先ほど、8月2日の日曜日の午前に放送されたTBS「サンデーモーニング」という番組で、ジャーナリストの青木理氏が発言しました。以下は、その内容に少し周辺情報を付け加えたものです。
10年近く前、オバマ大統領は核廃絶を目指し、ノーベル平和賞を受賞した。彼の取り組みは、その第一歩として重要な意味を持っていた。アメリカは「非核国には先制攻撃しない」「核弾頭付きトマホークを使用せず、倉庫に保管する」といった方針を採用し、冷戦時代の米ソが威嚇し合って緊張を高めた時代とは完全に逆行しようとした。核兵器の威嚇力を低減させることで、核保有国の増加を防ぎ、核の削減に努めたのです。
日本政府はその方針を聞きつけ、「日本の安全が脅かされる」「抑止力が損なわれる」と反対しました。これは日本の死活問題につながる”当然のお願い”なので、恥も外聞もなく米国議会や関係者に働きかけ、その方針を撤回させる一役を担った。
この青木氏の発言内容は、実は私が9年ほど前に報道したことです。素晴らしいジャーナリストがやっと証拠を集め、NHKスペシャルが昨年報道しました。しかし、他の日本メディアは後追いもなく、報道は当時も今もほぼありません。当時はワシントンでニュースになり、さらにエコノミストなどが報じた。そのため、日本以外の世界は知っていますが、日本のメディアがあまり報じないせいか、多くの日本人は未だに知らないようです。
おそらく、核廃絶を念仏のように唱え続ければ何とかなると信じているのでしょう。現実の国際政治や安全保障の原則にあまり関心がなく、学校でも教えられない。日本国民の多くは自国政府の「水面下の動き」にも大した興味がないのでしょうか。
一方、その前日の土曜日、抑止力を妄想だとする「平和ボケ」論者である鬼澤氏に対して、青木氏がTV番組で言ったのと同じ内容を、私はたまたま教えました。鬼澤氏は、比国・NATO・太平洋諸国など友好国との関係を深め、無人島の要塞化、米国との合同プロジェクト開始など、日本政府が必死に努力している台湾有事に関する中国への抑止力増強は間違いであり、それを大枠で基本的に支持する私たちを「平和ボケ」だと主張しました。
しかし、過去100年近い歴史を見れば分かるように、抑止力は破綻もあるが、妄想ではなく厳然として存在する。世界の安全保障の専門家と話せば分かるように、過去80年近い日本の平和は米国の「核の傘」によって守られていると言えます。上述のオバマ政権への”正当な働きかけ”が、その証拠の一つです。これは世界の常識です。
私は憲法9条などを作って日本に押し付けたGHQケーデイス大佐と、複数回対談しました。9条や「絶対平和主義」は、日本の過去の侵略戦争を防ぐためのものです。(20年後、彼は”独立国”日本がまだ変えていないことに驚いた。既に5年後くらいには9条押し付けを米国が後悔したという論もある)しかし、中国などによる日本への軍事行動は、9条では防げません。かえって攻撃しやすくなるだけです。
さらに戦わない「戦争放棄」政策は、非民主主義・権威主義・専制主義国家による日本への侵略抑止には絶対になりません。平和国家と言えば聞こえは良い。だがかえって中露朝などが喜ぶだけです。核を含む抑止力こそが、それを防ぐのです。これこそ抑止力の典型です。
上述した日本の核抑止を強める動きや、米国の核に対する依存度の高さは世界の常識です。ただ、日本人の多くはそれを知らないだけです。
さらに、これまでの米国と違い、世界の民主化や同盟国重視の方針にあまり興味がない指導者であるトランプが再選される可能性が高まっています。その場合、過去80年近く米国の核の傘に依存してきた日本がどうなるか。誰も止められない世界の多極化、深刻な国内問題を抱える米国の全体的な国力減衰、露中などの反米勢力の拡張。日本政府だけでなく、今まで無関心でほぼ何も考えてこなかった国民もしっかり事実を知り、考えて議論する時期が来ています。
ここで重要な論点を付け加えます。今回のニュースの一つで、外務・防衛閣僚会議2+2により、在日米軍に日米統合軍司令部を設けて、指揮系統を連携することになりました。これは、日本が自国防衛に対して腰が引けている米国を見て、”当然ながら”日本が”お願い”したものです。これまで事務レベルだったのが「閣僚レベル」に引き上げられたのも、日本側の”お願い”です。
