大丈夫か、日本の自動車産業:日産の4-6月決算の営業利益が99%減

かつて履歴書に「普通自動車運転免許所有」と書けなければ就職には不利と言われた時代があります。自動車の運転は就職パスポートのような勢いでした。いわゆるモータリゼーションの時代です。

今でも自動車運転免許を持とうという若者は減ったとは言えども6割以上あり、一応は免許を取得するようです。ただ、即、車の購入というわけでもなく、必要な時に運転するという姿勢が強まっています。カーシェアリングやレンタカーがその主流で、所有する人は地方などでその必要性が高い場合といった形に変わりつつあります。

また主税局が発表している2050年の日本における自動車保有総数予想は5550万台で年間販売台数は300万台に漸減するとみています。ただ、2020年の保有台数6212台から30年後にわずか10.6%しか減少しないというのは無謀ともいえるほどの楽観数字です。総務省が出している2050年度の人口は9500万人で現在より25%減。しかもご承知の通り政府予想は実態より外れる希望的観測に近い数字です。個人的には人口は2050年に20年比30%減で収まるのか、ぐらいになるとみています。

とすれば自動車保有台数が10%程度減少の訳がないし、その頃には今の自動車とは全く違う世界があるだろうと予想しています。それは趣味の個人所有の車とチョイ乗り目的で自動運転のカーシェアリングと市場をわけるとみています。自動車は個人所有から借りる時代に転換し、かつ、より実用面を重視したものになると考えています。つまり買い物やお年寄りの足なのか、長距離運転なのかで車格もサイズも用途により使い分ける時代になるとみています。

今、乗用車はおおむね5人乗り。だけど乗車しているのはほとんど1人か2人です。つまりそこには無駄があると考えるわけです。そこまでひねくれて考えていくと今の自動車産業が今のままで存在することを予想すること自体が疑問になってくるのです。

さて、このブログで中国の無節操な自動車生産により世界中にそのしわ寄せがあるという趣旨を指摘しました。それでもアメリカは政治力で阻止できるし、日本は消費者のマインド的拒絶感があります。ただ、日本も中国製だと避けているとしながらも例えば白物家電などはすっかり市場に浸透しつつあるわけで時間と共にこのメンタルバリアは下がってくるのでしょう。

自動車については海外市場で日本車と中国車の激しいシェア争いになってくるとみています。特に中国は政治的な蜜月関係を国家間で形成したのち、民間部門が様々な製品をその国に洪水のように売りつけ、市場シェアを奪うことを常套手段としています。例えば人口が1.7億人いるバングラディッシュは9割が日本の中古車、そしてその大多数はトヨタ車であります。ところが中国は同国との関係強化を図っており、いずれ、中国車で市場を席巻させようとしているとみています。タイは日本車のアジア地区の製造基地としての重要な拠点でありますが、その牙城もいつまでも安泰とは思えないのです。

ここカナダでは韓国車が歴史的に強みを見せています。韓国の自動車産業が黎明期の頃である80年代初頭からカナダ市場では強みがありました。当時の韓国車はボロでしたが、価格が日本車よりはるかに安かったことで市場浸透したのです。日本車は性能的に凄いとは思いますが、市場は必ずしも「凄い」車だけを求めているわけではないのです。特にどの車も似てくると個人的好み以外の選択基準、友人や会社の絡み、価格や割引率、更にはマーケティングによる差は大きくなりやすくなります。

ここに来て日本の自動車産業は大丈夫か、と思わせるニュースが相次いでいます。日産の4-6月決算の営業利益が99%減と発表しました。理由はハイブリッド車を押し出せず、北米で値引きをしたことで利益率が圧迫されたことによります。当地にいる限り、日産は市場へのメッセージがすっかりなくなってしまい、非常に残念な思いです。その点ではまだカルロスゴーンの時代の方がわかりやすかったと思います。

日産・内田誠社長と本田・三部敏宏社長 日産HPより

ホンダは中国でガソリン車の生産能力を3割減させるとあり、日野自動車は中国でのエンジン生産から撤退です。日産は中国での工場稼働率が5割程度となっており、ガソリン車の工場を6月に閉鎖しましたが、さらに追加閉鎖がありそうです。これは日本製鉄の中国7割削減と同じ構図で、中国車の品質が上がり、国を挙げて進めるEV化に背いてまでして日本車を買う理由が薄れてきているのが背景だと考えています。

自動車産業はそれでも日本経済の屋台骨であり、雇用を含めて経済界のリーダーであります。ここを死守したいなら官民を挙げた構造的変換を思いっきりよくやる以外乗り越える道はないと考えています。真綿で首を締めるというのはこのことで前例にとらわれない英断が求められると思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年7月26日の記事より転載させていただきました。