石丸伸二市長恫喝訴訟「敵に回すなら政策に反対するぞ」の真実性は認められず

石丸伸二市長恫喝訴訟「敵に回すなら政策に反対するぞ」の真実性は認められず:広島地裁令和3年(ワ)628号、令和3年(ワ)1006号

真実性が認められず

石丸伸二市長「恫喝」訴訟とは

広島県安芸高田市の石丸伸二市長に関する「恫喝」訴訟とは何か?

発端は以下のX(旧Twitter)での投稿です。*1

https://archive.md/hdbwr https://archive.md/W5mz8

 https://archive.md/qEwbM

これ以降、石丸氏から執拗に「山根議員の恫喝発言」について議会の内外で発信が為されました。これを受けて山根議員が石丸氏個人と安芸高田市を提訴した、というのが「石丸市長「恫喝」訴訟」と呼ばれているものです。

より具体的に言うと、「令和2年9月30日の安芸高田市議会全員協議会終了後の意見交換会(本件においては意見交換会含めて全員協議会と言うこともある)において、山根議員=やまね温子議員が、石丸氏に対して『議会を敵に回すと政策が通らなくなりますよ』という恫喝発言を行った」という内容のX投稿が為されたことによる名誉毀損、上記投稿が安芸高田市議会議員選挙期間中に行われたことによる選挙妨害、11月13日以降*2に執拗に追及したことが名誉毀損以外の不法行為であるとして、石丸氏個人に500万円の損害賠償を求めたものです。

また、やまね議員から安芸高田市に対して、上記行為は市長として行ったものであるため、市が責任を負うとして330万円の損害賠償を求めたものです。

結論から言うと名誉毀損として後者の請求が認められて33万円の賠償命令が為されています。

「居眠り議員」指摘投稿:脳梗塞の症状による意識喪失だった

archive.md

本件の前提として、石丸氏が令和2年9月25日にX上で「居眠り議員」への指摘投稿(※現在削除済み。)を行ったことについての騒動があります。同年9月30日の全員協議会後の意見交換会は、これを受けて行われたものです。

「居眠り」とされたものについては、実際は脳梗塞の症状による意識喪失だったとして議会としての今後の対応が示されています。

議会運営に関するお詫びと今後の対応について(12月7日追記) | 安芸高田市

(1)居眠り

居眠りを即座に注意しなかったこと、この度の居眠りは「病気が原因となる意識の喪失」であったことから、体調不良時等の対応を含めた対策が必要。

恫喝の真実性なし:広島地裁令和3年(ワ)628号、令和3年(ワ)1006号

広島地裁令和5年12月26日判決 令和3年(ワ)628号、令和3年(ワ)1006号では、恫喝の真実性・真実相当性が無いとされました。

石丸氏は意見交換会時の自身のメモに、やまね議員の名の記載に続いて「対立-政策-敵」とあることを証拠として挙げていましたが、意見交換会の一部について録音データが残っており、それを参照する限りは「敵に回すなら政策に反対するぞ」という発言の事実は認められず、「恫喝」と言える事実も認められないとされました。

議会、やまね議員の認識は以下で公開されています。

議会運営に関するお詫びと今後の対応について(12月7日追記) | 安芸高田市

(3)恫喝に対する議会の対応

恫喝に関するコメントやツイートは、当初、会議以外の場で行われた個人的な発言に対するものの可能性があり、確認が難しいために議会のコメントを控えておりました。その後、市長から提言を受け、9月30日に開かれた全員協議会で、数名の議員から「議会の批判をするな」「選挙前に騒ぐな」「敵に回すなら政策に反対するぞ」「夜道には気をつけろよ」といった趣旨の発言がなされたか、確認いたしました。
恫喝は発言内容にかかわらず、受けた側が感じた時点で恫喝になるとの認識が必要との意見があったものの、上記のように威圧的と感じる発言はなかったことを確認し、市長に回答をしております。

市長のコメントに対する説明 | やまね温子オフィシャルサイト

そうです、議事録を読めばわかるはずと私も思います。私がそういう発言をしたと事実を認めていると言われますが、私は、市長が議会から言われたという「議会の批判をするな」「選挙前に騒ぐな」「敵に回すなら政策に反対するぞ」の言葉を指してそういう発言と言われているのであれば、どの言葉も発言しておりません。もちろん発言の事実がないので認めてもいません。

