたまに耳にする「会社更生法」。これは「法的倒産」の一つです。

「一口に”倒産”といっても、会社をたたむ方法にはいくつかの種類があります。一般の方がよく耳にされるのは法的な手続きによる倒産だと思いますが、その法的倒産だけでも4つのパターンがあるんです。」

と言うのは経営コンサルタントの横須賀輝尚氏。今回は、横須賀氏の著書『プロが教える潰れる会社のシグナル』より、意外と知らない法的倒産の4つのパターンについて再構成してお届けします。

法的倒産1:再建型(1)会社更生法

最初にお伝えしておくと、会社更生法による再建手続きと民事再生法による再建手続きは基本的に同じようなものだと考えて問題ありません。会社更生法は株式会社だけが対象で、上場企業や大企業など、倒産すると社会的に影響がある企業に適用されることがほとんど。

会社更生法を適用し、話題となった代表的な企業としては、長崎屋、ハウステンボスなど。日本航空(JAL)が会社更生法適用になったことは、覚えている人も多いんじゃないかと思います。ほかにも意外な例としては、牛丼大手チェーンの吉野家なども1980年に会社更生法を適用し1988年にはダンキンドーナツ運営会社「株式会社ディー・アンド・シー」と合併して、「株式会社吉野家ディー・アンド・シー」となっています。

会社更生法はその名のとおり、再建するための制度です。「会社更生法適用!」と話題になると、あたかも「倒産」「会社がなくなる」的なイメージがまとわりつきますが、実際は会社をなんとか維持させようという制度です。

ですから、会社更生法が適用されても、そこで働く社員はそのまま雇用が継続されるというのはよくあることで、会社自体がなくなるわけではないのです。

仕組みとしては、会社更生手続きを裁判所に申請します。裁判所は「事業管財人」と呼ばれる実質的なスポンサー企業を選定し、そのスポンサー企業によってなんとか更生させる、というようなものです。

長崎屋の支援に名乗りを挙げたのは、アメリカの企業再建投資ファンドであるサーベラス・グループのサーベラス・アジア・キャピタル・マネージメント。ハウステンボスの支援は野村プリンシパル・ファイナンス株式会社。ハウステンボスはのちにHIS(株式会社エイチ・アイ・エス 代表:澤田秀雄)が支援に手を挙げたことでも有名です。

このあたりの企業については、「大変そうだなぁ……」とか「なくなってしまうと寂しい」みたいなものですが、一方で会社更生法の適用を強烈に叩かれた企業もありました。

それが前述の日本航空です。株主が怒号をあげて怒っている様相をテレビで見た記憶がある人も多いんじゃないかと思います。なぜ、日本航空があんなにも叩かれたのかというと、スポンサーが政府系金融機関・支援機関の地域経済活性化支援機構だったからです。

つまり、税金が投入されたわけ。だからみんな怒っていたんです。自らの怠慢で経営不振になったのに、税金で再建となれば、まあみんな怒りますよね。民間企業同士の支援が美しくも見える分、日本航空の場合は余計に炎上したというような印象でした。

このように、会社更生法は大企業・上場企業を維持させるためのもの。こうした会社を倒産させてしまうと、多くの社員や取引先が路頭に迷うことになります。そのため、こうした制度が敷かれているわけです。

ちなみに、この会社更生法の歴史をたどってみると、支援に名乗り出た企業が倒産の憂き目に遭っていることもわかります。企業経営というのは、なかなかシビアなものです。

法的倒産2:再建型(2)民事再生法

民事再生法の目的は、原則として会社更生法と同じと考えて問題ありません。 こちらは大企業・上場企業だけを対象にしておらず、個人、株式会社や有限会社など中小企業、医療法人や学校法人などすべての法人が対象です。

会社更生法と違う点は、これらの対象が広がっている点と、原則として会社更生法の事業管財人のような管財人が不要ということ(裁判所の命令で選任されることもあります)。

基本的には会社を再建するための制度です。わかりやすく言えば、裁判所の許可と債権者の同意(2分の1以上)を取って、債権者への支払いなどをストップし、経営を再建するというやり方。自力で再建する場合もあれば、スポンサー企業をつけて再建することもあります。

そのため、会社更生法のときと同じく「民事再生法が適用された!」と話題になっても、案外生き残っている会社もあります。ただし、東京商工リサーチの調査によれば、2000年から2016年までの民事再生法を申請した会社の生存率は7,341社中2,136社で29.1%と決して高い成功率ではありません。

法的倒産3:清算型(1)破産

会社更生法や民事再生法が「再建」なら、こちらは「清算」。株式会社はじめ、様々な法人形態、そして個人での破産があります。事業を停止し、借金などの債務をなくして終わりにする、いわゆるわかりやすい「倒産」ですね。

手続きとしては、裁判所に自己破産の申し立てをして、破産手続きを進めるわけですが、会社自ら申し立てることもできますし、その会社の役員からも、債権者から申し立てることもできます。

倒産の典型例でもある「破産」ですが、破産の申し立てがあると、裁判所は破産管財人を選定します。ほとんどの場合、この破産管財人には弁護士が選ばれ、会社に残った財産を売却して債権者への支払いに当てていきます。

厳密にいえば、「法人」の破産になるのですが、中小企業の場合には銀行からの借り入れなどにはほとんど経営者個人の連帯保証がついているので、経営者も合わせて個人で自己破産することがほとんどです。よく聞く「最後は家や土地も売った」みたいな話は、連帯保証人になっているから「会社も破産、個人も破産」というわけです。

ちなみに、破産しても社長個人の税金や社会保険料などは免除とはなりません。会社が倒産直前ともなれば、様々な未納が出ている可能性がありますが、ここを考慮しておかないと「破産後に、税金の支払いでもう一回お金が足りない」という状況になるので注意が必要です。

法的倒産4:清算型(2)特別清算

特別清算という方法も、清算型の倒産。破産との違いとしては、まず特別清算は株式会社のみしか適用されません。そして、特別清算は会社を解散させてから行うため、解散するための決議として株主の3分の2の同意が必要になります。

そのほか、破産に比べて費用が抑えられるなどのメリットもありますが、近年では破産に少額管財制度というものができ、この特別清算という制度はあまり使われなくなってきています。

横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年6月17日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。