6月27日の討論会では、就任時から囁かれていた耄碌ぶりを遂に露呈してしまった感のあるバイデン大統領だが、民主党幹部や大口献金者らが8月19～22日に行われる党大会までにどう対処するか右往左往するのを尻目に、インタビューに応じたり、党議員に書簡を出したり、シンパのニュースショーに電話出演したり、当人は意気軒昂で降りる素振りを全く見せていない。
本稿では、動揺する民主党議員やバイデン氏がエリートと呼ぶ民主党幹部らの動き、ニュースショーへの電話、党議員への手紙の中身、そして討論会直後にバイデン陣営がこれを使うようにと用意した質問項目を使ってインタビューした黒人女性の司会者が解雇された話などを紹介する。
米国でも日本と同じ様に国会議員は「金帰月来」だ。その月曜日、バイデン氏は党議員に送った書簡で、選挙戦を続けることを「固く決意している」とし、「今後どのように進むべきかの問題は1週間以上議論されてきた。もう終わらせるべき時だ」、「仕事は一つ」トランプを破ることだ、と書いて党内ドラマの「終結」を求めた（7月8日の『Newsmax』）。
この書簡は、日曜日に行われた下院委員会の主要メンバー約15人の非公開の電話会議で、少なくともナドラー議員などの4人が、バイデン氏は辞任すべきだと発言した翌日に送られた。中でもエリートの一人でランキングメンバーのナドラー氏が最初に声を上げたとされる。
これもエリートのジェフリーズ下院民主党院内総務は「意見を一致させる」ため、自身の意向を示す前に再選のチャンスが薄い議員を月曜日に招集する予定とされ、またシューマー上院院内総務の率いる若手の議員らにとってもこの問題は試練となっているようだ。もう一人のエリートで、助言を求める議員からの電話に忙殺されているペロシ氏は、バイデン氏より3歳年長だからか彼への支持を変えていない。
月曜朝からバイデン氏がしたもう一つの「仕事」は、『MSNBC』のニュースショー「Morning Joe」に18分ほど電話出演したこと。討論直後の同番組で、アンカーのジョー・スカーボローとミカ・ブレジンスキーが狼狽し、言葉を失うスカボローを相方がたしなめる醜態を演じたと、冒頭の拙稿に書いた。
電話出演では途中（7:30過ぎ）、ミカが「アトランタで過ごしたような夜は二度とないと、どうやって米国民に保証できますか？」と単刀直入に問うた。バイデン氏は1分余りを使って、要旨次のように述べた。
私の成果を見て欲しい。そんな夜は殆どなかった。酷い夜だったし、起こったことを後悔している。だが問題は明日仕事に行くことを確信できるのかどうかだ。年齢は関係ない。年を取り過ぎている私が、1500万以上の雇用と2100万のACAを生み出し、大手製薬を負かし、500万人の学生ローンを軽減し、初の黒人女性を法廷に登場させた。私は重要な運営をした。それが私を評価する方法だ。2月に神経学的な能力の観点から身体検査と神経内科の検査を受け、記録を全て公開した。そして私は毎日神経学検査を受けている。つまり、デスクでこれらの決定をしている。
電話だし、後半で紙をめくる音が聞こえたからメモを見ながらの話だったのだろう、極めて元気な受け答えに聞こえた。が、内容はと言えば『ABC』インタビューでした話と同工異曲だし、30回と述べていたトランプの嘘が50回に増えていた。
最後に、7日の『Politico』が報じたところに拠ると、ペンシルベニア州のトークラジオ局『WURD』の社長兼CEOロマックス氏は6日、討論会後のバイデン氏への最初のインタビューで、バイデン陣営が用意した質問を使用した、「ザ・ソース」の司会者ローフル・サンダース氏を馘首した。番組は7月4日に放送されたが、サンダース氏はこの話を経営陣に知らせず独断で行っていた。
インタビューを調整したのはホワイトハウスではなくバイデン陣営で、陣営の情報筋は『Politico』に「司会者はどんな質問をするのも自由だ、今後は質問の提案は控えるつもりだ」と述べている。サンダース氏は、バイデン陣営から複数の質問が送られて来た中から4つを選んで大統領に質問したと語った。
ロマックス氏は「WURDはバイデン政権や他の政権の代弁者ではない」とし、「WURDは今回の事件から成長することを目指して」方針や実践を見直すと述べた。フィラデルフィアに拠点を置く『WURD』はペンシルベニア州で唯一のアフリカ系米国人が所有・運営するトークラジオ局と自称している。
何とも姑息なバイデン陣営だが、大統領選と同時に行われる上下両院の選挙対策担当者は、多くの献金者は、事ここに及んでは議会民主党をトランプに対する最後の「防火壁」と見做しているために、両院ともに過去最高の資金を集めたと述べている。バイデンの思わぬ怪我の功名と言えるかも知れぬ。
が、筆者は『MSNBC』の電話出演での壊れたレコード宜しく繰り返される弁解の内容こそが、何より問題と感じる。バイデン氏がいま問われているのは、今後4年半のことだ。超大国トップが過去に縋ること自体が老害であり、特に外交場面での「アトランタの悪夢」などは取り返しがつかない。
