金本位はアメリカの本意か?

今の時代にまさかこんな記事が出てくるとは夢にも思わなかったです。「金本位制、高値の裏でうごめく復活論 トランプ派が主張」(日経)。金本位制?マジか、と思わず声を上げてしまいました。この記事はあくまでもトランプ派がそう言っているのであってトランプ氏がそう言っているわけではありません。

トランプ前大統領インスタグラムより

事実、日本や台湾に激震が走ったトランプ氏とブルームバーグとのインタビュー記事には金本位の「きの字」も出てきません。ただし、トランプ氏が金本位に全然興味がないかといえばそうでもないかもしれないという背景はあります。

まず金本位制という言葉があまりにも古典的すぎて現代に生きる人には趣味で勉強するか、経済学部でそれなりにきちんと勉強した人ぐらいしか理解していないと思います。一言で述べると通貨に一定の金の裏付けを求めることであります。例えばある国で金と通貨の交換比率が1:100だとしましょう。すると金を1オンス持っていると100通貨発行できるという話です。

現代社会ではほとんどの国は中央銀行が通貨の発行を行っていますが、円にしろドルにしろ我々が手にする通貨は政府が保証しているものです。物理的に担保価値のある「国家」ではなくて運営している「政府」という点がミソ。物理的に国家が存在していても政府が変わるケースは歴史的にはしばしば起きます。ソ連がロシアに代わったのはその好例でそれまでのソ連ルーブルがロシアルーブルに切り替わるも激しいインフレで98年には1/1000のデノミも行われています。そういう意味では現代通貨は主要国においては基本安全ですが、背景的な不備がないとは言えないのです。

もしもトランプ氏支持派が金本位に気がついたとすれば2つの要因が思いつきます。1つは仮想通貨におけるステーブルコインの思想、2つ目は中央銀行による大量の通貨発行にくぎを刺すことであります。

トランプ氏は仮想通貨の支持派であります。くだんのブルームバーグインタビューにも「今やすべての仮想通貨は『「MADE IN THE USA!!!(米国産)』」にすべきだと主張し「われわれがやらなければ、中国がその方法を見つけ出すだろう。中国が握るか、それ以外の国かだ」と述べています。ある意味「通貨の覇権競争」だと思ってよいでしょう。

ただし、ビットコインは価値の裏付けがないし、そもそも採掘できる量はどんどん減っています。つまり一種の通貨としての拡大余地はありません。一方、ステーブルコインと称される仮想通貨は一定の現物資産にペッグ(紐づけ)されています。そのペッグを金にするという方法でアメリカ政府が発行する仮想通貨に金の裏付けをさせ、金本位を実質的に復活させることは論理的には可能だと思います。そして中央銀行の無節操な発行通貨の膨張を防ぐことは可能でしょう。たぶん、ここまで想像を膨らませた話をしている人はあまりいないかもしれません。

トランプ氏は現在の中央銀行への不信感が強く出ています。パウエル議長の「クビ案」はひとまず消えて任期満了までは「自分の思惑通りならば」クビにしないとしていますがある意味、中銀に首輪をつけたような状態であります。それはトランプ氏および共和党が健全財政と小さい政府を目指していることが上げられます。おまけにトランプ政権になれば財務長官にJPモルガンCEOというより近年の金融情勢に精通し辣腕をふるうことができる唯一の人物、ジェイミーダイモン氏を起用するのではという噂もあります。

トランプ氏のブラッドはビジネスマンなのです。政治家ではないのです。ここをきちんと理解しないと彼のポリシーは何一つ理解できません。その究極は「儲かるアメリカ」でしかありません。わかりやすく言えばトランプ氏はアメリカ株式会社のCEOになるということです。

中銀がせっせと通貨を印刷するのは借金を増やし、不必要にまでばら撒くからいやだという発想です。政府の財政赤字も当然厳しくチェックするでしょう。企業のバランスシート管理では負債を減らし、資産を増やすことがベストです。アメリカも同様であり、その発想の一貫で金本位はやり方によっては面白い発想だと思います。

ただし、そうなると各国政府は金の在庫を積み上げなくてはいけません。アメリカは8000トン強あり、世界の断トツ。金が好きな中国やロシアは2300トン規模。日本はインドと並んで850トン規模。つまりアメリカの1/10でしかありません。これでは勝負にならないし、金にペッグするアメリカ政府発行の仮想通貨が発行された場合の国際通貨と市場の安定については相当議論の余地があるでしょう。

個人的には中央銀行が主体となる世界の金融政策の発想にくさびとは言わないまでも構造的転換への議論の第一歩ぐらいにはなる可能性があるかと思います。「輝きを失わない金」とはよく言ったものです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年7月19日の記事より転載させていただきました。