老後を迎えても老後資金を使えない日本人

黒坂岳央です。

老後に備えて貯めた金融資産は80歳を超えても1-2割程度しか減少していないという、という衝撃の記事が日経新聞に掲載された。

アメリカで大ベストセラーになったDIE WITH ZEROという書籍があり、消費が旺盛なアメリカ人でも似たような状態が起こっており、「いかに若い時期にお金を有効に使うか?」という議論が広がったことがある。この記事はその日本版だ。やはり、節約、節制志向の日本人は状況はより顕著だったようである。

なぜ老後にお金を使えないのだろうか?

kazuma seki/iStock

意欲と体力がない

人間は加齢とともにお金から引き出す力が失われていく。それは主に2つの理由によるものだ。

1つ目は意欲だ。人間の脳は記憶力や計算能力が加齢で衰えるという印象がある。しかし、真っ先に衰えるのは感情や意欲を司る前頭葉だ。前頭葉が萎縮すると、感情が抑えられなくてみっともなく人前でブチ切れる「感情失禁」を起こしたり、逆に無気力で枯れてしまう。前頭葉の萎縮を止める一番いい方法は仕事や読書ではなく、「新しい挑戦」である。

しかしもう1つの理由がそれを阻む。すなわち、体力の衰えだ。新しい挑戦をするために、たとえばこれまで行ったことがない地球の裏側へ長期滞在をしてみようと考えても、長期フライトや異文化に耐えるだけの体力がないのだ。体力はすべての行動の源泉であるが、その体力がなければ新しい挑戦はできない。

老化するとお金を使えない。いや、使うだけの力がないのだ。

高齢者という自覚がないお年寄り

過去記事、自分の年齢を自覚できない大人たちで書いたが、誰がどうしてもおじいさん、おばあさんなのに本人は「まだまだ若い」と自分の年齢を正しく自覚できない人は少なくない。これは高齢者だけではない。中年の立派な大人でも、まるで中学生のような未熟な精神や人格を全面に出してしまう人もいる。

高齢者が年齢を冷静に自覚できないと、いつまでも「老後の備え」をしてしまう。過去、実際のケースでは「老後が心配だから」と70半ばになっても節約して一切お金を使おうとしないお年寄りもいた。

「老後もなにも、今とっくにその老後が来ているではないか」とは言えなかった。本人にはまるでその自覚はなく、いえば気分を害するのは明らかだからである。そして死ぬ直前になり、自分はとっくにその段階に足を踏み入れていたということに気付かされるのだ。しかし、もうその時にはお金を使うことなどできない。

積立プランと取り崩しプラン

以上の理由から、多くの人は死ぬ直前に最もお金持ちになってしまうということが明らかになった。ではどう対策すれば良いのだろうか?

昨今、NISAブームなどであちこちで「長期積立投資」が人気を博している。とにかく節約をして将来の資産を最大化するぞ!と鼻息荒く取り組む人もいる。

問題はこの取り組みには終わりがないことだ。だから「取り崩し」も考える必要がある。仮に100歳をゴールとして、今の年齢を逆算すればどのくらい使えるかが明らかになる。そしてその際、ゴール付近の金額を高く見積もり過ぎないことだ。年を取って体力が衰えれば、望む望まずともお金を使えなくなるからだ。

そしてさらにもう一歩進めたい。すなわち、何に使うか?である。最も理想的なのはDIE WITH ZEROでも提唱されていた「思い出に使う」だろう。自分は明日死んでも悔いはないよう、毎日意識して実践している。多少忙しくても、効率が悪くても余暇時間は子供とも思い出作りに全力投資である。仮に数日後に自分がこの世から消えても、子供には残る。

子供はあっという間に大きくなる。就職で独立するタイミングを待たずして、思春期を迎えた時点で親は相手にされなくなる。親子の濃密な時間のタイムリミットは、せいぜい12歳か長くて14歳くらいで大変短い。そう考えると親にとって最も優先順位が高い活動とは、何より子供との思い出を作ることなのだ。

「将来への備え」という言葉をよく聞くが、「今すぐ決断や行動するのが面倒くさいから」「今を犠牲にする免罪符」という実態になっているケースを本当によく見る。客観的に見て知的水準が高い人でも、この過ちを犯している。しかし、立ち止まって考えるべきだ。今を犠牲にして将来へ先送りしても、今度は将来をさらに先の将来へ先送りしていないだろうか?

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。