独立すると性格が変わるってホント?

黒坂岳央です。

会社員を辞める前、独立することに人一倍恐怖があった。経済的不安というより、独立すると守銭奴で人が寄り付かないような性格になってしまうのでは?と人格が変わってしまうことに対してである。

独立してかなりの年月を経た今、確かに性格というか人格は変わってしまったと思っている。でもそれはかつて不安視していたものとは逆の方向だった部分もある。

本稿では個人的に独立して変化した性格について取り上げたい。

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1. 気持ちの余裕が生まれた

最大の変化は「気持ちの余裕」である。会社員の頃はこの逆でまったく余裕がなかった。上司や同僚に相性が悪い人が来るとジ・エンドという感じで人事異動がある度に「どうか相性の悪い人に当たりませんように!」とお祈りしていた。

しかし、独立後は人間関係の悩みは消えた。上司はいない。業績は100%自己責任なので、頑張ったりアイデアや創意工夫はすべて跳ね返ってくる。もちろん、マーケットから心無い言葉も受け取ることはよくあるが、会社員のときと違うのは合わない相手とは無理に付き合わなくても良いという点だ。そのため、良くも悪くも成果物だけで取引ができるので本来の仕事のパフォーマンスだけに集中できる。

また、時間の余裕も感じられる。会社員の頃は一日の余暇時間は極めて限定的で、金曜日の夜から日曜日の夜までは「聖域」。この貴重な時間をムダにしてはいけない、ということでとにかく時間にケチだった。確かに独立後も1分1秒をムダにするつもりはないのだが、ノルマに追いかけられているものはなにもないので、セカセカと慌てふためくタイミングは激減した。もちろん、ムダを省いて効率を求める姿勢は変わらないが、気持ちの余裕は生まれた。

2. 異を許容する気持ち

2つ目は異を許容する気持ちが生まれたことだ。

独立前は会社員だったので、ものの見方が「会社員か?それ以外か?勤務先の規模や職種は?」という感じで、狭量な部分もあった。だが独立して育児も経験すると一気に多様性を許容する気持ちが生まれたと感じる。

世の中には色んな職業の色んな考え方の人がいて、それぞれ違った視点で意見を持っている。全員を満足させることはできないので、ビジネスは自分を必要としてくれる人を見つけてその人に向けて解決策を提供し続ける活動という考えになった。むしろ、そうしなければ独立後のビジネスでは決して生き残っていけないからだ。また、同時にそれ以外の人もそれぞれの価値観で生きている同じ人間であり、自分と違った価値観を持っているがすなわち間違いではなくそれが多様ということだという考えである。

「そんなの今の時代、当たり前でしょ」と思われるしれないが、SNSを見ると意外とそうでもない。異は差別や迫害、弾圧の対象であり、数の暴力と拡散力で攻撃をしあってそれぞれの派閥争いをしている。海外の話ではなく、日本国内でこそたくさんの派閥に別れて争いは絶えない。これでは異を許容するどころか、武力で自分の流儀を押し通すための実質的な戦争と何ら変わらない。

昔は自分と合わない人を見つけたら、自分をわかってもらおうとしたり相手の間違いを指摘しようとしたりといった未熟な行動をしたこともあったが、独立してからは一切なくなった。自分は自分、人は人を完全に地で行くことができている。

3. 他人と競争しない

最後は他人との競争から降りることができた。これは本当に価値が高いと思っている。

我々は生まれた時から自然に競争するように仕向けられている。そのすべてが悪いこととは思わない。特に優秀な人にとっては、競争心が強いことで忍耐と努力を作り、上を目指して駆け上がる動力にしている。一部のビジネスも時価総額やマーケットシェアを争うことで、よりよい商品サービスを作ることにつながっている。

しかし、必ずしもすべての人が争い続けなくても生きていける。いわゆる「競争から降りる」という生き方だ。独立をするとそれが可能になる。実例をあげると筆者の地方の小規模の人気ケーキ店がそれにあたる。

筆者自身が周囲が酪農家と農家ばかりの田舎に住んでいるが、この店舗は驚くほど繁盛している。全国区にはまったく知名度はないが、地元の人は誰もが知っている高級ケーキ屋なのだ。素材には地元のフルーツをふんだんにつかっており、地元の外へ手土産を持参する時はその店のケーキやお菓子を持っていくのが定番なのだ。

休日には店の外まで長蛇の列を作っており、「こんな小さな町にこんなにたくさんの人が住んでいたのか」と驚くほどである。値段は地方の店舗とは思えないほど高く、いわゆる「東京プライス」なのに祝日は午前中で全商品売り切れてしまうこともあるくらいだ。

この店舗、おそらく競争とは無縁の世界を生きている。まず立地は人里離れた林に位置しており、周囲に同業店舗はおろか店自体がない。チラシや広告を一切打たない。また、生ケーキが主力商品であり、地元栽培の素材を使っていることをウリにしているのでいくら天下のAmazonでもこの店舗のシェアを奪い取ることは難しいだろう。買い物客は地元を応援する気持ちもあってこの店舗を利用しているからだ。

このように独立をすると自分だけの世界観を作ることができる。取り扱っている商品サービスはコモディティでも、消費者は誰からでもいいというわけではなく「あなたから買いたい」と指名買いされるようにすれば、ライバルは不在になる。他者を出し抜いたり、競争を意識する必要はなくなり、売上も安定化するのだ。

独立をすると高飛車で拝金主義100%になりそうなイメージを持つ人もいるかもしれないが、意外にも性格は「丸くなる」部分もあると思っている。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。