米軍自身の経費削減などによる再編成や沖縄県の大きな反対の声もあり、米国はハワイやグアムに最近拠点を移しました。沖縄の「私たちは米軍は不要。平和が欲しいのです」という言葉に代表されるように、米軍批判ばかりの日本にいても仕方がないという意見が議会など米国側にありました。しかし、ここ数年の緊張感の高まりにより、日本は自国で自国を守れないことが再確認された。日本政府の台湾有事シナリオでも、史上初のことですが、いかに米国を「巻き込むか」という考えが、盛り込まれました。
その流れで、ハワイはあまりにも遠く、日本防衛がますます難しくなる。だから日本がお願いして米軍と自衛隊が連携することになったのです。日本の”お願い”を指摘した青木氏は、実質的に自衛隊が米軍の「2軍になる」というような発言をした。現実的にそう見える局面はあるかもしれませんが、本質をあまり理解していないようです。2軍ではありません。ここ数年の米国側の考えを直接取材すれば少しは分かると思います。80年くらい前に米国は日本の侵略戦争阻止で押し付けた憲法。それを日本はいまだに修正しない。その憲法ではいまだに国防軍ではない自衛隊が「1軍」でまず前線に出ていくことになる可能性が高いのです。
私は米国の駐日大使10人、アーミテージ国務副長官やハーバード大学特別功労教授のジョセフ・ナイ氏など米側担当者多数と過去30年くらい何度も対談してきた。9条を言い訳に米国防衛などしないでTVを見ている日本人(トランプの言葉)。自国防衛でも積極的に動かない日本に対して、日本防衛を一緒にやろうというのは10年くらい前までの話です。ここ数年は、「自分の国の防衛だから、まずは自衛隊が正面に出なさい。米軍は後方支援するから」という論を、数多く聞くようになりました。自衛隊は2軍ではない。内容が伴うかはまだ分からない。多分米国直接取材をしていない青木氏が理解していないが、米国にしたら自衛隊は立派な1軍なのです。昔と違う日本領土の南方作戦のやり方をみれば明らかです。トランプ大統領なら、ますますその傾向が強くなるでしょう。
トランプがいう可能性が高い「米兵の血が流れる。防衛してもらいたいなら、もっとお金をよこせ」ならまだ良いかもしれない。だが祖国防衛で女性兵士も死んでいるウクライナと違って、9条盲信で平和維持できると思い込む、自国の危機意識が殆どない日本。沖縄などの地方の反対意見が強過ぎるため、もう”どうぞご勝手に”という考えが、米側に広がっています。さらにトランプは台湾を守らないという発言もしました。「台湾有事は日本の有事」これは当たっていますが、その時、トランプ米国が動かなければどうなるか、私は考えたくもありません。
答えは一つではありませんが、戦争と原爆は悲惨で「絶対悪」だから反対・廃絶という考えで思考停止している日本人があまりにも多い。1960年、70年、集団的自衛権の時など、事実を知らない無知で感情的な反対運動はあったが、国防に関しては現実を見据えた真剣な議論そのものがタブー。「見ざる・言わざる・聞かざる」状態が過去80年近く続いてきたのです。
安倍氏が国会無視で押し切った集団的自衛権。世界の軍事同盟では例外なく当たり前のこと。有事の時は、お互いに血を流して守り合う。人類史上、それが軍事同盟で一丁目一番地です。日本だけ9条言い訳、基地提供で許されてきた。冷戦時代、世界の民主化に燃えていた米国、いまやイラク・アフガン戦争などの失敗もあり、余裕がなくなった。さらに自国第一主義の米国はもう許容できない可能性が高い。
ついでに言えば日本人がよくいう「専守防衛」。敬愛する専門家、渡部 恒雄氏が以前言ったように、「そんなものは日本だけ」。私が過去約40年言ってきたことです。日本のことに関する議論で、この言葉が出ることが例外的にあるが、ワシントン、国連、NATOなどでの、一般的な安全保障に関する議論に出ることはない。「専守」などどこで一線引くか分からないし、日本以外で意味がないからだ。だがその専守防衛で平和が維持できると思い込んでいる日本人が、いまだに多いのには驚きます。
さらに米軍が「鉾」、自衛隊が「盾」。これも意味などありません。
半世紀近く米国を直接取材、ワシントンで定点観測してきた私は感じます。昔の米国人は世界の民主化を語る時、目に力があった。燃えていた。最近は違う。国内問題、分裂で余裕などない。
唯一の被ばく国として核廃絶を目指す日本。核は間違いなく「悲惨」で、可能ならば廃絶できれば良いという主張に100%反論はないはず。
また8月6日がやってきます。岸田首相は歴代の総理や広島市長が毎年行う恒例行事として「核無き世界」に向けたメッセージを読み上げるでしょう。
ヒロシマ被ばく2世の野口修司