日本は飲食店過多:業態として維持できない危機的な時代に

少し前ですが、産経が「焼肉店の倒産、過去最多ペース 円安で米国産牛肉も最高値 『ミートショック』再び」と題した記事を出しています。どれだけ倒産が増えたのか記事を拝見すると上半期ベースで昨年の8件が20件になったと。この記事はある意味ミスリードすると思います。全国の焼き肉店の数は約19000軒あります。その倒産率は8件ならば0.04%、20件ならば0.1%であり、統計的に有意だと考えるにはちょっと厳しいと思います。

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同様にラーメン店の倒産が増えたという報道も以前目にしました。23年度の倒産件数は過去最多の63件で前年比2.7倍だと。全国のラーメン店の数は24000軒ですので倒産率は0.26%となります。焼肉屋より倒産率は3倍ぐらい高いといえます。

飲食店でもラーメン屋や焼肉屋は比較的事業参入のハードルが低い業態ですが、当然ながらレッドオーシャンであり、いわゆる経営の観点からすれば完全成熟業種、いや熟成された業種といってもよく、よほどの工夫を凝らさない限り勝ち抜きは難しいと思います。以前、フェアシェアの理論をご紹介しましたが、自分の店を中心に半径〇メートルに飲食店が何店舗あり、そのうち、同種の業態が何店舗あるかによって飲食店の質にさほどの差がないならば何人のお客さんが期待できるかある程度計算できます。

繁華街のように流動性が高かったり、ディスティネーション(=その店に行くだけの価値対象になれる店)の店は別ですが、近隣住民向けの立地であればほぼこの枠組みから外れることはありません。特にラーメンや焼肉はこだわる場合は別として差別化しにくいのです。よってミートショックだとか原料費の高騰というより単に競争力を失ったと考えてよいと思います。例えば周辺に競合店ができたとか、その店の競争力が無くなった、といった具合です。

先月、訪日していた際、なぜか焼き鳥屋に3度も行くことがありました。1軒はチェーン系、2軒は個店です。個店の1つは小ぎれいな店ですが、客もまばら、店主が一人で切り盛りしていて味は普通。もう1軒はコースのみといわれ4000円ぐらいだったと思いますが、焼き鳥が5-6本、それ以外に2品ぐらい小皿がついただけでちょっと高いなという印象で味の印象もまずまず。

焼肉を外で食べる理由は家でやると匂いがつく、洗うのが大変ということだろうと思います。家庭用焼肉グリルの下に水を張ればある程度煙を抑えることができるし、工夫をすればどうにかなるものです。ラーメンも私は家でそれなりのスープは作れるのでわざわざラーメン店に行く必要性は感じません。それが面倒なら日本のスーパーにはラーメンスープが一人前100円以下で売っているのでそれを使えば相当レベルは上がります。

カナダはどの店も決しておいしいと思えないので日本のような外食癖が無くなったのだと思います。こちらで外食しても感動することはほとんどなく、飲食店に行く理由は場所代と作って運んでもらえるサービス代以上の何物でもなく、相手と話をして、腹を満たすのが主であります。もちろん、これを言うと異論が必ず出ます。〇〇には行っていないだろう、とか☓☓はめちゃ旨いのに、という話です。ところがそういうところに限って並ぶ手間があるのでそんなことにエネルギーはよほどでない限り費やさないことにしています。個人の主義の問題ですがね。

それでも日本の飲食店は過多だとも思います。いわゆる一般的な食堂、レストランの数は23年7月時点で82万5千軒。この数は厚労省の統計を見る限り過去十数年ほとんど変わっていません。コロナの頃に若干減っていますが、ここに来て新規開店も多くなっているのが特徴です。外国人の需要もあるし、日本の景気は悪いと口で言いながらもお財布は緩いというのが私の感じるところです。

厚労省の統計には「飲食店営業」というカテゴリーもあり、その中で「社交業施設」というのもあります。いわゆる夜のお店ですが、この10年で36%減となっています。2軒目の飲み屋で接待の時代ではないし、スナックのママ相手にべろべろに酔うというのはそれこそ昭和の話でしょう。カラオケも自分の家でYouTubeである程度曲は選べるようになりました。

そういう観点からすると日本の飲食店はある時点から大きく減るとは思っています。理由の一つに個店が飲食店の9割を占める状態が続いており、業態として長期的に維持できないのです。ある意味、かなり危機的な時代に入っているとも言えます。その場合、飲食店が無くなるだけではなく、ビルなどのテナントとして入居してもらえなくなり、飲食店ビルなどは影響を受けることになるでしょう。

時代の変遷と先を見通すといくら外食天国の日本でも家で食べるのが否が応でも増えるようになると予想します。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年7月21日の記事より転載させていただきました。