GDP順位は順調に下がり続け、海外との賃金格差は開き、円は叩き売られ、誰が見ても日本が落ちぶれたと感じる状況になった。
知民は1ドル103円だった3年前の正月にアゴラ寄稿記事『緊急事態宣言と日本の「Xデー 」』で5~10年後のXデーを警鐘したが、こんなに早く、誰の目にも明らかになるとは思っていなかった。
記事では個人預金の内200兆円程度(当時の為替レートで)が海外に逃避すると、1ドル200円を超えるが、自分の資産さえしっかり守っておけば、国内の債権債務関係が整理されるので却って活気が戻るとした。
今でも、あと半分残っている2020年代は、貧しいながら、国内は活気のある、令和元禄時代として花開く可能性すらあると思っている。
それはさて置き、日本が日に日に海外に取り残されて行く様に感じるのは何故だろう?
知民は、その最大の要因は日本の「解雇規制」にあると結論付けている。
アメリカの会社は、やみ雲に解雇するわけではないが、やはり企業都合での解雇は珍しい事象ではない。
これはアメリカやカナダが雇用に「at-will employment(随意雇用)」(会社側と労働者双方が自由に雇用関係を終了できる)の原則を採用しているからである。
実際、アップルが電気自動車事業から撤退するのに600人以上解雇したのは記憶に新しいし、アマゾンもテスラも平然とリストラに『解雇権』を行使している。
一方、日本では企業都合の解雇は極めて難しく、リストラに『解雇』という手段は使えず、止む無く、他国では聞いたことが無い『(早期)希望退職』という手段を行使するしかない。
労働基準法では明確に30日前の解雇予告での解雇権を認めているにもかかわらず、最高裁判例で会社都合の解雇は制限され、それ以降は、事実上、企業は会社都合で従業員を解雇することができなくなり、2008年には現状追認で法制化されている。
解雇規制の影響は多岐に渡るが、まずは海外の企業が日本に工場を作らない。
一度雇うと定年まで解雇できない国に、工場を作ろうという国際企業はいない。
それは対内直接投資(対GDP比率)に現れるが、日本のパンデミック前までの対内直接投資はほぼゼロであった。
2010年代以降、グローバルなファブレス経済が進行する中で、解雇規制の厳しい日本への海外企業の投資が皆無な中、輪をかけて、日本企業も大挙して海外に逃げてしまった。
これは、今度は対外直接投資(対GDP比率)に現れるが、2010年代中盤からの日本の対外直接投資(国内で事業をしないで、海外で事業をする)の規模は世界でも群を抜いていた。
そして、とうとう、日本に致命傷を与えたのが2020年のパンデミックである。
パンデミックでは、世界中で失業率が大きく上昇する中、日本だけは一貫して低失業率を維持した。
アメリカは失業保険給付に上乗せ(週600ドル≒月27万円)して失業者を守ったが、日本は解雇規制により解雇が出来ないため、雇用調整助成金ならびに休業補償/時短協力金で企業を守ったのである。
しかし、人々がパンデミックで引きこもっていた間、世界ではテレワークが一般化し、生成AIも出るなどして大きく様変わりした。
そして、パンデミック中、失業状態にあった人々は、パンデミック明けに、新しい世界に対応した産業に、どんどん移動していった。
奇しくも、シュンペーターが経済成長で一番重要だと強調する「イノベーション」が一気に花開いたのである。
しかし、日本では、需要があろうがなかろうが、ひたすら旧来からの企業を守り、そして、従業員を縛り続けた結果、千載一遇の「イノベーション」の機会を完全に逸することになり、一気に世界に差をつけられてしまった。
ただ、ちょっとは明るい話題もある。
米中関係悪化に端を発した世界分断化による経済安全保障と、強烈な円安の組み合わせにより、熊本のTSMC(台湾)に代表されるように、日本の対内直接投資が大きく伸びており、熊本はバブル状態でさえある。
これからも、このような漁夫の利的なラッキーもあるかもしれないが、基本的には、世界中の経営者は一度雇用すると一生解雇できない日本に、工場や拠点を作ろうとは思わない。日本企業も同様であり、海外でやれるもんなら海外でやろうと思う。
2010年代から日本が落ちぶれ続けた、いろいろの要因があるが、この解雇規制に手を付けなければ、日本は引き続き工場誘致の出来ない、事実上の鎖国状態が続くだろう。
日本の経済的国力が低下している今、もう金融政策や財政政策でお茶を濁す対応は卒業して、こういう構造問題を一つ一つちゃんとクリアしていかなければ、日本が落ちぶれ続けるのを止めることも、円安を止めることもできないし、海外との格差が開き続けるのを止めることもできないだろう。