行政書士が「社労士資格も取れ」と後輩に教える歴史的背景(横須賀 輝尚)

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大企業に勤めていても副業が推奨される今、起業に興味を持つ人は増えています。そんな中、常に注目されているのが資格の取得。

すでに資格を持っている人はもちろん、資格を取って独立したい人や資格に興味がある人に必読のQ&Aを、経営コンサルタントで士業(特定行政書士)でもある横須賀輝尚氏の著書『資格起業バイブル』から、再構成してお届けします。

行政書士の資格だけでは成功できない?

Q:行政書士の資格だけでは成功できませんか?たくさん資格があれば成功できますか?

行政書士の資格を持っているのですが、先輩行政書士から「社会保険労務士も持っていないと話にならないよ」といわれました。本当に行政書士だけでは成功できないのでしょうか? また、資格はあればあるほどワンストップサービスなどもできて有利かと思うのですが、資格はたくさんあったほうがよいのでしょうか?

まずは「行政書士の資格だけでは成功できないのか?」という質問ですが、そんなことはありません。行政書士だけで成功している人は全国に大勢います。私自身、セミナーで全国を回り、多くの行政書士に会いましたが、行政書士の実務のみでも成功している人は多数いらっしゃいます。したがって回答としては「行政書士だけでも十分成功できる」ということになります。

では、なぜ「社会保険労務士も取ったほうがいいよ」といわれるのか。実際にこういったアドバイスをしてくださる先輩士業の先生も多いのですが、これは1980年8月末の時点で行政書士登録をしていた人は、社会保険労務士の独占業務である書類の作成を認められているという歴史的背景があります。つまり、過去行政書士と社会保険労務士は、ある意味では密接不可分な関係だったのです。

そのため、行政書士だけではパズルのピースが不足しているように感じる人も多く、結果として「社会保険労務士も取ったほうがよいよ」というアドバイスにつながるわけです。

しかしながら、結局のところ社労士の仕事が必要であれば、社労士との提携関係をつくれば解決するわけで、ビジネスの成功確率は資格の数と比例するとはいえません。

資格を多数取ることは、目に見えるレベルアップであり、その感動も代えがたいものです。そのため、資格を取れば取るほど自分自身が成長し、誰にも負けないアドバンテージを持ったような気になってしまうわけです。しかし、多数の資格を取ったからビジネスでも成功するかといえば、そうとは言い切れません。

資格複数保持者の憂鬱

まず資格を多数取るということは、それだけ時間と労力がかかります。行政書士、社会保険労務士、税理士、司法書士と取得しようと考えれば、稀代の天才を除けばどう考えても5年以上かかります。試験には「ツキ」もありますので、望んでいなかったとしても10年以上かかってしまう場合もあるでしょう。ですから、これから複数の資格取得を考えている人は、「時間を膨大に使う」という認識を持ってください。

そして本題の「複数の資格を持っていれば成功できるか?」については、「ビジネスの成功確率」という点で考えれば資格取得数と成功確率は関係しません。問題は、「多数の資格を持っていることが、成功確率を高めるか」ということですが、複数資格保持者には有利になる点と尽きない悩みがあります。

有利になる点は、いわゆるワンストップサービスが可能になることです。

一度依頼をもらえば、関連する仕事はすべて自分の事務所で受けることが可能になります。司法書士として会社の設立手続きを受ければ、社労士として社会保険・労働保険の手続きをし、そして税理士として顧問になるのです。ひとりで事務所を経営する間はキャパシティの問題もあるので限界も早いといえますが、1回で取れる仕事は大きくなりますし、また組織化ができれば事務所の拡大も可能でしょう。

一方で、デメリットもあります。

資格の保持数が多ければ多いほど、他士業からの紹介率は下がります。これはおおむね取得した資格の数と比例すると断定してもよいでしょう。たとえば、行政書士が社労士に仕事を紹介する場合、暗黙の了解として「行政書士の仕事も紹介してほしい」という気持ちの伝達があります。特に、他士業間での仕事の紹介発生率は非常に高く、開業間もないうちはそういった紹介は重宝するでしょう。

このように、複数の資格を保持するワンストップサービス事務所は、営業面で他と連携せずに独自に行うことが求められます。シビアに聞こえるかもしれませんが、もしあなたが誰の力も借りずに、自分の力だけで成し遂げたいと決意していたら、複数資格を持って事務所経営をするのも決して悪いこととはいえないでしょう。

そもそもの目的を忘れてはいけない

しかし、それ以上に重要なことがあります。それは、そもそもの「目的」です。

もし、あなたがさまざまな資格を取って、ワンストップサービスの事務所を創業することを当初の目的とするのであれば、あなたにとって複数の資格は必要なものといえます。この場合は自分にとって必要な資格を取っていけばよいでしょう。

これに対して、「資格がひとつだと心配だからもっと資格を取る」「先輩にアドバイスされたから資格を増やしたい」というのは、本来の目的を忘れてしまっています。

そもそも、あなたは何のために資格を取ったのか。どんな仕事をしたかったのか。こういった「目的」や「目標」を忘れてしまうことで、他人の意見にも左右されやすくなるのです。

もし迷ったときは、「なぜその資格を取ろうと思い、その資格を取ったのか」という原点に返って考えてみることが重要です。前述のとおり複数資格の事務所のビジネスの成功確率は、資格の数との関連性はありません。ぜひ、あなたの意思を尊重して、決断してください。

横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年7月10日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。