「待てない現代」に待つ力の価値

黒坂岳央です。

テクノロジーが進化し、便利になる代償として現代人は「ある力」を失っている。それが「待つ力」である。

マサチューセッツ大学が670万人のネットユーザーを対象に調査したところ、大半のユーザーはコンテンツの読み込みを待つ時間はたった2秒しかなかった。また、マイクロソフト社の研究チームの調査では現代人の集中力は8秒しかなく、金魚の集中力以下となっている。

人生では数多くの「待つべき局面」がある。しかし、待てずに勇み足で行動を起こして損をしてしまう人は少なくない。そんな「待てない現代」に待つ力、言い換えれば忍耐力を持てば非常に高い優位性を持つことができるだろう。

Xavier Arnau/iStock

投資における「待つ力」

先日から金融市場に危機や不安が広がっている。詳しい内容についてはエコノミストに譲るとして、新NISAでデビューしたばかりの初心者投資家の間で不安や怒りが広がっているようである。「こんなはずではなかった」という声も見られる。

しかし、冷静に考えてみればこの制度は元々、超長期スパンでの運用が前提だったはずである。そしてサラリーマンが給与の一部を日本株へコツコツ積み立てるという想定であるなら、投資を始めたばかりのタイミングで大きく下落した人にとっては今回の下落は損どころか大変有利なはずだ。

その逆にずっと調子良く上がり続けて、いざ取り崩しのフェーズで大暴落する方が遥かにまずい。こっちは年齢的にもう再起不可能になってしまう。投資デビュー直後に下落したなら、ここから安く買い進めていける(もっとも、今後も上昇する前提は必要だ)。

資産運用を始めた人なら「長期投資」というキーワードを見たことがない人は誰一人いないはずだが、元々長期で始めたのに、実際にスタートすると超短期視点でしか考えなくなってしまうのだ。これは待つ力がないからこそ起きる心理変化である。

育児における「待つ力」

育児をしていて感じるのが「信じて待つことの重要性」である。自分自身を教育するのは、良くも悪くもマイペースでできる。早く伸ばしたければ、1時間勉強や訓練をするより、8時間する方が伸びるのが早いのは言うまでもない。寸分惜しんで本を開いて勉強をすれば、「待ち」の要素は小さくできる。

しかしながら、育児はそうはいかない。長男は年齢の割にかなりしっかりしたことをいうので、自分は日常的にかなり難しい政治や経済、ITの話をしている。しかし、「え?あの難しい話が理解できるのに、この話はわからないか?」と時々ギャップに驚くことがある。まだまだ精神的に幼い子供なのだ。

また、図や絵を書いてロジックで説明して理解できても、実感として入らないこともよくある。そんな時は無理に頭を押さえつけて理解させようとせず、「この子の成長を待つ」というスタンスでいる。

だが親の中には「待つ力」が弱い人も少なくない。子連れで外に出ると、必然的に子供が多いスペースで過ごすことになるのだが、周囲に人がいるのに子供に激しく怒りをぶつけて「なんでわからないの!」と激昂する親を見ることがある。どうやら、以前説明したのに同じ過ちを繰り返したということに怒っているらしい。しかし、子供には子供の成長ペースがある。気長に何度も説明をして精神的な成長を待つしかない。いつかわかる日が来ることを信じて。

人間関係における「待つ力」

最後は人間関係である。人間関係は基本的に相手のペースに合わせるしかない。それが複数人で行動するという意味である。

学校や園で保護者が行事や手伝いをすることがある。そのオペレーションをリードするのはあくまで普通のパパ、ママがやるので正直、かなり効率が悪いと感じることも少なくない。

内心では「こうやったほうが断然早いな」と思っていることもあるが、みんな楽しそうにおしゃべりしながら作業をしているので自分は何も言わない。少々非効率でも、周囲のペースに合わせるようにしている。

だが、どうしてもという時は提案することもある。あくまで雰囲気を壊さない程度に「現在の情報伝達は紙や口伝ですが、このアプリで管理すると楽ですよ」と提案することで歓迎されたこともある。でも、基本的にはあまり口を出さないように意識している。「自分が自分が」となるとムダにイライラしてしまうし、周囲の雰囲気も悪くなる。これもある意味で、待つ力だと思っている。

会社で働く仕事だと話はまったく変わるが、これについてはわずか数年間の付き合いなので、自分が待つことが全体的に考えて合理的な戦略になると思っている。

現代人はドンドン待てなくなっている。確かに待つより行動を起こす方が有利な場面は少なくない。だが、この現象はスピーディーになったというより、「忍耐力が落ちている」という劣化を指摘する方が正しいだろう。大衆の逆張りがワークするという本質を考えるなら、現代こそ待つ力に優位性があると考えるのだ。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。