安全保障とeconomy(8)防衛ユニコーン日本でも アシストスーツやドローン対処 参入障壁下げ知見共有 日経新聞
防衛省と経済産業省は2023年からスタートアップ企業と意見交換会を始めた。これまで4回開催した。光る技術を持つ新興企業と手を組み、共同で知見を蓄積する狙いがある。実際に契約に至る企業も出始めた。
アシストスーツを手掛けるイノフィス(東京都八王子市)は航空自衛隊百里基地に腰や腕の動きを補助するスーツを14着納入した。機動的な移動や重い物資の迅速な輸送などで活用する。電気が不要で長く使いやすい。
これは、ぼくが9年前に主張していたことそのものです。
技本で戦闘用のパワードスーツを開発しても、運用的にもコストの面でもあまり現実的とは言えない。むしろ自衛隊は既存の民間用に開発されたものを兵站用などとして採用すべきだ。
たとえば後方の兵站基地、前線あるいは前線近くのデポ、PKOなどでの貨物の積み下ろしなどの作業用などにこれらを導入すれば。歩兵戦闘の過酷な環境下での使用も考慮する必要もなく、また充電も容易な環境で使用されるだろう。
仮に通常10名の兵士で行う作業がパワードスーツ導入によって5名に減れば、人件費の大幅な削減と兵站の負担の軽減に大きく貢献できる。また同様に牽引式の榴弾砲や120ミリ迫撃砲など装填や弾薬運搬用にも有用だ。通常155ミリ榴弾砲では8~9名のクルーが必要だが、それをパワードスーツ導入によって、たとえば2~3名減らすことができれば砲兵部隊にとって大きなメリットがあるだろう。
特に前線や前線近くの砲兵や兵站部門の人員を削減できれば、彼らに必要な食料や飲料水やシャワーなどの水、宿営地などが削減できる。前線までのサプライチェーンを維持するためには兵站にも兵站が必要なのだ。だがパワードスーツの導入によって最前線及び中間の兵站負担は大幅に削減できる。またPKOなどの本国を遠く離れた作戦における兵站のコンパクト化が可能となり、派遣費用を大きく削減できるだろう。
これは兵站を強化する上で、極めて大きなメリットだ。また人件費の削減にもつながり、その経済効果も大きい。人件費が防衛費の約4割を占めるわが国では魅力的だろう。浮いた人件費分予算を減らすか、別な予算に使うことができる。
自衛隊が兵站用などで民間用の大量に採用されれば、市場が拡大し、生産効率が上がって調達単価がより下がり、民間市場でもより入手しやすい価格になるだろう。たとえば自衛隊の採用で市場が2~3倍になればメーカーの売り上げは大きく伸びるだろうし、生産が増えれば価格はさらに下がり、より普及が進む。そうなれば国内のパワードスーツメーカーにとっては追い風となり、さらなる開発が加速して国際競争力もあがるだろう。
当然ながら諸外国の軍隊でも採用が始まれば市場はさらに拡大する。このような用途であれば、たとえ軍隊向けに輸出しても民間用のトラックなどと同じ汎用品であり、武器の対象外であるので、武器輸出に対する規制を受けない。
防衛産業への参入障壁としてメトロウェザーは「入札要件が高く、単独での応札が難しい」と明かす。「取引実績のある大企業と共同応札する場合も中間コストがかかり、国の支援策も現場に浸透していないため従来からの仕組みの変化を期待する」と話す。
イノフィスは「情報の公開が少なく、ニーズが把握しにくい」と問題点を挙げた。スタートアップに向けた情報公開・交換の機会といったサポート体制を一層整備する必要があると強調した。
問題は防衛省の調達が極めて独自で難解であり、また世間の常識からずれていることあります。
まずできるのは専門商社と組ませることです。無論手数料はかかりますが、自社でやるよりも専門商社を窓口にしたほうが圧倒的に楽です。無論商社任せではなく製品の説明などはメーカーが積極的にやるべきです。海外進出でも商社はアテになります。
ただ、たちが悪い専門商社もいるのでそのスクリーニングが大変です。本来防衛省で専門商社のデータベースを作っておくべきです。
防衛省はメーカーに比べて商社を低く扱っています。防衛産業振興という場合殆どがメーカー対象です。業界団体である防衛装備工業会は商社は正会員になれません。そのくせ見本市のアテンドとか商社に頼らないとなにもできない。
また防衛省の研究の目利きが必要です。基礎研究と装備化に向けのての実証研究、装備化を前提の開発を峻別して、将来の世界の軍事技術の発展と、我が国が何をつくるべきかという視点で審査をできる第三者機関が必要だと思います。
根源的な問題は防衛省の入札や契約の煩雑さの解消です。それと入札のいい加減さです。特に空自の需品で多いのですが、「同等それ以上」という文言を悪用して、現場が欲しいアイテムを明記しているのに、インチキ商品を安く入れて入札をとる悪徳業者が横行しています。特に空自に多いから組織に問題があるのでしょう。
例えばミステリーランチの27リットルの「ツーデイ アサルト バックパック」と指定されており、入札業者がそれを応札しているのに、別の業者が27リットルの別なバックパックを半額ぐらいで提案して取ってしまうわけです。
