ドン・キホーテは「運を科学する」ことで2兆円企業になった

ネットで見つけたドン・キホーテの創業者安田隆夫氏の著書「運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」」を読みました。経営者が運について語る本ですが、経営よりも投資に近いマインドを感じる書籍でした。

何より驚いたのは、文中に「大数(たいすう)の法則」という言葉が出てきたこと。そして「リスクを取らないのが一番のリスク」「楽観論者が常に成功する」など、私が投資において座右の銘にしているような言葉が次々と登場しています。

大数の法則とは試行回数が増えれば増えるほど、その結果は本来の確率に近づいていくという統計学の法則です。勝てる可能性の高いものを1回だけトライするのではなく、10回、100回、1,000回と繰り返すことにより勝つことがより確実になっていく。これはまさに資産運用において最も大切な考え方の1つです。

リスクを取らないのがリスクというのも、私がいつも個人投資家の皆様に伝えていることです。これは変化の大きな不確実性の高い世の中になったことでリスクを取らないことが環境の変化で逆にリスクになってしまうということを意味します。であれば、最初から安定など求めずに自分のやりたいことをやった方が良い結果が出るのです。

ドン・キホーテ中目黒店 Wikipediaより(編集部)

楽観主義とは過剰な防衛本能を働かせないことです。「何とかなる」という考え方を心の底に持つことによって良い結果を引き寄せることができる。これもまた投資の世界では長期で実証されていることです。

安田氏の経営者としての真骨頂は「幸運の最大化と不運の最小化」という見切りの良さにあります。数限りない失敗を繰り返してきたにも関わらず34期連続の増収増益を達成してきたのは、損失を早めの撤退によって最小化し、儲かる分野には徹底的に攻めて利益を極大化するというメリハリのついた経営センスがあったからだと思います。

また、権限移譲による「集団運」の醸成、ブルーオーシャンでの圧勝といった企業としての拡大政策が「安田商店」を2兆円企業まで成長させる原動力になっていることもわかりました。

本書は720円税別という驚安価格になっていますが、これも安田氏が印税を辞退して読者に還元しているからのようです。これもドン・キホーテの宣伝コストと考えれば安いもの。商売人としての「顧客最優先主義」が徹底されています。

事業をしている経営者だけではなく、投資家そして社会人になったばかりの若者にも一読を勧めたいユニークな一冊です。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2024年7月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。