なお、全員協議会後の意見交換会の音声として訴訟資料になったものは恫喝問題に関わる資料、音声 | やまね温子オフィシャルサイトにて公開されており反訳文もあります。

音声記録(R2.9.30)の反訳書 | やまね温子オフィシャルサイト

なぜ石丸氏の発言が市の責任になったのか?国賠法とTwitterアカウントの投稿の外形

では、なぜ石丸氏の発言が市の責任になったのか?

これは国賠法に以下書いてあるからです。

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる
② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

Twitterでの投稿が「その職務を行うについて」と認定されたのは、Twitterアカウントからの当該投稿の外形が*3市長としてのものだと認定されたからで、公式アカウントか否かは関係ないとされました。

ただし、これは国や公共団体に責任を認めることで被害者が賠償を受けられるようにするためのものなので(損害を与えた公務員個人の懐が寒い場合には取りっぱぐれるが、国や公共団体ならその心配は無い)、国賠法1条2項により、市は石丸氏に対して求償権を有しています

なお、なぜか安芸高田市は国会議員の免責特権に関する判例を引用して石丸市長の議会内での発言の違法となるハードルを引き上げようとしていましたが、退けられています。*4*5

まとめ:石丸市長「恫喝」訴訟は真実性が認められず安芸高田市の責任となったが石丸個人に求償権行使するか

広島地裁判決は国賠法上の違法性について以下判示しています。

 (2)本件議会内発言及び本件各投稿の国賠法上の違法性

ア 本件議会内発言について

普通地方公共団体の長が、議会における答弁や発言において、どのような形でこれを行うかについては、普通地方公共団体の長の政治的判断を含む一定の裁量が存在するというべきであるから、普通地方公共団体の長の議会における当然や発言について国賠法1条1項にいう違法があるというためには、発言の動機、目的、内容及び発言態様等を考慮し、普通地方公共団体の長としての政治的判断を含む一定の裁量を逸脱したと言えることが必要であると解すべきである。

これを本件についてみると、本件議会内発言は、上述のとおり、原告の名誉を毀損するものであって、原告が本件発言をしたという事実が真実であるとはいえず、同事実が真実と信ずるに足りる相当の理由があるといえる状況でなされたものともいえない上、原告が本件発言をしたか否かは、政治的判断が必要となる事項でもないことに鑑みれば、本件議会内発言は、被の市長としての裁量を逸脱したものといえ、国賠法1条1項にいう違法な行為があったものといえる。

本件各投稿についても同様の判断が下されています。

市長が変われば市は石丸氏個人に対して求償権を行使するかもしれません。

また、市長が変わらなくとも、住民訴訟によって、やまね議員に支払った金額分について「市に対し、石丸伸二氏に対して求償権行使をすることを求める請求」をする可能性があります*6*7

なお、控訴されており広島高裁の判決が7月に出るようです。

*1:この5つが広島地裁の判決文中では「本件各投稿」とされた
*2:12日に石丸氏がやまね議員への追及を終わると宣言したにもかかわらず追及を続けたため
*3:外形基準(最高裁昭和31年11月30日判決昭和29(オ)774民集第10巻11号1502頁
*4:「その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情」:最高裁判所第三小法廷判決 平成9年9月9日 平成6(オ)1287 民集第51巻8号3850頁
*5:地方議会議員に関してもこの場合に限って公共団体の責任を認めるという法理を採用している例もあるが⇒地方議会での名誉毀損と司法審査:行橋市の小坪慎也議員に関する徳永議員による爆破予告犯「ヘイト議員」便乗動議提出・決議について – 事実を整える、最高裁は未だ判断を示したことはない
*6:裁判例:大分地判平成28年12月22日:地方自治法242条の2第1項3号4号
*7:現職市長に対する求償権行使をするよう認められた例として東京都国立市の上原公子の例が有名⇒国立市マンション訴訟事件の上原公子の妨害行為:小池百合子都知事の先例か – 事実を整える


編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2024年6月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。