現場は理由があって特定のモデルを指定しているわけです。例えばこれがY字型ジッパーを採用して云々と細かく指定してそのようなインチキができないようにすべきです。
入札の公平性を担保するための「同等あるいはそれ以上」というのは、本来例えば単三電池のようなものに使うべきです。どこのメーカーでも似たような性能だからです。
更に申せば、正規の輸入代理店を通した製品であることを明記すべきです。昨今の海自の短機関銃の調達ではそのような明記がありましたが、実際現場ではあまり使用されていません。このため製品の数を確保しないまま、落札したらAmazonとかで並行業者から調達するとかがあります。この場合問題なのは製品が軍の放出品だったり、欠陥があった場合に交換やリコールができないことです。
特に銃器などで米国の市場から買った場合、メーカーの最終使用者証明書も取れずメーカーの保証が受けられない場合もあります。
富士学校に納品されたタクティカルライトが盗品だったり、空自の採用した暗視装置の光電管がロシア製で極めて寿命が短かったりなどもありました。
きちんと仕様書を書ける人間の育成と、インチキの「同等ないしそれ以上」を排除する仕組みが必要です。実際需品ではこういうクズのような業者が少なからず存在します。こういう業者を調達から排除する仕組みも必要です。
かつては国防総省傘下の国防高等研究計画局(DARPA)が技術開発を一手に担っていた。今は新興技術の新陳代謝のスピードに後れを取らないように官民の共同研究にも力を入れる。
これは嘘。
DARPAは昔から目利きをして金を出す組織です。自身で研究開発をやりません。このような目利きこそが必要ですが防衛省や自衛隊にはそれができる人材がいません。
だから不要でもやりたい研究、絶対装備に結びつかない無駄な研究、防衛省でもできる研究で税金を浪費してました。
そもそも海外視察をご褒美としか思っていなかった組織で、まともな目利きができる人材がいるわけ無いでしょう。
慶大の森聡教授は「米国は複雑な許認可制度や手続きの遅さ、不透明さを改めてきた。意思決定を迅速にし戦略的投資で民間投資を誘うなど体力の弱いスタートアップと協力しやすくした」と指摘する。競争入札なしで契約できる制度もある。
米国は国防総省や中央情報局(CIA)がスタートアップを資金面で支える。ドイツや英国でも政府が資金を投じて企業を育成する体制があり、日本も参考にする。
多分無理ですよ。ご案内のようにそういう目利きができる人材がいないし、失敗を極端に恐れる組織風土がありますから。更に申せば天下り受け入れる既存の防衛産業が優遇されますから。
日本では軍民両用の「デュアルユース」技術の活用に慎重な意見が多かった。
ソニーは日本の誇る軍事企業です。ソニー自体は否定していますが、世界に光学電子センサーを「汎用品だから」と言い訳して荒稼ぎしてきたのはソニーです。そしてイスラエルやロシア、中国にも売りまくってそれが戦場で使われてきた。
ソニーは自分たちは平和企業ですという顔をしていますが。
それを政府も防衛省も等閑視してきた。
実はキャノンが同様のセンサーを開発して、その用途を民需に絞りたいからキチンとしてくれと経産省に相談したらソニーが慌てたという話も聞こえてきます。
実際に世界で成功している、パナソニックや帝人、YKKなどのケースを防衛省や経産省はキチンと研究、把握すべきです。対してなぜ国内防衛産業がだめなのか。
長年そういうこととをやると言ってきてできないのが防衛省です。
【本日の市ヶ谷の噂】
世界三大海軍の一つを自称する威風堂々の我が帝国海軍海上自衛隊の護衛艦では定員にはいっている医官が乗っていないのは当たり前で、イージス艦ですら乗員の充足率は6割程度、との噂。
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東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
海上自衛隊の潜水艦メーカーは2社も必要あるか川重の裏金問題で注目される潜水艦の実態
月刊軍事研究8月号に防衛省、自衛隊に航空医学の専門医がいないことを書きました。
軍事研究 2024年 08 月号
Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。
- 「敵に手の内をさらさない」という防衛省、自衛隊の「敵」は国会と納税者か
- 新聞各紙 残念な防衛関連の未検証記事
- 日本の報道の自由度が低いのは記者クラブのせい
- 次期装輪装甲車、AMV採用を検証する その2 AMVのライセンス生産によって日本の装甲車事業は壊滅する
- 次期装輪装甲車、AMV採用を検証するその1 駿馬を駄馬に落とす陸自のAMV採用
東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2024年7月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。